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ハースストーンに学ぶ納得できるガチャ(3ページ目)

モバイル端末向けゲームにおける、ガチャによる課金誘導の手法が社会的な問題になりつつあります。ガチャとゲームはどのように付き合えばいいのでしょうか? 米国のゲームメーカーBlizzard Entertainmentが手掛ける「ハースストーン」は、ユーザーが納得できるとても良い仕組みをいくつも備えていて、大変に参考になります。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

ゲーム業界ニュースガイド

お金を払った分のいいことはあるけど、Pay to Winではない

悔しがるユーザーの図

「悔しい!もう1回!」というのを、ガチャで言わせるのか、ゲームで言わせるのか(イラスト 橋本モチチ)

ハースストーンにおけるガチャの構造を説明してきましたが、さらにもう1つ非常に重要なことがあります。それは、ゲームを楽しく遊ぶ上で、どのくらいの課金が必要になるかという、ゲームシステム側の要求についてです。

救済タイマーがあっても、魔素があっても、まともにゲームを遊ぶには膨大な数のレジェンドを手に入れなければいけない、というのでは話が変わってくるのです。

ハースストーンでは、手に入れたカードを組み合わせて30枚を1セットとし、これを自分だけの山札にして戦います。多くのカードゲームではこれをデッキと言います。ハースストーンのデッキには同じ種類のカードは2枚までしか入れることができず、また、レジェンドに関しては1種類につき1枚しか入れることができません。つまり、使いたいレジェンドのカードがあったとしたら、それは1枚手に入れれば十分ということでもあります。

また、必ずしもレジェンドがなければまともなデッキは組めないということでもありません。ハースストーンでは、魔素に換算した時にどのくらいのポイントが必要になるかで、デッキを作る為の労力をはかりますが、レジェンドを使わず少ない魔素でも戦えるカードの組み合わせだってあります。30枚の戦略やバランスこそが重要で、逆にレジェンドさえたくさん入れれば勝てるかと言えば、全くそんなことは無いのです。

もしあなたがゲームを始めてすぐに世界大会で上位になるような人と同じデッキを作りたいと思えば、おそらく2、3万円も課金すれば即座に作れてしまうでしょう。ただし、だからあなたが世界チャンピオンになれるかと言えば、それは全くの別問題です。そこから先、5万円かけても10万円かけても勝敗にあまり影響は無く、それよりもプレイヤースキルの方がずっとずっと重要な実力勝負の世界となります。

一方で、ハースストーンは無課金だと、なかなか遊ぶのに苦労するかもしれません。もちろん、無課金でも本当にじっくり遊べば少しずつカードはたまっていきますし、ハースストーンでは基本的に実力にあわせて対戦のマッチングがされるので、弱い人は弱い人なりで勝ったり負けたりで楽しめます。しかしそれでも、始めたばかりのカード資産が少ない時期は、ある程度のカードが揃っているプレイヤーに一方的に負けることもあって、ハースストーンの面白さを実感しにくいかもしれません。

課金せずにカードを手に入れるには、ゲーム内通貨のゴールドが必要ですが、ゴールドを手に入れるには多くの場合対戦で勝つ必要があります。そういう意味で、必ずしも無課金で遊ぶ人にやさしいゲームではありません。

ハースストーンでは、ガチャ以外にもカードを手に入れる方法が用意されていますが、そういったものも含め、ガイドの私見では、数千円課金してしまえば、ある程度カードを揃えて、デッキを組む楽しみもありつつ遊べます。こうなるとモチベーションもあがるので、毎日触っているうちにゴールドがたまっていってさらにカードが増えていく、という循環を作りやすいように思います。

無課金でも遊べますが、必ずしも無課金の人にやさしい作りとは言えません。数千円課金すれば楽しく遊びやすくなります。いきなり上位の人と同等のデッキを作ろうと思えば、2、3万程度で作れます。そして最後に勝率を分けるのは、知識や経験、論理思考に勝負勘といったゲームに対するプレイヤーの能力です。

よく、無課金でも遊びやすいゲームが良心的、と言われることがありますが、ガイドはその考え方に少し疑問を持っています。多くの人が無料で遊ぶということは、その分、一部の人からたくさんお金をとらなければ成り立たないということでもあり、極端な課金を誘導する環境に流れやすくなります。本来なら、ゲームが面白いと感じてもらったたくさんの人に、納得した上で、相応の金額を支払ってもらう、というのが健全であるはずです。その点において、ハースストーンは相当上手くいっている例ではないかと思います。

Pay to Winという言葉があります。支払った方が勝つ、という意味で、たくさん課金したプレイヤーに勝利をもたらすゲームに対して言う言葉です。ハースストーンは課金をしたユーザーに課金をした分のいいことがあるように丁寧に調節しながら、なおかつ最終的にPay to Winにはならないように作られています。それによって、ユーザーの興味はガチャの確率よりもゲームの攻略に向けられ、早く戦略を試したい、色んなデッキで戦ってみたい、そういう人が課金をしてカードを集めることになります。

メーカーが開発や運営にたくさんのお金をかけている以上、とにかく安く無料で遊べるべきだ、ではゲームは成り立ちません。しかし、大事なことはお金を払ったユーザーが納得して、満足して、そしてゲームを楽しむことでしょう。そういった課金とゲームの関係を考える時、ハースストーンはとても良くできていて、参考になるヒントがたくさんあるように思います。

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