この肉体は舞台の上で、人にメッセージを
届ける“媒体”
『SHOW-ism7 ピトレスク』写真提供:東宝演劇部
「ありがとうございます(笑)。ミュージカルにいらしたお客様が求めていらっしゃるのは“この人、歌うまい”とかじゃなくて、“そのキャラクターが何を感じているか”だと思いますので、常にその思いが伝わるようにと思っています。
『マンマ・ミーア!』では、英国からいらした演出家に“歌や踊りがうまいね、と思われないようにしてください”と言われました。俳優って普通、そう思われたいものじゃないですか。でもそれを超えて、“見てると簡単そう、私にもできそう、と思われるようにやってください”と。それはすごく難しいことだけど、それができたら本当にすごいな、と思いました。“今、私踊ってます、歌ってます”じゃなくて、ドラマの流れの中で自然に居るように見える、そういうふうに見えたら、と。そこが私たちの目指すべきところなのかな、という気がしますね」
『ヴェローナの二紳士』写真提供:東宝演劇部
「自分が役をやるということに関しては場所が変わっても何も変わらないと思っていましたが、環境は違うし、例えばご一緒させていただく方も変わりますし、自分のそれまでのキャリアは関係なく“今のあなたはどうなのか”が問われるわけで、組織に守られずに一匹狼でやっていくぶん、“一つの役をやってよくなかったらその先はない”みたいな厳しい世界に出てきたんだなというのは、すごく感じました。
ただ、かつて『ウェストサイド~』の時に思ったように、自分のカラーとかは決めないでいろんな役、作品に挑戦したいな、1年生の気持ちでやりたいなと思っていましたね。実際、ひとつひとつの作品や役、それまでの土壌が違う演出家さんや共演者さん方との出会いから発見が多く、私の知らないアプローチをされる方もいらっしゃるので、いっぱい吸収したいと思います」
『ライムライト』写真提供:東宝演劇部
「世の中いろんなことがある中で、演劇は人間が生きていくのにどうしても必要な、“食べること”“寝ること”に匹敵するようなものではないかもしれません。でも心が潤ったり癒されたり、楽しいと思ったり涙を流したりというのは絶対、人間にとって必要なものですよね。そこにかかわる人間としては、何かを人に届ける、自分の肉体がその媒体になれたら、それが自分が出来ること、果たせる役割なのかな、と思います。もちろん自分のためでもあるんですけど、私が人のためにと何か差し出すことができるとすれば、今の私にとってはそういうことなのかな、という気がしています」
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30~50代のミュージカル・ファンであれば、ご自身の中の観劇史がそのまま“保坂さん鑑賞史”である、という方も多いのではないでしょうか。それほど劇団四季ミュージカルにおける保坂さんの主演頻度は圧倒的で、そんな“百戦錬磨”の彼女をして“新しい体験”と言わしめるのですから、今回の『エドウィン・ドルードの謎』の斬新さは本物!でしょう。俳優という仕事を他者に感動を届けるための“媒体”ととらえ、無心に取り組む姿勢は、どの役を演じても保坂さんに一貫している“透明感”の源なのかもしれません。その美しさに感動を覚えつつも、今回はキャスト、観客一丸となって、“深いことは考えず”、大いに楽しみましょう!
*公演情報*『エドウィン・ドルードの謎』4月4日~25日=シアタークリエ、4月28日~5月1日=大阪・サンケイホールブリーゼ、5月4日~7日=名古屋・中日劇場、5月14日・15日=福岡・福岡市民会館
*次頁で『エドウィン・ドルードの謎』観劇レポートを掲載しました!