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赤ちゃん部屋のおばけ…子を虐待してしまいそうになる心理とは

【公認心理師が解説】「赤ちゃん部屋のおばけ」とは、虐待の危機に直面している母親の心理を表現した言葉です。わが子は大切だけど、ストレスや怒りから衝動的に手をあげてしまった・しまいそう……。そんな悩みを抱えている母親は少なくないようです。そんな母親の心理について解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

大切な子どもに手をあげてしまう……母親の子育てストレス

赤ちゃん部屋のおばけの意味と対処法

赤ちゃん部屋に2人きりでいるときに、襲われる感情とは?


子どもを叩いてしまった経験のある母親のすべてが、子どもを嫌っているわけではありません。もちろん、しつけという認識であっても、子どもへの暴力は決してしてはいけないことです。しかし、つい子どもに手をあげてしまったことがあったとしても、多くの方は、子どもに恵まれたことに感謝し、子の幸せを願って子育てに取り組まれているのではないでしょうか。

それなのに、子どもが泣き叫ぶ声を聞くとなぜか苛立ちが止められなくなり、攻撃的な行動をしてしまう……。そして、落ち着くと「なんてひどいことをしたのだろう」と自分を責めている方は少なくありません。

そんな複雑な心理には「赤ちゃん部屋のおばけ」という現象が関係しているかもしれません。「赤ちゃん部屋のおばけ」とは、米国の児童精神科医 フライバーグによる言葉ですが、もちろん、怪奇現象とは何の関係もありません。では、「赤ちゃん部屋のおばけ」とはどのような現象なのでしょう?

<目次>  

子どもへのストレスが止まらない……幼少期の体験と子育ての関係

赤ちゃんと2人きりで密室の中で過ごしていると、絵にかいたような「安らかな育児」などありえません。多くの母親が、抱っこしてもあやしても泣き続ける子、片づけたそばから汚していく子に苛立ち、叫びたくなるような心境を覚えているものです。しかし、「思い通りにいかないのが子育て」と割り切り、家族に頼ったり、ママ友と相談しあったり、サポート資源を活用したりしながら、なんとか切り抜けているのではないでしょうか。

そんなバランス感覚を持てるのは、自分自身が過去、誰かに苛立ちや葛藤を受容されたり、物事を深刻に考えなくていい、周りに相談しながら適度な範囲でやればいいと、教えてもらえたりした経験を活かせているからなのかもしれません。

一方、幼少期に虐待などのつらい仕打ちを受けた方の中には、人にうまく頼ることができず、人に心を開いて相談ができない方もたくさんいます。こうした場合、育児で生じるストレスを解消することができず、1人で悩みながらむずかる赤ちゃんと対峙し、密室の中で頭を抱えてしまうことがあります。

 

衝動的に子どもを叩いてしまう……虐待してしまう親の心理

上のような状況のなか、赤ちゃんと2人きりで過ごしていると、子どもから敵意を向けられているように感じられたり、子どもが母親の愛情を利用してわがまま放題をしているかのように思えてしまうことがあります。

すると、「私がこんなに頑張っているのに、どうしてあなたは私を困らせるの!?」「幼い頃の私より何倍も幸せなはずなのに、これ以上何をしてほしいの!?」と思考が極端な方向に向かっていくことも。そして怒りの感情を止められず、とっさに赤ちゃんを攻撃してしまう……。こうした現象を「赤ちゃん部屋のおばけ」と呼びます。まるで、部屋の中に潜む「おばけ」に取り憑かれて、赤ちゃんを攻撃してしまったかのように感じられるためです。

では、こうした「赤ちゃん部屋のおばけ」に至る危機を感じたとき、どうしたらいいのでしょう?
 

「赤ちゃん部屋のおばけ」を避けるためには、胸の内を話すことが大切

テーブルとイス

自分一人で抱えず、ぜひ相談窓口で相談をしてみよう


幼少期に虐待などのつらい経験を持つ方の多くは、「私は自分の親とは違う」「自分がされたようなことは、絶対に繰り返さない」と心に決め、子育てを始められたことと思います。

しかし、密室の中でむずかる子どもを目の前にすると、なぜか自分がされたことと同じようなをわが子に繰り返してしまう――。そんな矛盾がなぜ生じてしまうのかと、不思議に感じているのではないでしょうか?

こうした矛盾が生じる背景には、“いいお母さん”にならねばと頑張りすぎていること、身近に気持ちを受け止めてくれる人、育児を助けてくれる人がいないこと、また、つらい幼少期の記憶が子育てを通じて思い出され、冷静さを保てなくなっていることなどが関係していると思われます。

とはいえ、一人で自分の心理を分析し、軌道を修正するのはなかなかできることではありません。したがって、ぜひ早めに専門的な窓口に相談し、支援を受けることをお勧めしたいと思います。
 

育児の悩みや辛さは抱え込まず、相談窓口に電話を

いちばん身近な相談窓口は、地域の保健センターです。その他にも、最寄りの市区町村の児童保健福祉課、子育て支援センター、県の児童相談所などが相談に対応しています。また、虐待予防や子育て支援を専門とするNPOなどにも電話相談窓口があります。こうした窓口に電話をすれば、何らかのアドバイスをもらえたり、カウンセラーや医師の面接を案内されたり、より適した支援サービスにつなげていただけたりします。

もちろん、夫や友人や知人に気持ちを聞いてもらうことで楽になれるなら、それに越したことはありません。しかし、一時的に楽になっても、場合によっては具体的な解決につながらないこともあるかもしれません。また、身近な方がいつでも効果的なアドバイスをしてくれるとは限らず、逆に責められ、傷つけられてしまうことがあるかもしれません。

自分の気持ちを整理し、何に困っていて、どんなサポートが必要なのかを知るためにも、専門的な窓口で相談し、支援の情報を入手するという方法が役に立つことがあります。周囲の方に「赤ちゃん部屋のおばけ」につながりそうな予感を覚えたときにも、ぜひ上のような身近な相談窓口を調べて、紹介されることも一考かと思います。

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