歌舞伎好きの丁稚がほほえましい
一つには、芝居の世界で、真面目に演じられているシーンやセリフが、忠実に(しかも定吉やご主人がやるので素人っぽく下手くそに)再現されるので、ほほえましいということが挙げられます。芝居の中のセリフが、違う意味のおかしさに変換
もうひとつは、巧みに芝居の中のセリフを使っているのでおかしさを増しているのです。最後の落ちの「待ちかねた」は、忠臣蔵を知らずに聴けば、なぜこんなに客席が受けるのかわからないでしょう。しかし、このセリフは、歌舞伎では、切腹する塩冶判官が切腹しつつも大星由良之助の到着を待ちわびる涙をそそられる場面。
「由良之助はまだか」
「未だ…参上つかまつりませぬ!」と答えるのは由良之助の息子、力弥です。
「由良之助はまだか」
「未だ……参上つかまつりませぬ!」
とさんざん焦らされた挙句に登場する由良之助。タンタンタンタンというツケの音とともに花道から走ってきます。やっと会えた主従。そこで発せられるのが
「遅かりし由良之助」「ま~ち~か~ね~た~」なのです。
歌舞伎では深刻な場面だからこそ、落語では大笑い
歌舞伎においてここは、切腹という深刻な場面であると同時に、塩冶判官から大星由良之助が仇討のメッセージを託されるという非常に重要な場面なのです。切腹の場面がはいるということで、この幕は飲食も禁止、途中で出入りも禁止の厳粛な場面です。それが落語では、「死んでは大変」と炊きたてのご飯をいれた鉢を抱えた主人に、お腹をすかせながらも切腹の真似事をして遊んでいた定吉が「まちかねた~」というものですから、客席中は大笑いというわけです。
ちょっと、会場の受けに乗り切れなかったら、ぜひ今度歌舞伎の忠臣蔵を見てくださいね。「あのときの定吉のあれは、これを真似したものだったのか」とニンマリしてしまうことでしょう。
また、人情噺や怪談噺も、歌舞伎と合わせて見ていくと、また違った味わいがありますよ。同じストーリーを何度も何度も味わう楽しさを知ってください。
ところで、落語は一体いつどこでやっているのでしょうか?
次のページで、ご紹介します。