愛の意味をかみしめ、静かな感動に頬を濡らす映画『人生は小説よりも奇なり』

人生は小説よりも奇なり

 

今年の1~3月は本当にLGBT映画が豊作、という記事をお届けしましたが、しみじみ、本当にそうだなぁと思っているところです。『キャロル』に続き、『人生は小説よりも奇なり』も本当にいい映画でした。レビューをお届けします。

橋口亮輔監督が「気軽なコメディかと思っていたら、途中で膝を正しました。こんなにも繊細な映画、久しぶりに観ました。”美しいものを観せてもらった”という静かな余韻が、今も続いています。」というコメントを寄せていますが、全く同感です。本当にその通りだと思います。

38年間(!)パートナーシップを結んできたベンとジョージのカップル。画家のベンはもう70を過ぎて年金暮らし。音楽教師のジョージはたぶん50代。2011年にニューヨークで同性婚できるようになり、念願かなって挙げた結婚式は、親しい家族や友人たちに囲まれて、本当に幸せなものでした。しかし、結婚を機に、カトリックの学校で音楽を教えていたジョージが、狭量な司教のせいで学校をクビになり、せっかく手に入れた家を手放さなければいけなくなります。親戚や友人たちは会議を開き、結局、ベンは甥夫婦の家に、ジョージは同じアパートに住む友人ゲイカップルの家に、別々に居候することになります。しかし、38年連れ添ったパートナーと離れ、慣れない環境で暮らすことは、決して若くない二人にとって本当にしんどいことでした…。

38年間も寝食を共にしてきた二人のパートナーシップ、どんな夫婦よりも強い絆は、画面からもまざまざと伝わってきます。とてもリアルです。逆に言うと、ベンとジョージを演じたお二人の演技が本当に素晴らしいです。

ジョージが若いゲイカップル(いい人たちなんですよ、とても。ただ、ライフスタイルが違い過ぎるんですね…)の家を飛び出し、雨のなか、ベンの元へと向かい…というシーンは涙なしには観れませんでした(その姿は、まるで子どものよう…ただただ、胸が痛みました)

人生は小説よりも奇なり

 

『人生は小説よりも奇なり』の原題は「LOVE IS STRANGE(愛は奇妙なもの)」と言います。これは愛についての映画です。

ベンとジョージの結婚式のあとで、ベンの甥・エリオットの妻であるケイトが「二人のリレーションシップが私たちの模範となったわ」と素敵なスピーチを贈るシーンがありますが、誰もが賞賛せずにはいられない、理想的な関係性を築いてきたベンとジョージの夫夫とは対照的に、(公式サイトのディレクターズ・ノートにも書いてあるように)エリオットとケイトの夫婦は、危機に瀕します。そんな二人と、突然家にやって来たベンを、息子のジョーイは曇りのない目で見ています。

一方、カトリックのお偉い方は、無慈悲にジョージを切り捨てます。キリスト教の説く隣人愛とは一体何なのかと思わせる、愛とは真反対のホモフォビア。たとえ同性婚が認められても、決してEverything is OKではないのです。

しかし、芸術家である二人は、離れ離れになるという憂き目にあいながらも、愛を忘れず、芸術を忘れず、新しい作品を生み出し続けました。

人は愛を知ることで成長できるということを、長年愛を育んできたベンが、身をもって教えてくれます。(物語の核心に触れるのであまり詳しくは述べませんが)芸術家であるベンは、タブロー(絵画)だけでなく、愛というかけがえのない作品をも、贈り物として届けてくれたのです。そこがこの映画の素晴らしさであり、感動の源となっています。

たとえお金に困ったとしても、NYという街に住んで、愛するパートナーがいて、親しい友達に囲まれて、芸術について語り合い…という暮らしができれば、本当に幸せ。そういう理想的なゲイライフの一つの典型が描かれている作品としても意味があると思います。対照的に、パーティ三昧な若い警官ゲイカップルも出てきますが、こちらはイマドキだなあって思います。

芸術家を主人公としていることもあるでしょう、監督が小津安二郎に影響を受けているためでもあるでしょう、この映画は「静かな暮らし」「心穏やかな生活」を至上の幸福として描いているところがあり、(『キャロル』とはまた違った意味で)独特の静謐な美しさを感じさせます。

監督のアイラ・サックスは、オープンリー・ゲイの方で、劇中に登場するベンの作品の数々は監督のパートナーである画家の方が描いたものなんだそうです(ちなみに、お二人には4歳になる子どもが2人いるそうです)。アイラ・サックスの『ミシシッピの夜』(1997)は、アメリカ南部に暮らす白人の少年と黒人の少年との同性愛を描いた作品で、日本でも1998年の第7回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映されました。

監督はインタビューで、この映画を作ろうと思ったきっかけについて、こう語っています。「私は9年間、夫である画家のボリス・トーレスと暮らし、2012年に結婚しました。その時初めて、いかに愛情関係というものが時と共に深まり、成長してゆくものかに思い至り、それを映画にしたいと思ったのです。小津に影響された私の映画はすべて、ある意味、世代の継続を描いていると言えます。これはあるカップルについての映画ではありますが、次の世代、そしてその次の世代についての映画でもあるのです。私たちはみなつながっているのですから」

俳優陣も充実しています。ベン役は『愛と追憶の日々』『インターステラー』のジョン・リスゴー、ジョージ役は『スパイダーマン2』のアルフレッド・モリーナ。ケイト役は『レスラー』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のマリサ・トメイ。そして、ジョージを受け入れる若いゲイカップルの1人、テッドの役で『ユナイテッド93』『glee』のシャイアン・ジャクソン(オープンリー・ゲイの超イケメンです)。それから、とあるゲイの役で『ハリーポッターと秘密の部屋』でトム・リドルを演じたクリスチャン・コールソンが出演しています。

そして、なんといっても音楽! 劇中ではベートーベンのピアノソナタなど、クラシックのさまざまな名曲が使われていますが、なかでもショパンの「雨だれ」(24の前奏曲 作品28 第15番 変二長調)は、ひどく胸に沁みました。私にも弾けるような(実際、映画でも小学校に上がるか上がらないかくらいの小さな女の子が弾いていました)シンプルな曲なのに、こうやって聴くと、本当に感情を揺さぶられます。何日もこの「雨だれ」が脳内で鳴り響き、思わず口ずさんでしまうほどです。きっと将来、この曲を聴くたびにジョージが涙する姿を思い浮かべるだろうな…(うっかりすると泣いてしまうかも…)と思います。 

人生は小説よりも奇なり

 

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人生は小説よりも奇なり
2014年/米/監督アイラ・サックス/出演:ジョン・リスゴー、アルフレッド・モリーナ/3月、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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