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川口隆夫『TOUCH OF THE OTHER』インタビュー!(6ページ目)

公衆トイレにおける男性間性行為の研究を行ったロード・ハンフリースの論文をもとに発足した国際共同プロジェクト『TOUCH OF THE OTHER』。ロサンゼルスと東京での制作を経て、2016年新春に新作を発表します。ここでは、川口隆夫(振付・出演)、ジョナサン M. ホール(コンセプト)、飯名尚人(ドラマトゥルク)の三者にインタビュー。作品についてお聞きしました。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

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LGBTという言葉が盛んに言われ始めた今の日本で、あえてこの作品を発表する意義とは?

川口>ジョナサンからこの話を聞いたのが2013年の秋で、当時はまだLGBTという言葉が取り沙汰される前のこと。けれど自分にとってはアイデンティティを左右するテーマであり、それを扱うのはすごく面白いのではという気持ちがありました。2015年に同性パートナーシップ条例が成立して、LGBTや同性婚といったトピックにマスメディアが注目するようになった。けれど、それが本当にバラ色なのかどうかは慎重に考える必要があると思っていて。同性婚の成立が一体何を意味するのか。結婚制度にゲイが参加すること自体、昔は考えていなかったはず。それは結婚できないというネガティブな意味ではなく、結婚とは違うところを目指すはずだったのに、何で今になって結婚という制度にダイブしているのかという驚き、批判。言ってしまえば、それはマジョリティ側に“失礼します”と言って参加させてもらうことですよね。そんな馬鹿な、それってどうなの、というのが正直な感想であり、ゲイの間でそう感じているひとは少なくないと思います。

ph

 

ジョナサン>人権問題の観点から言えば、同性婚が認められるのはもちろんウェルカムです。同性婚によってクローゼットに隠れていた陰の存在がオープンになったりと、見えなかったものが見えるようになってきている。それは大きな発展だと思うけど、一方で結婚制度にゲイが参加することにより、隠れて行っていたかつての歴史を私たちが拒否することになるのではないかという想いもある。正常化されていくなかで、必ずしも過去を捨てるのではなく、その歴史を私たちがどう扱うべきか考えていかなければいけない。いろいろな苦しみや差別を受けながら、ゲイは独自の素晴らしい文化を発展させてきた。ひととひととの関わり方が、ゲイのなかではある意味システム化されてきた。

“ひとを永遠に愛する”といった結婚が持つ意味を否定したくはないけれど、一方で結婚というシステムには“所有を継続させる”といった意味も含まれる。“永遠にいつまでも”という時間制ではなく、ゲイの世界ではもっとニーズに応じた関係性を文化としてつくってきた。だからこのトイレはひとつの例でもある。“ひとを一時的に愛する”という関係性は異性愛者も考えているとは思うけど、正直に言うひとは少ないでしょう。トイレで名前も知らないひととひととの匿名的な性愛、接触の仕方がひとつの大きな例え。もうひとつのシステムがあるぞ、という主張がその例を使ってできますよね。僕が好んで使う言葉に“完璧なる距離”というものがありますが、遠いか近いかわからない、その曖昧さが非常に重要なんです。一般社会と異なった価値観ではあるけれど、そこに意味もあると思う。今の時代、世界的に結婚という制度が弱くなってきているのを感じます。結婚というシステムが疑問視されているこの時代に、新たなひととひととの接触の仕方や付き合い方を提示したい。私たちの歴史からいいものを残し、未来に持っていきたいですよね。

ph

 

川口>結婚制度に属さない、もっとオルタナティブなひととひととの在り方をゲイカルチャーは発明してきた。その財産をぽんと捨ててしまって、結婚という家制度に入るとはどういうことなんだろう、というのが率直な気持ちとしてあって。同性婚により、それまでコソコソ行っていたことを後ろに捨て去って、“私たちは結婚したまっとうなカップルです”と公の場に出て行くこと。それとは別なところにある、ひととひととの関係、人間の距離。新たな価値、可能性、ひととひととがどう繋がるのか、ということを読み直していけたらと思っています。

ph

 

 



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