ウェルトとは、紳士靴の製法名の由来にもなっている部分
グッドイヤー・ウェルテッド製法などで底付けされた靴に不可欠なパーツ、それがこの矢印の部分であるウェルト=細革です。靴の完成品の状態では見えているのはその半分の「出し縫い」の部分。残り半分は靴の内部で縫合されています。
「グッドイヤー・ウェルテッド製法」など、堅牢さで定評のある底付けの名称の由来となっている細長い部材、ウェルト。日本語の「細革」なる表現は、その形状と材質を端的に示していて名訳だとつくづく感じますが、これはどのように用いられているのかを、まずはおさらいしておきましょう。
1: まず、アッパー・ライニング・インソールとウェルトとを縫合する(掬い縫い・つまみ縫い)。
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2: 1を経た後に、アウトソールとウェルトとを縫合する(出し縫い)。
1を手で行う「ハンドソーン・ウェルテッド」にせよ、機械で行う「グッドイヤー・ウェルテッド」にせよ、要はウェルトを用いた底付けでは、アウトソールと靴本体とを直接は繋げず、これを間に介在させて靴に成型する訳です。
その結果、それらを直接繋げてしまうマッケイ製法などの靴とは対照的に、アッパーやインソールへのダメージを極小にしつつアウトソールが複数回交換可能となります。また、ウェルトが半ば必然的に靴の外周にはみ出るため(極力はみ出させないやり方もありますが……)、それがある種のバンパー的な役割を果たし、アッパーに傷が付いてしまう確率を下げてくれる点も見逃せません。
そう、細く小さいながらも、ウェルトは靴が長期間靴であり続けるために非常に大きな役割を果たすパーツなのです。
通常は上の写真のように、素直に平らなウェルトを靴の前半分のみに巻き付けるのが一般的。かかと周りは釘で固定するので、ウェルトは不要なのです。そして、その製造方法を「シングルウェルテッド」といいます。(呼び名については厳密にいうと、靴の内側と外側のどちら側から釘打ちするのか、鉄釘や木釘などの釘の種類などで更に枝分かれします)
ウェルトをグルッと一周巻く!
「ウェルトが靴を全周する」これが一大特徴であるアレン・エドモンズの靴のかかと周りを撮影してみました。この意匠は外羽根式の紐靴に圧倒的に多いのですがこの靴は何と内羽根式! アレンの徹底振りに驚かされます。
この底付けの方法は、「ダブルウェルテッド」とか「オールアラウンドウェルト」あるいは「360度ウェルト」などとメーカーによって呼称が様々ですが、どれも要はウェルトが靴を全周していることを意味するのは同じです。言われて初めて「あっ!」と思い出す方、結構多くいらっしゃるのではないでしょうか。
いや、逆に、「私の持ってる靴の大半が、この仕様です!」とおっしゃる読者の方もいらっしゃるでしょう。実はアメリカの靴がお好きな方にはお馴染みで、この意匠こそ寧ろ当たり前かもしれません。
イギリスなどアメリカ以外の国で生産されたものにもない訳ではないのですが、それらは大抵、外羽根式のややカジュアルな印象を持った靴のはず。
確かにアメリカの靴、例えばオールデン(Alden)の外羽根式の紐靴やレッド・ウィング(Red Wing)のワークブーツでもこちらが主流です。アレン・エドモンズ(Allen Edmonds)に至っては、グッドイヤー・ウェルテッド製法の靴はデザインがどうであれ大部分がこの方法ですから。
ウェルトを靴の前半分ではなく、全周させる製法の最大の特徴は、本来は「かかと周りの固定に釘を用いずに済む」点です。
釘を使わないということは、軽い靴に仕上げられることに直結する訳で、実際、前出のレッド・ウィングのこの仕様の靴(ヒール一体型のアウトソールを装着しているもの)やアレン・エドモンズのこの意匠のものは、「見た目の割りに軽い!」ことを大きなセールスポイントにしています。
また、かかと周りの固定に釘を使わない代わりに、その周囲に前半分と同様にコルクなどの中物を敷きつめられるので、よりクッション性に富んだ靴に仕上げられる点も魅力です。 更には、釘を使わないと言うのは打った釘を隠す必要がないことも意味します。それ故、アレン・エドモンズやレッド・ウィングのこの意匠の靴は、かかと部の内側にソックシート(中敷き)が付かず、牛革のインソールが剥き出しの極めて潔い構造を採用できるのです。
ただし、この「ダブルウェルテッド」の意匠を採用していても、かかと周りを釘で固定させた靴も非常に多く存在します、と言うか大抵はそちらです。
ですので一般的にはあくまで、見た目の重量感やカジュアル感を増すための意匠、そしてかかと周りのアッパーのダメージを少しでも減らすための意匠と考えた方が素直なのかもしれません。
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