歌舞伎/はじめての歌舞伎観劇

歌舞伎のイヤホンガイドは借りるべき? 解説を聞く価値はあるのか

歌舞伎を観るときに、イヤホンガイドを借りたことはありますか? イヤホンガイドは、初心者が歌舞伎を観るときに解説がとても参考になりますが、五感を集中して楽しみたいときには耳障りなのでしょうか。歌舞伎のイヤホンガイドを取材してみました。

宗像 陽子

執筆者:宗像 陽子

歌舞伎ガイド

歌舞伎でイヤホンガイドは借りるべき?

歌舞伎のイヤホンガイドは借りるべきなのか? 

歌舞伎のイヤホンガイドは借りるべきなのか? 


イヤホンガイドを知っていますか?歌舞伎座、国立劇場などで、歌舞伎や文楽を観ながら、あらすじや背景、俳優の紹介、衣装などについてタイミングよく解説が聞ける小さな機器のことです。比較的「通」の人たちは「そんなものいらない」と、イヤホンガイドを使わない傾向があります。理由としては、五感を駆使して歌舞伎を味わっているところに、ごちゃごちゃとうるさい解説必要なしといったところでしょうか。

一方、初心者の方も「チケット代の上、さらにお金がかかるのか」とお財布を覗いてケチ根性が働くこともあるのでは。

今回、イヤホンガイドを使ってみて、結論から申し上げれば「とてもオススメ。通の人も使っている。全然恥ずかしくないし、むしろ歌舞伎を楽しむアイテムとして必須!」ということがわかりました。ぜひみなさんにも借りることをオススメしたいと思います。
 

まずは歌舞伎のイヤホンガイドを使ってみよう

歌舞伎のイヤホンガイドを使ってみよう

歌舞伎のイヤホンガイドを使ってみよう


イヤホンガイドを借りるには、むずかしいことはありません。当日劇場のイヤホンガイド貸出所で借ります。通常700円プラス保証金1000円がかかりますが、1000円は返却時にもどります。

※国立劇場と、大阪の国立文楽劇場には英語版もあります。歌舞伎座は、2013年にリニューアルしてからは英語版字幕ガイドがあるため、英語版イヤホンガイドはありません。

耳に当ててみると、開演前からすでに解説は始まり、本日のみどころなどを聞けるのでとっても得な気分です。演目が始まり、役者が出てくればすかさず屋号、役者の名前を教えてくれます。初めての歌舞伎では「あの有名な役者を観たかったのに、白塗りで誰が誰だか全然わからなかった」ということもありがちですが、その心配も無用。
 

なぜ?絶妙のタイミングの歌舞伎解説

解説が丁寧であることは、ある程度推測されることでしたが、使ってみて驚いたのはその解説のタイミングの絶妙なことでした。

ベラベラとのべつまくなし耳障りに解説がはいってくるわけではありません。「ここは静かに聞かせて欲しい」と思うところでは間をとってくれます(とは言いつつも、さりげなく見所などはきっちり押さえてくれます)。

まるで隣の席に専門家がいて、自分だけのために、横でポソポソと囁いてくれているかのよう。一体イヤホンガイドの仕組みとはどうなっているのでしょうか。もしや解説者は、この劇場内にいるのでしょうか?
 

最初のイヤホンガイド利用者はたったの7人

イヤホンガイドを取り扱っているのは、歌舞伎座からほど近いビルの中にある株式会社イヤホンガイド。その社名からして驚きましたが、イヤホンガイドというのは商標登録をしており、先代の社長さんが始めたものだそうです。

同時通訳ではなく、舞台の同時解説というのは世界でも初めて。微弱電波を使ってなにかしてみたいと考えた社長が、いくつかの失敗を経てたどりついたのが「日本人向けに日本語で歌舞伎の解説をする」というものだったそうです。

会場内にアンテナを張り巡らし、微弱電波を流すいわばミニFM。昭和50年、歌舞伎座顔見世興行でイヤホンガイドはデビューしました。そのときにイヤホンガイドを借りた人は全観客の中でたったの7人だったそうですが、「使ってみるとおもしろい」と次第に利用者が広がっていきました。
 

解説者、制作者、オペレーター、三位一体のチームワークの結晶だった

社内で解説者が解説を録音

社内で解説者が解説を録音


さて、タイミング絶妙のガイドは、どうやって作られるのでしょうか。

まずは、演目が決まり次第台本を入手し、解説者が原稿を書きます。30人ほどいる解説員の中から、誰にどの演目をお願いするかは、イヤホンガイドの制作部で演目の雰囲気やバランスを考えて決めているそう。1時間の演目で、コメントは50~100にも及ぶとか。

