シャープにおける液晶市場の読み違え

しかし「選択と集中」は、どこの企業でも必ず成功するわけではありません。その失敗事例の代表格が、今般自力での再建を断念し鴻海精密工業の傘下入りにより出直しを模索中のシャープなのです。

シャープは、00年ごろから液晶テレビを他社に先駆けて積極的に取り組み、「液晶のシャープ」の地位を確立しました。この好調を受けて同社はさらなる飛躍を狙い、経営資源の液晶部門への「選択と集中」を行います。三重県の亀山市に相次いで液晶パネル工場を増設し国産、高品質の「亀山モデル」を印象付けると、さらに大阪府堺市にも液晶の大型工場を建設したのです。この時期の同社の投資総額は1兆円を超えるほどの巨大規模となりました。

解説

シャープは「選択と集中」の誤りで、台湾ホンハイ傘下入りとなった

しかし、08年のリーマンショックで需要は落ち込み、追い討ちを掛けるように中国や韓国などの新興勢力の台頭による激しい価格競争に巻き込まれて収益は悪化の一途をたどります。とどめを刺したのが、10年7月の国内地デジ化完了による地デジ対応テレビ特需の終焉でした。翌11年には、シャープの巨額赤字体質への転落が明らかになり、その後4年間で総額1兆円以上の経営赤字を計上するというどん底に突き落とされたのです。

諸悪の根源は、先の亀山、堺両液晶関連施設への相次ぐ巨額投資です。この投資は単なる財務上の負債を増やしただけでなく、それに伴う膨大なランニングコストと製造を続けざるを得ないことで生まれる在庫の山々により、毎期の巨額赤字を生む元凶となってしまいました。

一方で海外企業との間にある基本的なコスト構造の違いはいかんともしがたく、業界シェアは回復見込みが立たぬまま赤字は拡大を続けます。このような状況下にありながらも、液晶部門への一極集中ともいえる戦略下においては引き続き赤字垂れ流しの同部門をメイン事業としたままリストラ、再建策を進めざるを得ず、結局、回復の芽を見ずに今回の自力での復活を断念するに至ったのです。

正確なコアコンピタンス分析とドメイン設定が大前提

シャープの「選択と集中」は明らかな判断ミスでした。自社のコアコンピタンス(強み)分析と市場の将来性を見誤ったことに全ての原因があります。まず液晶部門の強みが他社が追随できないほどのものではなかったという見誤りがあり、競合による価格競争が起きるというマーケット動向の読み違えに気づかぬままドメイン(主要マーケット)設定をして膨大な投資をしてしまったのです。まさに後に引けない状況に自らを追い込んでしまった「選択と集中」の失敗例として、その怖さを如実に表した判断だったと思います。

「選択と集中」は確かに優れたマネジメント戦略ではありますが、キヤノン他3社の成功事例とシャープの失敗事例を見るに、その前提となるものがどの事業を選択し経営資源を集中させるかの判断材料になる、コアコンピタンス分析とドメイン選定の確かさにかかってもいることが良く分かります。当該事業が今黒字であるか否かは無関係。本当に他社追随を許さぬ強みがあるのか、マーケットの成長性は見込めるのか。その点こそが「選択と集中」の最重要ポイントであると言えるでしょう。

シャープがようやく決まった鴻海精密工業の支援の下で、今後どのように新たな「集中と選択」おこない復活への道を模索していくのか、大いに注目して見守りたいと思います。


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