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モノクロームサーカス『TROPE 3.0』インタビュー!

二度の京都公演を経て、この春東京進出を果たすモノクロームサーカスの『TROPE 3.0』。プロダクトとダンサーの関わりを、コンタクト・インプロヴィゼーションを用いて描く異色作です。ここでは、モノクロームサーカス主宰の坂本公成さん、ダンサーの森裕子さん、プロダクトデザインを手がけたgraf代表・服部滋樹さんの三者にインタビュー。作品への想いをお聞きしました。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

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今回で三度目の上演を迎えるモノクロームサーカスの『TROPE』。二度の京都公演を経て、いよいよ東京進出を果たします。

坂本>『TROPE』の初演は2011年で、2013年の1月に再演を行っています。過去二回は京都のヴォイスギャラリーで上演しました。いわゆるホワイトキューブのギャラリースペースです。僕らが必要としている上演サイズは6×6mくらいのスペースなので、さほど大きな空間ではなくて、ちょうどいつも使っている稽古場くらい。お客さんはかぶりつきです(笑)。

今回の会場は東京のP3 art and environment。さいたまトリエンナーレのディレクターを務めている芹沢高志さんが運営するギャラリーです。前々から東京で上演できないかと考えてはいましたが、なかなか適当な小屋が見あたらなかったのと縁がなかったのとで、伸ばし伸ばしにしていました。でもP3 art and environmentが一昨年オープンしたことで、僕らが望んでいたスペース、ヴォイスギャラリーとちょうど同じくらいのサイズの空間が東京にできた。ぜひここで上演したいと芹沢さんにお願いしました。

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graf代表でありデザイナー・服部滋樹さんとの出会い、タッグのきっかけは何だったのでしょう。

坂本>トークイベントのゲストで呼ばれたのが服部さんとの最初の出会いです。そこで仲良くなって、最初にフライヤーのデザインをお願いしたのが2008年のこと。2009年にじゅんじゅんに創作委託した作品『緑のテーブル』のときに舞台美術をお願いして、チラシもつくってもらいました。翌年の『瀬戸内国際芸術祭』では服部さんとがっつり組んで、直島を舞台にいろいろな場所で作品を発表しました。そのほかにもワークショップをしてみたりと、毎年のように何かしら一緒にやっています。

服部>僕がモノクロームサーカスのワークショップに参加することもあります。空間の読み解きをレクチャーしたり、この空間でこんなことができるかもしれないといったディレクションをしたり。空間の中で自分を意識することってなかなかないと思うので、自分がその空間のなかに入ったときどう空間に変化が起こるのか、逆に自分がどう変化するのかということを瞬間的に捉えながら、その場面や空間をつくっていく、という作業です。

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grafのプロダクトシリーズTROPEの家具と、モノクロームサーカスのダンサーたちとのコンタクト・インプロヴィゼーションで展開する本作。その発想の原点にあったものとは?

服部>TROPEはあえて家具とは言わず、道具やプロダクトという位置付けと捉えています。TROPEのプロダクトシリーズができたのがちょうど初演の半年くらい前でした。まず“今のひとたちに足りない物って何だろう?”と考えたとき、アイデアを使って生きるということではないかというところに行き着いた。お爺ちゃんお婆ちゃんたちは、ひとつの物を何通りにも使いこなす能力を持っていましたよね。でも我々は機能性豊かな物に囲まれて暮らしているから、考えずに生きるようになってしまっている。もしかすると、それを暮らしの豊かさと捉えるひともいるかもしれない。

けれど、1950年代以前は物が生まれるスピードもそれほど速くなかったと思うし、プロダクトも三種の神器あたりからあまりスピードアップしてない気がする。そう考えると、50年代以降の自分たちの生活が、物に振り回されてる、経済に振り回されている気がして。考えながら生きることは必要だと思うし、そのきっかけをどこかでつくるとしたら、僕らが不便な道具をリリースすべきなのではないかという発想に至った。家具という機能的な道具ではなく、アイデアを生み出すためのきっかけを使い手に与えたいと考えて誕生したのがTROPEシリーズでした。

自分の生活をどうつくっていくか、問いかけるようなプロダクトをつくりたかった。それは公成さんたちと一緒にやっていく上で、grafとして提案したデザイン的な回答でもあって。公成さんに“こんな物をつくろうと思う”と相談したら、“面白い!”と言ってくれました。でも実際プロダクトが来たときは、“使いにくい舞台美術だな”という感覚だったと思います(笑)。

坂本>はじめに送られてきたのがはしごのようなプロダクトで、“うーん、一体これをどう使うんだ……?”と(笑)。もともと作品に取り入れる前提ではありましたが、僕ら自身そこまでTROPEシリーズの根底にある発想を知らないまま渡されたので、最初はすごく戸惑いましたね。はしごを前に、ダンサーと一緒にあれこれディスカッションを繰り返して……。

grafのプロダクトでナラティブというラインがありますが、そちらは家具の機能が90%くらいで、余白を10%くらいつくってる。てっきりそういうものが出てくると想像していたんです。でもTROPEシリーズは余白が70%くらいある。だからはしごが来たときは、本当に目から鱗が三枚くらい落ちましたね(笑)。

森>はしごの次は馬脚とか。テーブルの脚ではなく、単に馬脚だけの存在なんです。板にしても、いろいろなサイズがあるし。

服部>TROPEシリーズに関しては余白が沢山あって、使い方もわからなければ機能もわからない、本当に家具を読み返すために向き合ってもらいました。馬脚もテーブルの脚とはいってないし、板だって天板とはいってない。例えば、本をコーヒーテーブルの脚のように積み重ねてテーブルがわりにするようなことってありますよね。そうやって天板を使うこともできるし、一応生活のなかにあるヒントはひとつひとつに散りばめられてはいるけれど、実際のところ何なのかはわからない。そもそも、何かわからないものを生み出そうと思ってつくったものなので(笑)。

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坂本>解決策のヒントとなったのが、アフォーダンスというキーワードでした。デザイン業界ではみなさん知ってる用語らしいけど、僕らダンサーには馴染みのない言葉ですよね。物によって与えられる覚醒、可能性ということでしょうか。

服部>アフォードとは、自然や生活と向き合ったときに出てくる潜在的にある動作のこと。例えば、河原に行ったら石を掴むじゃないですか。あれってアフォードなんです。頭ではなく経験により身体が記憶していったものがアフォード。ドアノブを見ると身体記憶により人間は迷わずそこに手を持っていくことができる。アフォードによりその身体記憶を引き出していくというのはデザインの手法でもあり、グラィックでもプロダクトでもデザイナーはこの原理を利用しています。

坂本>ドアノブを回せばドアが開く。これは身体で覚えてしまっていることですよね。ただ『TROPE』では、アフォーダンスを一旦まっ白な状態に置き換えてみようと考えて。その道具が一体どんなアフォードを持っているか全くわからない状態まで白紙に戻して、とにかくコンタクト・インプロヴィゼーションをしてみる。ダンサーたちにいろいろな扱いを試してもらったり、ときにはちょっと噛みついてみたり、といった作業から取りかかりました。

服部>映画『2001年宇宙の旅』で、ヒトザルたちが骨を掴んだ瞬間みたいな感じ(笑)。原始人が石を道具にした瞬間とか、落ちていた骨を使って叩く瞬間とか、それくらいまで道具と向き合ってもらったと思います。

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