失敗をした人と見た人で、原因の捉え方は全く違う
「失敗」をする人とそれを見ている人とでは、同じ行為への受け止め方がまったく異なっている
またたとえば、食べ物をこぼす子どもを見ている大人は、その失敗が子ども自身の不注意にあるものと考え、とっさに叱ってしまうことが少なくないものと思います。しかし、当の子ども自身は「たまたまこぼれただけ」と、その行為が自分のせいであるとは、露ほども思っていないことが少なくありません。そして、大人はこのように失敗をしても平然としている子どもの様子を見ると、ますます苛立ちを募らせてしまうのではないかと思います。
このように、「失敗をした人」と「その失敗を見た人」とでは、同じ行為に対する捉え方が180度と言っていいほど異なっています。この捉え方の違いは、どのような心理から生じるのでしょう?
「行為者・観察者バイアス」とは……両者の心理の違い
「失敗した人」と「その失敗を見た人」との間に生じる失敗への捉え方の違いは、「行為者・観察者バイアス」という心理学の理論で捉えると分かりやすくなります。「行為者・観察者バイアス」とは、ある行為を行った「行為者」とそれを見た「観察者」が、その行為の原因と結果の因果関係に異なる解釈を行うという「バイアス」を意味します。先の「よく遅刻をする人」「食べ物をこぼす子」という2つの例では、失敗した当事者(行為者)は、失敗の原因を「遅延する電車のせい」や「たまたま」と考えていました。自分に非はなく、状況や環境などの自分以外の原因のせいで失敗という結果が生じたと解釈しているのです。一方で、その失敗を見た側(観察者)は、「(遅刻するのは)その人がルーズだから」「(こぼすのは)その子の注意が足りないから」と感じていました。つまり、本人に原因があり、失敗という結果が生じたと解釈しているのです。
このように、一般的に行為者は、結果の原因を自分以外の外的な要素に求めやすいのに対し、それを見た観察者は、行為者本人の内的な要素に求めやすい傾向があるとされています。これを「行為者・観察者バイアス」と呼びます。
失敗を見た人は、責める前に相手の状況を想像することが大切
失敗した人をすぐに責めずに、相手の状況を想像してみよう
そのため、失敗をした人もそれを見た人も、自分の思いを主張する前には、いったん冷静になる必要があります。
まず、誰かの失敗を見た観察者は、失敗の原因を「その人の不注意のせい」「その人の考えが甘いせい」と感じたとしても、その考えをすぐに口にせず、失敗した人の状況を想像してみるようにしましょう。すると、「自分も同じ結果になることがあるかもしれない」「注意してもそうなってしまうことがあるかもしれない」といった思いが浮かんでくるかもしれません。また、意図せずに失敗をしてしまった人の無念さやばつの悪さを、想像できるかもしれません。
失敗した人は、言い訳しすぎないことも大切
一方で失敗をした人が気をつけなくてはいけないのは、注意されたとしても言い訳をしすぎないことです。先に説明したように、そもそも自分の失敗を見た人は、はなから「それは君のせい」と捉えている可能性が高いのです。そうしたなか、「こういう状況だったので」「たまたまタイミングが悪かったので」などと説明を繰り返すと、自分の印象をますます悪くしかねません。失敗をした時には、まず「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」と潔く謝ることも大切です。原因がどうであれ、実際に、自分の失敗を見た人の気分に、多少なりともマイナスの影響を与えていることは事実なのです。まずは失敗について謝ることでお互いの気持ちを落ち着かせ、その後に状況の説明を行った方が賢明だと言えるでしょう。
大切なのは、失敗からの回復と再発防止に意識を向けること
このように「行為者・観察者バイアス」という心理を理解していれば、失敗に対する責任追及や言い訳に無駄なエネルギーを費やさずにすみます。失敗が生じた時に大切なのは、その失敗を事実として受け止め、そこからどのように状況を回復させるのか、次に同じような失敗を起こさないためにはどのような行動をしたらよいのかを考えることです。
そのためにもこの「行為者・観察者バイアス」を理解し、失敗からの回復と再発防止にすばやく意識を向けられるようにしていきましょう。