ステレオタイプとは……無意識のうちの「決めつけ」
ステレオタイプなうわさ話は、人から人へと広まっていく
男女ばかりではありません。「子どもは、年寄りは」「○○国の人は、○○県民は」「大卒は、高卒は」「ひとりっ子は、末っ子は」といった言葉は昔も今も語られていますし、はたまた「A型の人は、B型の人は」「イヌ派の人は、ネコ派の人は」「母乳育ちは、ミルク育ちは」といったまるで根拠のないような発言まで、巷ではしばしば交わされています。
このように、ある特徴を有する人や特定の集団に属する人に対し、「あの人は○○」と決めつけてしまう信念を、社会心理学ではステレオタイプと呼びます。
思考の手間を省くために、ステレオタイプを利用する
先に述べたように、「女はビジネスに向かない」「男は家事育児に向かない」といった言葉は、何十年、何百年と語り継がれてきた典型的なステレオタイプです。しかし、現実にはビジネスの世界で活躍する女性は飛躍的に増えていますし、女性も顔負けのカジメン力、イクメン力を発揮する男性も爆発的に増えています。そもそも、社会の中で当たり前のように語りつがれているステレオタイプは、個人の能力や個性を無視したものですし、時代や環境の変化と共に一致しなくなることが多いものです。
とはいえ、他者に対するステレオタイプな捉え方は、一向になくなりません。それは、世間で語られるステレオタイプに準拠し、ひとまず「あの人も、女性だから○○だろう。男性だから○○だろう」などとくくっておけば、いちいち相手の特性を吟味しなくても済み、認知的節約が図れるからです。つまり、人間には思考の手間を省くために、無意識のうちに他者の特徴をカテゴリに当てはめ、個性を無視して捉えてしまう傾向があるのです。
だからといって、ステレオタイプに流されていいはずはありません。ステレオタイプを放置すると偏見が助長され、差別が生じてしまうからです。それだけでなく、ステレオタイプで評価された側にも、多大な悪影響が生じていきます。
人の行動を左右する「ステレオタイプ脅威」とは
掃除をしてくれた夫に「男には任せられない」などと言っていませんか?
たとえば、新入社員の女性が、入社早々オフィスの物陰で「今度の新人、女性だろう? この仕事ができるのか?」といった噂話を聞いてしまったら、どう思うでしょう。また、妻が帰宅する前に掃除や料理を済ませておいた夫が、妻に「なに、この掃除機のかけ方! これだから男には任せられないのよ」などとつぶやかれたら、どう思うでしょう。
言われた直後は憤慨すると思いますが、しばらくたつと「女(男)である自分は、この仕事(家事)に向かないんだろうか?」と要らぬ不安が生じてきて、その後の行動へのモチベーションが左右されてしまうのではないでしょうか?
ステレオタイプ発言によって個性が無視されたショックを「第一の心の傷」とすれば、その発言によって行動への自信を失わされ、モチベーションをくじかれることは「第二の心の傷」だと言えます。
このように、ステレオタイプに基づく評価をされた人が、その評価通りに自分を受け止め、行動してしまうことをステレオタイプ脅威と言います。
ステレオタイプな評価通りに行動してしまう怖さ
たとえば、上のきょうだいが非行で問題になり、「あの不良の弟(妹)なら、あの子も」などとステレオタイプなうわさを流され続けると、いい子だった子もその評価通りに自分を捉え、きょうだいと同じような非行に走ってしまう、といった例があります。またたとえば、高齢者が「年をとって頭が硬くなっているんだから、新しいことを覚えるのは無理」などと言われ続けると、挑戦する力を持っている人でも、その評価通りに新しい物事に挑戦することをやめてしまい、自宅にひきこもって老いが進行する、といった例も少なくありません。
このように、ステレオタイプな評価はステレオタイプ脅威を生み、対象者の行動を方向づけてしまう危険があります。特に、親や教師のように、子どもの行動に大きな影響力を持つ人がうっかりステレオタイプな発言をしてしまうと、子どもはその言葉に影響されて育ってしまうリスクがありますので、十分に注意したいものです。
大切なのは、ステレオタイプに「気づく」こと
ステレオタイプに流されないためには、発言する側も人の話を聞く側も、ステレオタイプ的な発想が浮かんだり、そうした発言を聞いたりしたときに、「これはステレオタイプではないだろうか?」と気づくことが大切です。ステレオタイプは、人から人へと語り継がれることによって助長されていきますので、誰かがステレオタイプな発言をしていたとしても、尻馬に乗って安易に同調しないことです。また、自分がその発言を受けたときにも、安易に信じ込まないことです。
少し意識するだけで、ステレオタイプな発言や評価の助長を抑制することができます。ぜひ、身近な会話の中のステレオタイプに気づくことから始めてみませんか?