ホワイトハウスが選んだワインは、日本人女性が造ったシャルドネ
去る2015年4月28日。安倍首相をゲストに迎え、ホワイトハウスにて公式晩餐会が華やかに開かれた。オバマ大統領をはじめとするホスト側が意識したテーマは、当然のことながら”日本”。乾杯は、安倍首相の地元山口県の獺祭・純米大吟醸。シェフは『アイアンシェフ』で知られる日本人の森本シェフ。そして、マグロのトロ、アメリカ産和牛や豆腐など日本を意識した食材をベースにした料理とともにふるまわれたワインは、カリフォルニア産のシャルドネだった。
実はこのワインが、カリフォルニアで唯一の日本人女性ワインメーカー、アキコ・フリーマンさんが生み出した「フリーマン・ヴィンヤード Ryo-fu シャルドネ 2013」だったのだ。
フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー アキコ・フリーマンさん
2016年3月に来日したアキコさんにお話をうかがいながらテイスティングを体験した。まずはアキコさんのワイナリーの紹介からはじめよう。
リンゴ畑をブドウ畑に変えた「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」
フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーの美しいエントランス
グロリア・エステートの地図
フリーマン・ヴィンヤードのワインをテイスティング
今回は晩餐会に出されたシャルドネのみならず、ピノ・ノワールをテイスティングした。フリーマン・ヴィンヤードには評判の高い3つのピノ・ノワールがあるのだ。こちらのエレガントさも見逃せないので、あわせてご紹介しよう。2014 フリーマン Ryo-fu シャルドネ ロシアン・リヴァー・ヴァレー
「Ryo‐fu」とは「涼風」。太平洋から冷たいそよ風が吹き込むカリフォルニア、ソノマ、ロシアン・リヴァー・ヴァレーAVAの最西端で育つシャルドネから造られており、この立地がまさに「涼風」を生み出す場所といえるのだ。
完熟しながらもきれいな酸を残したシャルドネを日の当たらないうちに収穫する。丁寧な発酵作業の後、フレンチオーク新樽8%、フレンチオーク旧樽92%の割合で14ヶ月熟成させボトリングする。
2014年ヴィンテージをテイスティングすると、完熟グレープフルーツのようなフルーティさ、樽熟成からくるナッツのような香ばしさが上品に香る。味わいは完熟果実の甘さと味わいをぐっと引き締める心地いい酸味のバランスがとれ、奥ゆかしさとエレガントさを兼ねそなえ、香ばしい余韻が長く残る。カリフォルニアワインにありがちな酸味が少なく果実味優先の、また樽熟によるスモーキーさが際立ったボリュームタイプとは全く違うタイプ。
ブルゴーニュを好むアキコさんの個性がそのままワインに生かされているようだ。ヴィンテージは違うが、これがホワイトハウスで飲まれた味わいかと少々感嘆。
2013 フリーマン ピノ・ノワール ロシアン・リヴァー・ヴァレー
フリーマンの自社畑「グロリア・エステート」をはじめ5つの畑のピノ・ノワールを使用して造られるワイン。寒暖差のある畑で生まれるピノ・ノワールは、明るく透明感のある美しい色合いで、フランボワーズを思わせる甘酸っぱく穏やかで控えめな香り。わずかに樽からくる香ばしいフレーヴァーが楽しめ、口に含めばきめ細やかで滑らかなタンニンと全体を引き締める酸味、十分な果実味が将来性を感じさせてくれる味わい。
2013 フリーマン グロリア・エステート「輝」ピノ・ノワール ロシアン・リヴァー・ヴァレー
ワイナリーに隣接しているリンゴ畑の跡地だった自社畑「グロリア・エステート」100%のワイン。グロリアとは、1985年にケン・フリーマン氏とアキコさんが出会いのきっかけとなった「ハリケーン・グロリア」から名づけられている。
フリーマン・ピノとしては比較的濃いめの色合い。まだ若く閉じた印象だが、完熟ブラックベリーのような濃厚な甘酸っぱさを感じる香り。きめ細かいタンニンと凝縮感のある果実味と全体を引き締める酸味があり、樽からくるビスケットのような香ばしさが若々しく魅惑的な味わい。
飲み頃はたぶん10年後以降。今は若さの輝きがあるけれど、10年後には輝きに磨きがかかり、おいしさのピークで神々しい輝きを迎えるだろう。
2013 フリーマン アキコズ・キュヴェ ピノ・ノワール ソノマ・コースト
2002年の初リリース以来、毎年行われているのが熟成中の樽ワインをスタッフがブレンドし、それをブラインドテイスティングして評価しあうこと。不思議なことに、ほぼ毎回アキコさんのブレンドがベストブレンドになることから名づけられた、いわゆるAKIKOブレンドの1本。
2013年は7ヶ所の畑からのピノ・ノワールがブレンドされている。熟成は、フレンチオークで11ヶ月。 33%新樽、24%1年使用樽、 29%2年使用樽、14%3年使用樽の割合。
輝きと透明感のあるルビーカラー。完熟フランボワーズ、ブラックベリーの香り、ヘーゼルナッツやブリオッシュのような香ばしさ、ミネラル感と森の木々の香りが楽しめる。ほかの2種のピノ・ノワールよりもぐっと凝縮感があり、リッチで果実味がある印象。今は若々しさを楽しめるが、10年先あたりからは複雑味と円熟味が増し、ブルゴーニュ古酒ファンの心を揺さぶるワインになっていることだろう。
アキコさんのワインに、アキコが料理を提案してみる
テイスティングをしながら料理とのペアリングを考える
「Ryo-fu」は、クリームやバターに魚介出汁の旨味とレモンの爽やかさをプラスしたシーフード料理。ホタテや白身魚、エビやイカ、カニなどの甲殻類のソテーがいいだろう。鶏肉や豚肉料理にも対応できる白ワイン。鶏のクリーム煮、豚のしゃぶしゃぶなど和食とももちろんいい。
Wアキコで記念撮影(左:アキコさん、右:筆者)
「アキコズ・キュヴェ」は、お肉。牛肉。それも繊細な和牛。旨味凝縮のローストビーフの辛子添えや軽いソースのステーキがワインと料理のピュアなおいしさを堪能できる。熟成したら和牛のたたき、新鮮なマグロや貝類のお造り、お寿司にも合わせたい。もちろんブルゴーニュスタイルで鶏の赤ワイン煮込みも本格的でかなり素敵だ。
フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーの貯蔵庫