世界遺産/アフリカ・オセアニアの世界遺産

セレンゲティ国立公園/タンザニア(2ページ目)

マラ川を前に立ち尽くす数百万頭のヌー。川にはワニ、対岸にはライオンやハイエナ、上空にはハゲワシが待ち構えるなか、ついに大移動を開始する! 今回は世界で一番有名なサバンナ、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

雨季を求め移動するグレイト・ミグレーション

1列で川を渡るヌー。泳いでいるように見えるが、実はヌーは泳げない。たとえワニやライオンがいなくても、命がけであることに代わりはない

1列で川を渡るヌー。泳いでいるように見えるが、実はヌーは泳げない。運よくワニやライオンがいなかったとしても、命がけであることに変わりはない

11~1月、ケニアのマサイマラやヴィクトリア湖周辺に散在していたヌーやシマウマ、ガゼル、エランドなどの草食動物たちは、乾季の訪れとともに南下をはじめる。時には1,000kmも移動するというその間に群れが集まってさらに巨大な集団になり、最終的には100~300万にも達するという。

セレンゲティではこの頃雨季がはじまり、平原は草花に彩られる。マサイの言葉で「果てしない平原」を意味するセレンゲティは新芽で覆われて、草食動物たちを引き寄せる。

ブッシュから顔を出すキリン

ブッシュから顔を出すキリン

植物たちは植物たちでヌーが必要だ。大量の糞は土地に養分を与え、ヌーたちの脚はサバンナを踏み固め、芽を食い尽くし根を残すことで草原は一掃されて、土地が再生する。

同時にヌーたちもこの時期ここでいっせいに出産をする。ある調査では、ヌーの子供の9割はこの時期生まれるのだという。プレデターたちの目的のひとつは、襲いやすいこの赤ちゃんたちだ。もっともヌーの赤ちゃんは生まれて数分後にはふらふらながら立ち上がり、翌日には自力で走り回るという。

 

11~1月にセレンゲティに移動したヌーたちは、新芽を求めてセレンゲティの中でも小刻みな移動を繰り返し、そして5~7月、ふたたびマラ川を渡ってマサイマラやヴィクトリア湖周辺へと戻っていく。

移動のルートは季節や年によって異なり、なかには移動しないヌーもいる。マラ川の川渡りもすべての草食動物がいっせいに行うわけではなく、小集団ごとに1~2か月かけて移動する。

プレデターたちのミグレーション

コピエから周囲を眺めるライオン。セレンゲティには所々にコピエと呼ばれる巨大な岩が転がっている

コピエから周囲を眺めるライオン。セレンゲティには所々にコピエと呼ばれる巨大な岩が転がっている

ヌーやシマウマたちが草を求めて大移動を行うように、プレデターたちは弱い、あるいは弱っている草食動物を求めてこの時期マラ川周辺に集まりくる。

サバンナで最強の動物は何か? マサイの人々は「ゾウ」と答える。その次に怖いのは? 「カバ」

ライオンの体重は最大で250kg前後。ゾウは最大約7t、カバは3t。体重差10倍以上ではどうしようもない。たとえば体重60kgの大人が生後6か月の赤ちゃん(だいたい6kg前後)に負けることなんてありえないようなものだ。

ヌーの体重は最大300kg前後でライオンより大きい。スピードもあるので、さすがのライオンも1対1では分が悪い。大人のヌーとまともに戦っては、たとえ勝てたとしても無傷ではすまない。家族にだって食糧を与えなければならないし、狩りは数日に一度はしなければ生きていけない。ケガをするわけにもいかないのだ。

狩りはつねに命がけだ。百獣の王といえど、狩りの成功率は1/4以下といわれている。草食動物の身体は大きいので、なるべく弱いもの、弱っているものを襲わなくては、プレデターたちが生きていけない。

こうして年に2度のグレイト・ミグレーションの季節、プレデターたちはマラ川や雨季のセレンゲティに集まることになる。
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