雨季を求め移動するグレイト・ミグレーション
1列で川を渡るヌー。泳いでいるように見えるが、実はヌーは泳げない。運よくワニやライオンがいなかったとしても、命がけであることに変わりはない
セレンゲティではこの頃雨季がはじまり、平原は草花に彩られる。マサイの言葉で「果てしない平原」を意味するセレンゲティは新芽で覆われて、草食動物たちを引き寄せる。
ブッシュから顔を出すキリン
同時にヌーたちもこの時期ここでいっせいに出産をする。ある調査では、ヌーの子供の9割はこの時期生まれるのだという。プレデターたちの目的のひとつは、襲いやすいこの赤ちゃんたちだ。もっともヌーの赤ちゃんは生まれて数分後にはふらふらながら立ち上がり、翌日には自力で走り回るという。
11~1月にセレンゲティに移動したヌーたちは、新芽を求めてセレンゲティの中でも小刻みな移動を繰り返し、そして5~7月、ふたたびマラ川を渡ってマサイマラやヴィクトリア湖周辺へと戻っていく。
移動のルートは季節や年によって異なり、なかには移動しないヌーもいる。マラ川の川渡りもすべての草食動物がいっせいに行うわけではなく、小集団ごとに1~2か月かけて移動する。
プレデターたちのミグレーション
コピエから周囲を眺めるライオン。セレンゲティには所々にコピエと呼ばれる巨大な岩が転がっている
サバンナで最強の動物は何か? マサイの人々は「ゾウ」と答える。その次に怖いのは? 「カバ」
ライオンの体重は最大で250kg前後。ゾウは最大約7t、カバは3t。体重差10倍以上ではどうしようもない。たとえば体重60kgの大人が生後6か月の赤ちゃん(だいたい6kg前後)に負けることなんてありえないようなものだ。
ヌーの体重は最大300kg前後でライオンより大きい。スピードもあるので、さすがのライオンも1対1では分が悪い。大人のヌーとまともに戦っては、たとえ勝てたとしても無傷ではすまない。家族にだって食糧を与えなければならないし、狩りは数日に一度はしなければ生きていけない。ケガをするわけにもいかないのだ。
狩りはつねに命がけだ。百獣の王といえど、狩りの成功率は1/4以下といわれている。草食動物の身体は大きいので、なるべく弱いもの、弱っているものを襲わなくては、プレデターたちが生きていけない。
こうして年に2度のグレイト・ミグレーションの季節、プレデターたちはマラ川や雨季のセレンゲティに集まることになる。