「山信食産」の「江戸久寿餅(えどくずもち)」

東京、神奈川、千葉の寺社門前名物、「くず餅」。しっとりとした弾力と、ふくよかな風味は、乳酸発酵の賜物です。今、くず餅に改めて注目が集まり、魅了される人がじわじわ増加。その動きを起こすのは、伝統の味を陰で支えてきた「山信食産(やましんしょくさん)」3代目、小山信太郎さん。さながら、くず餅の伝道師です。

発酵食品「くず餅」

江戸久寿餅

「山信食産」の「江戸久寿餅(板状)」310円~(税込)※工場直売価格(写真提供:山信食産)

千葉育ちの私にとって、「くず餅」といえば、乳酸発酵させた小麦でん粉を蒸した菓子。独特の弾力と風味、淡い酸味、きな粉と黒蜜が渾然一体となり、郷愁を誘います。よく混同される、葛粉を使う「葛餅」とは全く別物で、江戸時代から作られている歴史ある菓子。「くず餅」や「久寿餅」と書くのが一般的です。

山信食産

「山信食産」目印は、ピンク色の壁。(写真提供:山信食産)

創業60年の東京・江戸川区船堀の「山信食産」。発酵食品の「くず餅」の製造卸業を営み、和菓子店をはじめ、業界内で厚い信頼を得ています。

工場直売

毎週火曜日、12時から工場直売(写真提供:山信食産)

高校の英語教諭だった小山信太郎さんが、3代目を継いだ5年前から、同社は大きく変わります。試みの1つが、4年前にはじめた火曜日の工場直売。並ぶのは、2日しか持たず卸には向かない、作りたての「江戸久寿餅」です。

「くず餅」の起源は精進料理?

東京・亀戸天神や池上本門寺、川崎大師など、寺社門前の名物として知られる「くず餅」。由来は諸説ありますが、小山さんが有力と考えるのは、精進料理に関わるもの。
小麦でん粉

小麦でん粉。白色は小麦の中心、灰色は外側のでん粉

水で練った小麦粉を水中でもむと、グルテンとでん粉に分かれます。小山さんが不定期で発行する『くずもち新聞』第15号(平成27年5月3日付)によれば、グルテンは、肉食を避けた僧侶たちのタンパク源として「麩(ふ)」に、でん粉は、発酵させて「障子のり」にしたのだそう。ある年、江戸の町が大火で焼かれ、障子のりも焼かれて餅になったというのです。

飢饉の町にふるまわれたその餅は、「久しい寿」を願い「久寿餅」と名付けられたとされ、同店でも「久寿」の字を使っています。

「クズクズシェイク」とハートの「江戸久寿餅」

紅白

「江戸久寿餅(紅白)」(黒蜜・きな粉付)410円(税込)※工場直売価格

火曜日の工場直売に並ぶ「江戸久寿餅」は、伝統的な板状と、お客さんの声を映したハート型。まずは、きな粉と自家製の黒蜜をかけて、伝統の三位一体を堪能。しっとりとしなやかで、もっちりプルリ。コクのある黒蜜と香ばしいきな粉が、味わいを高めます。食感はくず餅の最大の魅力。職人さんが仕上げた絶妙の食感を損なわないよう、冷やし過ぎにはご注意を。

クズクズシェイク

逸品! 「クズクズシェイク」Mサイズ350円、Lサイズ400円(税込)※工場直売限定

これをそのままドリンクにした「クズクズシェイク」は、ぜひ試して欲しい逸品。ふくゆたか大豆100%の豆乳をベースに、黒蜜・きなこ・粒々に刻んだくず餅を入れたもので、くず餅メニューの傑作だと感動。甘くまろやかな豆乳と、コクのある黒蜜を追いかけるように、口の中にプルリとくず餅が飛び込んできます。

花火

「江戸久寿餅(花火)」(左奥から無垢・紅糀・紫芋・南瓜・ほうれん草)甘酒豆乳ソース・アーモンドスライス付490円(税込)※工場直売価格

続いて、ここでしか味わえない特別な味を。たとえば、カラフルな「江戸久寿餅」の詰め合わせ「花火」には、自然な甘さの「甘酒豆乳ソース」を添えて、「アーモンド」をパラリ。

アールグレイが香る「紅茶」味には、本和香糖やココナッツミルク入りの「バニラ豆乳ソース」と「アーモンド」。ほろ苦く爽やかな宇治の「抹茶」味には、北海道産小豆のまったりとした「粒餡」など、多彩な味が広がります。

素材の色と香りをそのまま生かした、優しい風味の「江戸久寿餅」は、パティシエと共同開発した、香り高いソースと好相性。くず餅と関係の深い「精進料理」の考え方や、「発酵食品」を取り入れるなど、身体に優しく、由来も楽しいのです。小山さんの目下の目標は、「江戸久寿餅」が主役の、同コンセプトのカフェを船堀に開くこと。期待が高まります。

次ページでは、「江戸久寿餅」の作り方をご紹介!