『エドウィン・ドルードの謎』観劇レポート
“物語世界”と“演じ手の世界”が魅力的に共存する
“至福の演劇体験”ミュージカル

『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

まずは冒頭、全員が居並び、支配人役の山口祐一郎さんが「壮一帆!」「保坂知寿!」と出演者を紹介しつつ、ウェルカム・ソングを披露。続く第一場ではエドウィンが叔父ジャスパーを訪ね、彼が謎の失踪を遂げるまでの背景が描かれ始める…のですが、本編に入っても支配人は度々登場、「当劇場の看板役者、今拓哉!」と、“演じる俳優名”に、プライベートな話題を交えつつ言及します。
『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

一般的な演劇では隠される“俳優たち自身、もしくは演出家にとっての俳優たちのイメージ”が、物語世界の中に“役”と等分に存在している点が、今回の舞台の第一の特色(演出・福田雄一さん)。この手法、ミュージカルでこそ新鮮に聞こえますが、舞台芸術という枠組みでとらえれば、観劇中に役名ではなく、役者の屋号を“掛け声”という形で観客が叫んだり、演目によっては役者が互いのプライベートをアドリブで語ったりもする“歌舞伎”とある意味、同質と言えるでしょう。伝統的に物語世界とそれを演じる俳優の世界の共存に慣れた日本人としては、このスタイルは“違和感”より“親しみ”を抱かせるものらしく、客席はリラックスしつつもあたたかな手拍子、笑いで反応。それがさらに出演者たちの遊び心(?)を引き出し、場内には終始、ポジティブな空気が漂い続けます。
『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

このコンセプトにぜひとも必要だったのが、卓越した技術と茶目っ気を兼ね備えた俳優陣。現地版でも女性が演じたエドウィン役を演じるにあたり、壮さんは宝塚での男役トップスター経験を活かし、台詞を言う前にはその都度、男役風の“美しくも現実的にはありえない”大仰な動き(というよりほとんどダンス)を披露。間違いなく、世界で最もこの役を魅力的に見せる女優でありましょう。ヒロイン、ローザ役の平野綾さんは、アニメ声での台詞から瞬時にクラシカルな歌声へと転じてみせたり、可憐な容姿と裏腹の自虐的ギャグも思い切りよくこなす“達者”ぶり。
『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

叔父ジャスパー役の今拓哉さんはと言えば物語の進行とともに役を崩壊させ、遂には目が点になるようなキャラクターを演じ切り、プリンセス・パファー役の保坂知寿さんはちらちらとしか登場しない謎の人物と思わせながら、かなり押し詰まってからの正体露見場面で、告白のナンバーを感動的に聞かせます。そして水先案内人としては煩いほど(!)の頻度で登場しつつも、ほんわり、余裕たっぷりの(と見える)オーラで場を包み、優雅に、チャーミングに場をかき回す山口さん。プリンシパルからアンサンブルに至るまで、それぞれが持ち球を次々繰り出す舞台からは、目が離せません。
『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇宣伝部

そして本作の最後に登場する“お楽しみ”が、エドウィンを殺した(のであろうと思われる)犯人を観客が推理し、投票するという趣向。まずは1幕最後で支配人が推理を呼び掛けたことで、休憩中のロビーでは“あそこでああいうことがあったけど、それって実はこういう意味なんじゃない?”“でも王道で言えばあの人が犯人でしょう?”といった会話があちらこちらに。

筆者がこの日、使用した投票用紙。犯人と思われる人物の番号札をちぎり、箱に投票するという仕組みになっている。直前の“最後のお願いスピーチ”の面白さに、筆者は一度ちぎりかけた番号ではなく、6番のダードルスに投票した(が、残念ながら落選)。

筆者がこの日、使用した投票用紙。犯人と思われる人物の番号札をちぎり、箱に投票するという仕組みになっている。直前の“最後のお願いスピーチ”の面白さに、筆者は一度ちぎりかけた番号ではなく、6番のダードルスに投票した(が、残念ながら落選)。

そして2幕も半ばとなったところで、いよいよアンサンブルが箱を持って客席をまわり、投票…と相成るのですが、その直前に“犯人候補”が1列になり、選挙宜しく“最後のお願い”を行います。この一言スピーチがそれぞれに面白く、筆者などは思わず、それまで心に決めていたのとは違う人物を選んでしまったほど。

迅速に集計、得票がボードで発表されると、即、選ばれた犯人が告白ソングを歌うのですが、この日ダントツで選ばれたパファーの告白は、なるほど…と辻褄があっていながら、笑いも誘う内容。さらに最後には爽やかなどんでん返しもあり、俳優たちの卓越した技量に感銘を受けた観客は必ずや、心地良さの中で劇場を後に出来る作りとなっています。

しかし残りの7人の告白も気になる!という観客は決して、少なくないことでしょう。何度もリピートせずにはいられない“至福のミュージカル”とは、まさしくこの舞台のことと言えます。



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