谷先生はおふたりにとってどんな存在でしたか?
永橋>初めてお会いしたとき、本当にオーラがすごいなと思ったのを覚えています。とても芯の強い方で、やさしい反面厳しい面もいっぱいありました。先生がいらっしゃるだけで空気がぴりっとなるというか、緊張感が漂う感じがするんです。谷先生のバレエに対する愛情はもう図りしれないものがあるので、褒められることはまずなかったですね。三木>すごくやさしい口調で、柔らかくふわーっと注意されるんですけど、実はとても厳しいことを言われているという……。
永橋>先生には毎回のように“気持ちを持って”と言われてました。自分ではそうしているつもりでも、先生には伝わらないんでしょうね。その言葉が一番印象的で、今でも残っています。谷先生は本当に叙情的というか、リハーサルで見せてくださるほんの少しの仕草や目線から、気持ちが豊かに伝わってくるんです。私も真似しようとするんですけど、なかなか難しいですね。
(C) TOKIKO FURUTA
三木>僕ら男性舞踊手って、どうしてもテクニカルや力強さを重視しがち。でも谷先生は表現の部分をより求められるというか、極端に言うと、僕みたいなタイプの男性舞踊手にお客さまが期待するものは必要ないんです。笑顔で僕の目を見て“それは必要かしら?”とばっさり切られたこともあります。それよりもっと表現を重視しなさい、ということなんだろうなというのはいつも感じてました。
永橋>プライベートでは私も先生も犬を飼っていて、よくその話をしてましたね。“ワンちゃん元気?”って声をかけてくださったり。
三木>あと、結婚の報告に行くとたいてい恋愛話になるんですよね。“おめでとう”って言ってくださるんですけど、その後に必ず“でも、何があるかわからないからね”ってつく。妹さんに“桃ちゃん、そんなこと言っちゃだめよ”って怒らてましたけど(笑)。
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谷桃子という大きな柱を失って、今想うものとは?
三木>やっぱり谷桃子先生の存在感というのはすごく大きかったし、ダンサーはみんな谷桃子バレエ団、谷桃子先生のところに集まってきている。だからいなくなってしまったことで求心力が薄れてしまった時期もあったような気がするし、各々が谷先生のために何か継承しなければと考え過ぎていたときもあったと思う。ただ、今は芸術監督の齊藤拓さんを筆頭に、またもう一度みんなで頑張ろうという雰囲気になっているのを感じます。永橋>谷先生から教えていただいたことを忘れずに、自分たちが次の世代に伝えていかなければいけないなと思っています。
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