解説コメントは、役者の屋号、名前、衣装の説明、ストーリーの背景などは基本。さらに衣装、道具の名前、馴染みの薄くなった言葉や習慣などまで及びます。
舞台稽古を観ながら原稿には修正を重ねていきます。

歌舞伎は、年度が変われば同じ演目を何度も上演しますが、役者も違えば演出も違うので、その都度、原稿も書き直すそうです。

解説者と社内の制作担当といっしょになり原稿を作り上げていき、その後社内で解説の録音をします。

いよいよ上演。 歌舞伎座の場合、オペレーター室があるのは1階。オペレーターは、コメントを入れるチェックの入った台本と舞台を両方見ながら、タイミングを見計らい、機器を操作して、録音されたコメントを放送しているのだそうです。
 

解説は詳しければよいというものではない

暗い中、舞台と台本を見ながら的確にオペレートしていく

暗い中、舞台と台本を見ながら的確にオペレートしていく


株式会社イヤホンガイドのプロジェクト推進室室長の浅野さんによれば、

「解説がすごく詳しければ良いというわけでもないんです。観客の観劇の邪魔にならないように考えなければいけないし、解説のタイミングが1秒でも狂えば、心地よさが全然違ったものになってしまう。また、よりお話を楽しむために伏線を話したい。けれどもそれはネタバレになってしまうといった葛藤や、あくまでも観客が注意を払うのは舞台であって、あまり解説がおもしろすぎて、解説に反応してしまうようではそれもまずい。そのへんのバランスがむずかしいですね」

とのこと。

おもしろく、でもおもしろすぎてもダメ。情報は伝える。でも喋りすぎてもダメ。
静か過ぎず、うるさすぎず。ツボを押さえながら、観客の腑に落ちる解説を作り上げているのです。

オペレーターは、音楽がにぎやかなときには、解説の声も少し大きめに。舞台全体が静かなときには声も小さめにといった音量の微調整もしながら、その場の雰囲気を損ねないように気を配ります。

また、一方の耳が塞がれてしまうわけですから、そのことで舞台の音が入らないことを避けるため、イヤホンからも舞台の音を流しているそうです。

数々の工夫ときめ細やかな心配り。解説者の深い知識、制作での工夫、上演時、臨機応変に機器を操作するオペレーターとの三位一体のチームワークで、イヤホンガイドが成り立っていることに驚きました。
 

歌舞伎のイヤホンガイド使用時は、事前にホームページをチェックを

イヤホンガイドを耳に当てると上演前でもどんどん解説者が話しています。これは、見所をあらかじめ話してくれていますが、本編が始まってからでも聞くことはできるので、お友達との楽しい会話や、トイレに行く時間を中断してまで何が何でも聞く必要はありません。

ただし、時々、特別放送があり、役者のインタビューなどが入っていることがあるそうです!

これは聞き逃すともったいない! 観劇前にイヤホンガイドのホームページで、チェックしておくと良いかもしれません。ホームページには今月の演目の見所なども入っており、歌舞伎を観る前の予習にもぴったりです。
 

くまどりんカード登録で歌舞伎のイヤホンガイドをお得に楽チンに

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お得なくまどりんカード

イヤホンガイドのくまどりんカードは、登録しておくと保証金の必要もなく、さっと やり取りができるので楽チンです。

くまどりんカードの販売価格は、9000円(15台分)、6000円(10台分)で1台分600円。通常借りれば700円ですからリピーター確実の方は、ぜひカード登録をおすすめします。ポイントやプレゼントもつき、お楽しみもたくさん。

イヤホンガイドは、もともと歌舞伎初心者が、もっと歌舞伎を楽しめるよう始められたサービスでした。ですから当初「歌舞伎に慣れてきたら、ユーザーはイヤホンガイドを卒業していく」とイヤホンガイド側も考えていたそうです。

けれども実際は、現在60%以上の利用者はリピーターだそう。これは、解説者、制作者、オペレーターがそれぞれの力を発揮して、通の人たちも満足できるレベルのものに達したからだということが言えるでしょう。私も、もちろんリピーター確定です。

毎回違った解説が聞けるイヤホンガイドを賢く利用して、歌舞伎を2倍も3倍も楽しんでくださいね。
 

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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