なんといっても「紅葉狩」
2015年9月の歌舞伎座は「秀山祭九月大歌舞伎」。2015年9月のパンフレット
毎年9月は、初代中村吉右衛門の功績をたたえ、芸を継承する目的で初代吉右衛門にゆかりの深い演目が並びます。さて、今回の演目は……
<昼の部>
・双蝶々曲輪日記、新清水浮無瀬の場
・新歌舞伎十八番の内紅葉狩
・競伊勢物語
<夜の部>
・通し狂言 伽羅先代萩
となっています。「初めて歌舞伎を観に行ってみたい」「興味がある」という人も、この演目の中から一体どれを観たらいいのか、悩んでしまうことでしょう。そこでガイドが、たった一つ初心者が観るとしたらどれがいいか、お教えします!
今回の演目でぜひオススメしたいのは、昼の部の「紅葉狩」です。
こちらを一幕見で観れば、わずか1200円。イヤホンガイドをつけてもプラス500円です。超一流の役者、音楽家、舞台芸術のオンパレードでわずか1200円。専門家の解説つきでも1700円。安すぎて涙が出ます。
「紅葉狩」は、ジャンルとしては舞踏劇です。初演は、明治20(1887)年といいますから、新歌舞伎ですね。能の「紅葉狩」を素材にして河竹黙阿弥が書き下ろし、後に新歌舞伎十八番の一つに選定されました。平成以降だけでも歌舞伎座で18回上演され、今回が19回目という人気演目です。
おすすめポイントは5つです。順に説明いたします。
その1季節感満載の美しさ
舞台が紅葉で美しく染まる
今回の「紅葉狩」では、たっぷりその絵本のような美しさを堪能してください。
その2 わかりやすいあらすじ
歌舞伎が敬遠される理由の一つに、わかりにくく共感しづらいストーリーというものがあげられます。そんな演目にも、それなりに深い意味もあり、魅力もあります。けれども、初めて観る歌舞伎なら、できるだけわかりやすいものにしたいですね。その点「紅葉狩」は、簡単明瞭。子どもでもわかりやすいので、お子さんと観に行っても楽しめるでしょう。もちろん外国人の方もOKです。あらすじは、以下のとおり。上演時間も1時間ほどで飽きずに楽しめます。
・平維茂と家来が戸隠山山中で、紅葉狩りを楽しむ女性ばかりの一行に出会う。
・興味をもつものの、女性ばかりのお忍びの一行と知り、遠慮して立ち去ろうとする。
・呼び止められていっしょに楽しもうと言われる。
・次から次へと次女が誘いに来る。
・最後には主人の更科姫までが誘ってくるので、そこまで言うならと主従ともども酒宴に参加。
・三枚目の侍女のご挨拶やら、美しい侍女の舞のあとに、平維茂の家来も愉快な踊りを披露し、すっかり場は盛り上がる。
・更科姫が鮮やかな舞をみせるうちに、主従は眠くなる。
・何やら姫たちは、姫らしからぬ足音を立てて退場。
・その後山神が現れ、「あれは本当は姫などではなく、鬼である。逃げたほうがいい」とご注進。懸命に平維茂と家来を起こすが、全く目が覚めない。
・姫たちが戻ってくる。姫は鬼に変身して平維茂に襲いかかる。
・丁々発止の立ち回り。維茂が劣勢になっても、維茂が手にする名刀小烏丸が鬼を寄せ付けず、ついに勝利し、幕。
――というものです。
ナンパ→逆ナンパ→盛り上がり→泥酔→襲われそうになり、立ち回り→勝利
という他愛のないストーリーで、しかもなんだか現代にもありそうなシチュエーションですね(?)。
次ページでもまだまだおすすめポイントは続きます。