マネジメント/マネジメント事例

マネジメントから考える、傾きマンション事件の原因(2ページ目)

世間を騒がせているマンション基礎工事におけるデータ改ざん問題。その現場実態が明らかになるにつれ、これは決して特異な問題ではなく、どこにでも起こり得る問題であることが徐々に分かってしました。組織論的にこの問題を紐解くのは、官僚制的組織という大組織にありがちな管理体制の弊害です。その用語解説も含めて、今回の問題の根本原因に迫ります。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

官僚制的組織の逆機能とその典型

例えば、横浜の一件では、これら「官僚制的組織の逆機能」と思われる現象が見て取れます。

工事の発注元である三井不動産レジデンシャル、工事元請企業の三井住友建設、そして現場で基礎工事を請け負っていた旭化成建材の3社。これらは先に挙げたように、発注元を頂点とするピラミッド構造の中にあります。この3社は、本来、マンション建設において、専門化、分業化による効率性や安定性向上をはかるために役割を分担しています。権限と責任の分担、規則やルールの徹底、文書主義や記録主義の徹底がはかられ、一種の「官僚制的組織」として形づくられることになります。

これは建設業界現場における「発注―元請け―下請け」のごくごくあたりまえの組織構造です。そのことを考えると、基礎工事手抜きの一件は、長い年月を経てこの官僚制的組織管理が形骸化した結果、その「逆機能」によって起きたといえるでしょう。前記した6つの「具体的弊害」にあてはめると、「2」「3」「4」が該当しそうです。

今回の根本原因は、「二次下請けで杭を建物の地盤に固定する工事の現場を管理していた旭化成建材が、杭打ちが強固な地盤に達していなかったにもかかわらず虚偽のデータを使用したことである」と判明しています。虚偽データが使われた経緯ですが、先のピラミッドが影響していると関係各社の会見で明らかにされています。つまり、業界にあるとされる次のような風習です。下請け企業は納期や予算を順守させられる。そして、工期の遅れや追加工事などが発生した場合は、元請けから処罰的に費用負担は下請けが負う。そのことが足かせになった、というわけです。

杭打ちデータを取り漏れたものの、やり直しによる工期の遅れやコスト増という「処罰を恐れた規則通りの行動」を重視した。そして、虚偽のデータ報告を行なった……。まさに「規則順守」が組織の目的と化し、安全な建物を建築するという「本来の目的を見失う」ことにつながりました。結果として、「行き過ぎた規則通りの行動」が、購入者(顧客)の生活の安全を守るという最も重要なことを忘れさせた……。まさしく「官僚制の逆機能」が明確な形で現れているのです。

業界問わぬ両刃の剣

問題は非常に根が深く、単に横浜の物件を担当した旭化成建材一担当者やあるいは同社一社の企業風土の問題として、簡単に片づけることはできないのではないでしょうか。事実、問題の発覚以来、日を追うごとにメディアを騒がせているのは、本件とは全く関係のない他社の施工データ改ざんです。「官僚制的組織の逆機能」が、個別の組織風土にかかわらず業界内に深く根を下ろしていたのでしょう。

そしてこの問題を「官僚制的組織の逆機能」として捉えるなら、単に建設業界だけの問題でもないということもまた明白です。単体企業であれ、元請けと下請け関係に支えられた合同企業体であれ、ひとつの組織が目的に向かってシステマティックに動く時、その組織が大きくなればなるほど効率性や安定性が求められ、さまざまな工夫が施されそれに伴う規則やルールが作られるのは当たり前の流れです。

組織の官僚制化はそんな流れを助ける重要な役割を果たすマネジメント手法ではあるのですが、同時にその進行に伴う逆機能には大きなデメリットがあり、両刃の剣なのです。どんな組織体においても、肥大化した組織や組織が大きくなっていく過程においては、効率化、安定化策の陰で、組織の硬直化、形骸化に伴う目的のはきちがえが起きていないか、常に注意深く監視の目を光らせる必要があるのではないでしょうか。

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