いつの世にも新しい歌舞伎はあったのだ
まず、“新作歌舞伎”というものについて解説が必要かもしれません。歌舞伎というのは、400年も昔から脈々と受け継がれてきた伝統芸能ですが、400年前の作品ばかりではありません。
ジャンルの分けかたとしては江戸時代の現代劇としてつくられた「世話物」、江戸時代より前の時代に舞台を設定している「時代物」がありますが、これらは江戸時代に狂言作者によって作られたもの。
この他に「新歌舞伎」と言われるジャンルがあります。「新歌舞伎」というのは、狂言役者以外の文学者や作家が明治以降に書いたものです。坪内逍遥の「桐一葉」、岡本綺堂の「番長皿屋敷」、真山青果の「大石最後の一日」などが今尚上演されています。
第2次世界大戦以降につくられたものはさらに「新作歌舞伎」と言われます。三島由紀夫の「椿説弓張月」(滝沢馬琴の原作を三島が演出・脚本)と、さらに梅原猛のスーパー歌舞伎は、大胆な演出で国際的にも有名になり、新しいジャンルとまで言われました。「ワンピース」も「あらしのよるに」も新作歌舞伎ということになりますね。
つまり、常に新しい歌舞伎は作られ、試され、練られ、生き物のように成長し、すばらしい作品だけが残っていくのです。
では、今、漫画や児童書を原作にしたわかりやすいものが多く出ているのには理由があるのでしょうか。
若い世代にもっと伝統芸能に親しんでもらいたい
今高校生に人気の歌舞伎は…となればおもしろい
次世代、次々世代へと歌舞伎の魅力を伝承する必要があるでしょう。
もともと歌舞伎はセレブ階級の特別高尚な趣味だったわけではありません。江戸庶民の娯楽のひとつだったのです。
誰でもわかり、日常の憂さをはらすことのできる歌舞伎という原点を思い出せば、さまざまな分野で知られている作品が、歌舞伎化されて出てくることは至極当然のことなのです。
海外のファンにもわかりやすいものが求められている
歌舞伎は、近年外国でも、そのすばらしさを認められてきています。日本では歌舞伎を見たこともなかった人が、海外に行って歌舞伎のことを聞かれ、初めて「自分が何も知らなかった」と感じ、日本の伝統芸能に興味をもったということもよく聞きます。
海外に行って生活をした人は、さらに伝統芸能の大切さを身を持って感じています。
ガイドはたまたま、海外生活をしていた人たちが集まる場に行き、話を聞く機会があったのですが、その場にいた多くの人が自分たちの子どもに、日本舞踊、空手、柔道、お琴といった日本の伝統芸能を習わせ、歌舞伎や文楽を鑑賞している傾向があることに軽いショックを感じました。
そういった流れの中で、歌舞伎は“歌舞伎をよく知る通の人による通のための特別な趣味”ではなく、原点に返り、もっと気軽に観に行こうという動きが出ているのではないでしょうか?
アニメなどをきっかけに、日本に興味をもった外国人にもわかりやすいものが求められているかもしれません。
「なんだかきれいだったなあ」 でいい
歌舞伎ってハードルが高いけれど、どんなものなんだろう? 今までは見たことがなかったけれど、観てみたいな。「KABUKI KOOL」を見たら楽しかったから行ってみたいな……そう思っているなら、ぜひ一度歌舞伎を観に行きましょう。「うわー、すごいなー」
「きれいだったなあー」
「音楽が耳に心地よかったなあ」
といった感じを抱いたら、その気持ちを大切にしてください。
そして、また観に行きたいなあと思ったら、また行ってみてください。
また行く。もう一度観る。その積み重ねで、より深い歌舞伎の世界を知ることができるのですから。
幅広い世代をつなげたい
もちろん、若者向き、外国人向きのもの、アニメ、児童書ばかりでは、通の人たちはそっぽを向いてしまうでしょう。ご安心ください。旧来の作品はそのまま毎月上演されています。
幅広い世代が、ともに歌舞伎を楽しむ。そして、次世代へつなげていく。そのために、まずは歌舞伎を観たことがない人向けに門戸を広げるための試みが様々になされているのです。
今始まっている演目が、将来何百年も続いて多くの人達に愛される作品になって欲しいものですね。