身勝手なママに対する兄の決断!
『ぼくらの家路』(2013年度作品)10歳のジャック(イヴォ・ピッツカー)は、6歳の弟マヌエル(ゲオルク・アルムス)の世話をしながら生活をするしっかり者の兄。シングルマザーのザナ(ルイーズ・ヘイヤー)は、気分次第で息子たちを可愛がるものの、きちんと子育てしているとは言えない恋愛優先の若い母親。ある日、弟の怪我をきっかけに、ジャックは養護施設に。弟はザナの友人宅へ。養護施設でトラブルを起こしたジャックは、母親のもとへ戻る為に施設を脱走。ベルリンへひとり帰るけれど……。
ファーストシーンから食事の支度をしながら洗濯物を取り込んで、弟を起こすジャックの朝が映し出され、彼が何もしない母の代わりをしている様子がわかります。10歳ならまだ母に甘えたい年齢なのに、しっかりせざるをえないジャックの姿に女性なら母性をギュっとつかまれるでしょう。
母親のザナは暴力を振るうなどの虐待はしません。息子を抱きしめて何度も「愛しているよ」とささやきます。息子二人もママのこと大好きだけど、彼女は息子よりも恋人を優先してしまう母親。そして、ジャックが養護施設に行っている間、弟のマヌエルを友だちに押し付けて、なんと行方不明に! これは完全な育児放棄でしょう(しかし、母親本人はその自覚なし)。
養護施設を飛び出したジャックは、弟とは再会できますが、なかなか母親に会えません。家はロックされたままなので入れず、知り合いを訪ね歩く兄弟。この二人、どうなっちゃうの?と不安な気持ちで見ていたら……。
意外な結末で驚きましたが、ジャックが10歳にして母親との関係に出した答えには胸が痛くなります。10歳にしてここまで決断できるジャック、ある意味凄いけど、ある意味かわいそうすぎて……。
この映画は、是枝裕和監督の『誰も知らない』に少し似ています。あれほどすさんだ生活にはなりませんが、子より男を選ぶ母親を持つと子供は大変です……。こういう事件は現実でも後を絶たないだけに、フィクションだけど妙にリアルに迫ってきます。なおかつ、ジャックを演じたピッツカー少年(写真上:右)が本当に巧くて、涙腺がゆるみますが、ただ涙するだけでなく、社会性も含んだ実に見応えのある力作です。
監督:エドワード・ベルガー 出演:イヴォ・ピッツカー、ゲオルク・アルムス、ルイーゼ・ハイヤー、ネレ・ミュラー=シュテーフェン
(C)PORT-AU-PRINCE Film & Kultur Produktion GmbH
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