エスカレートした性的衝動が性犯罪につながることも
性的衝動がコントロールできずに取り返しがつかない過ちをしてしまうことが決してないよう、知っておきたいことがあります
今回は精神医学的な視点から、性的衝動とは何か、そして衝動が抑えられなくなる身近な原因、犯罪とは無縁に思える人が間違いを犯してしまう要素について解説します。万が一にでも性的衝動を性犯罪につなげてしまうことがないよう、多くの方に知っておいていただきたいことです。
日常的な性的衝動・衝動の大きさに個人差がある原因
多くの人が性犯罪は自分とは無縁のものだと思われるかもしれませんが、性的な衝動を覚えること自体は、実は誰にでも日常的にあるものです。街で自分の好きなタイプの人を見かけてつい目で追ってしまったり、目の前に素敵な異性が現れて心が少しソワソワと浮ついてしまったりすることも、性的衝動の一種といえます。しかし、この衝動が自分で抑えられないほどエスカレートしていないかには、十分な注意が必要です。人によっては日常生活に支障が出るほど「性的な内容ばかりが頭を巡ってしまう」「もう止めようと思ってもパソコンやスマホで性的なコンテンツばかり集めてしまう」といった悩みがあったりするかもしれません。
性的衝動の度合いには個人差が大きくあります。これには元々の性ホルモンの分泌量などに個人差があることも関係しています。そして、性的衝動に影響を与える主な要因の一つにストレスが挙げられることも、無視できないことです。
ストレスが原因で性的衝動が高まることも……安易な現実逃避につながる可能性も
日常生活で何か解決しがたい問題を抱えている、不安が強い、気持ちが冴えない、怒りを覚えやすくなっている……といった状況に置かれると、人間は何か他のことで気持ちを軽くしたいと、いわば現実逃避に走るような衝動を覚えやすいものです。場合によっては、それが性的衝動になってしまう可能性もあります。もっとも通常は自制することができ、性犯罪のような問題行動につながることは少ないものですが、以下のような要因で衝動のコントロールが甘くなってしまうことがあります。
性的衝動が抑えにくくなる要因……アルコールなども影響
性的衝動のコントロールは、さまざまな要因で難しくなってしまうことがあります。普段は全く問題がなく、社会的で正しい判断ができる人でも、中枢神経系に作用する薬物などには注意しておきたいです。薬物と聞いて、自分には関係がないと考える方が多いと思いますが、ここでいう薬物の一つにアルコールが挙げられます。多くの人にとって日常的な嗜好品とはいえ、その本態は中枢神経系に抑制作用がある薬物の一種です。アルコールの影響下で脳機能が低下すれば、本来コントロールできたはずの性衝動をコントロールできなくなる可能性があります。飲酒は性的な問題に限らず、暴言や暴力などさまざまな問題行動の原因になり得ます。いわゆる「お酒の失敗」がある人は少なくないかもしれませんが、飲酒を甘くみることは無用のトラブルを招いてしまうことがあるのです。
また、セクハラの認識の違いなどに関する問題にも通じるかもしれませんが、性的なことに対する考え方自体が性衝動のコントロールを甘くしてしまう可能性もあります。たとえば「(職業、性別、人種、年齢などの情報からの独断で)○○ならそれくらい問題ない」「異性に少し触るぐらい、たいしたことではない」といった意識があれば、それらの行為への衝動を覚えた際に気持ちを自制しにくく、ストップがかけらない可能性もあります。
性的な問題行動が起こる背景には、元々のパーソナリティとして「衝動のコントロールが苦手」「感情や行動に不安定な面がある」、あるいは「社会的モラルに欠ける傾向がある」など、問題行動につながりやすい要因が関わっていることもあります。また、思考の何らかの不合理性が、問題行動に関係していることもあります。状況によっては自身や周りだけでは問題の対処が難しく、精神科的な治療が望ましいケースもあります。
急性ストレス障害・PTSDなど被害者が負う深刻な後遺症を理解しておくことは重要!
性的なことに対する考え方は人によって千差万別ですが、社会的に許容される範囲はある程度はっきりしているものです。問題行動に対して意識が低すぎる場合は、自他ともにそれをはっきり認識する必要があるでしょう。セクハラなども含めた性的問題に対する意識が、今日、社会的にも高まってきているのは、被害者に深刻な後遺症をもたらすことが広く認知されてきたことも大きいと思います。実際に、性犯罪の被害者の心は、その状況にもよりますが非常に深刻な危機にさらされます。性犯罪被害にあったことで、急性ストレス障害やPTSDと呼ばれる心的外傷後ストレス障害などが現れることがあります。
PTSDは元来、苛酷な戦闘体験を送った兵士にその症状が現われたことから、その病名が生まれました。戦闘時の苛酷な体験が何度も悪夢やフラッシュ・バックといった形でよみがえり、あたかもその時に戻ったかのような緊張状態におちいり、パニックになってしまったりします。性犯罪被害者に類似の精神症状が現われやすいことは、性犯罪は戦場などでの直接生死にかかわるような恐ろしい体験と同レベル、もしくはそれ以上の心的ダメージをもたらす可能性があるということがわかります。
性的衝動には個人差がありますが、時にそのコントロールが難しくなる場合や状況には注意したいです。アルコールや仕事のストレスなど、他の要因と運悪く結びつき、思わぬ問題行動につなげてしまわないためにも、性犯罪の被害の深刻さを決して過小評価しないこともまた、非常に大切なことです。