マネジメント/マネジメント事例

五輪エンブレム問題に学ぶ、危機管理広報のポイント(2ページ目)

東京五輪エンブレムの盗作デザイン騒動に端を発した問題は、結局デザイナー佐野研二郎氏によるデザイン取り下げで白紙撤回という結末になってしまいました。誰もが膨大なネット情報を手にできることで加速度的にエスカレートした世論の批判的論調が、当事者の危機管理広報対応の瑕疵を突いて、撤回に追い込んだ形とも見て取れました。今回の件から、ネット時代の危機管理広報のあり方を考えてみたいと思います。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

自らを苦しくする「逃げ」の広報

佐野氏一連の疑義とそれに対する対応は、まさしく危機管理広報対応のケーススタディーとなるでしょう。一連の佐野氏の対応をみると、危機管理広報における”ふたつの重要なセオリー”がおさえられていないという事実が浮かびあがってくるのです。順に記します。

ひとつ目は、”危機管理広報における「逃げ」は、自らを苦しくする”です。
オリンピック組織委員会は、当初エンブレムの盗作問題が持ち上がった際には、佐野氏を伴って会見を開きました。しかし、問題がトートバッグはじめ佐野氏個人のデザインに移ると、氏は一切会見を開かずWEB上で一方的なコメントを発表するにとどまり、生のコメントを求めるメディアに対して取材拒否、撮影拒否を表明。これはまさに「逃げ」の広報でした。ここが、この問題におけるターニング・ポイントであったと言っていいでしょう。

解説

不祥事発生時は逃げれば逃げるほど追われるのです。

危機管理広報においては、逃げても逃げても相手はおってくるのであり、また逃げれば逃げるほど追っての追及姿勢は強さを増してしまうのです。少なくともサントリーのトートバックの件では、無断トレースの事実を認めたのであり、この段階で一方的なコメントで済ませて逃げるのではなく、会見を開き謝罪と全ての疑問に直接答えることが最低限必要なことであったと言えます。

こういった対応は、大企業の広報セオリーではないかと思われる向きもあるかもしれません。しかし例え個人や中小組織であろうとも、国家プロジェクトや国民的に注目を集めるような仕事を引き受けているという立場であるならば、自身に関わる不祥事の発生に際しては説明責任が当然の流れとして発生するということを忘れてはいけません。迅速かつ、疑義に対して質問に十分答えるような、直接的コミュニケーションをとることは最低限必要な対応なのです。

 破滅へ導く「怒り」の広報

そしてもうひとつは、”危機管理広報における「怒り」は破滅へ導く”です。
危機管理広報において最も避けなくてはいけないものが、「怒り」の広報です。自分ばかりが一方的に攻め立てられている状況が続くと、そのフラストレーションからつい、「悪いのは自分だけじゃないだろう」とか「そんなことまで言われる筋合いはどこにあるんだ」と言った怒りのコメントを発してしまうことがあるものです。実はこれが最悪なのです。「ひとつダメなら……」の発言はまさしくこれ。その一言が出た途端、すべての受け手を敵に回してしまうほどの破壊力を持っているのです。

過去にも雪印乳業食中毒事件で、メディアに追いかけまわされた当時の社長が思わず「私だって寝ていないんだ!」と感情をあらわにした件や、焼肉えびすのユッケ死亡事件で会見を開いた同社社長がメディアの執拗な責めに対して怒り口調で「ユッケそのものを当局に禁止してもらいたい」と責任転嫁した件は、ともに国民の反感を買って廃業の憂き目に会っているのです。佐野夫人の発言はまさにこのパターンにあたるのです。

ここで考えなくていけないことは、その怒りは誰に向けられるのか、ということ。メディアの執拗な取材攻勢に対する怒りであろうとも、その怒りはメディアを通り越して読者や視聴者、すなわち消費者、国民に向かってしまうのです。こうなってしまうと、国民から総スカンを食らうことになり、ネットでも「大炎上」と言われる収集のつかない状況に陥ってしまうのが今の時代。どうにも手の施しようがなくなって、最悪は、廃業、倒産に追い込まれかねません。

ネットの時代こそセオリー重視で

広報、特に危機管理広報は対応を間違えると、取り返しのつかないことになってしまいます。厳しい追及をされ、場合によっては謝罪さえも求められるかもしれない危機管理広報ですが、「逃げ」「怒り」は絶対にタブーです。新たなメディアの発言力が確立された今、姿なき声につぶされないためにも、この広報セオリーはますます重要さを増してきたと、五輪エンブレムの一件は教えてくれていると言っていいでしょう。
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