数あるプログラムのなかでも今回の目玉といえば? 注目作は何でしょう?
佐藤>まずは今回第一回開催を迎える『横浜バレエフェスティバル』。海外のバレエ団で活躍している若手日本人ダンサーや国内で活躍しているダンサー、加えてローザンヌ国際バレエコンクールで受賞した若手ダンサーが出演します。こういった試みは普段は出会えないダンサーたちの出会いの場にもなり、次の企画が生まれる場になったりもします。これは毎年続いて欲しい企画です。横浜ベイサイドバレエ
(C)Kiyonori Hasegawa
あとやはり、最初に話した野外特設会場での『横浜ベイサイドバレエ』。大さん橋を借景に、船も時々行き交っていて、海風を感じながらバレエを観る。日常とはかけ離れた特別な体験ができて忘れがたい公演になります。今年のプログラムは、この8月から東京バレエ団の芸術監督に就任した斎藤友佳理さんが選んでいます。
特設会場では、ストリート系のダンスを集めた『横浜ベイサイドステージ』も上演します。ARTE Y SOLERAのフラメンコや(そもそもフラメンコは野外で踊っていたものですよね)DAZZLE。DAZZLEもストリートから始まりました。あとアメリカのオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』で優勝した EBIKENも出演します。
横浜ベイサイドステージ
市民参加型の野外企画では、『コンドルズと踊る横浜大盆ダンス』もあります。前回はランドマークのドックヤードガーデンで開催しましたが、今回は横浜赤レンガ倉庫前のイベント広場を会場に櫓を組みます。近藤良平さんがつくった盆ダンスや、横浜にちなんだ歌に振りを付けていただいてみんなで踊ります。これは世代を問わず参加できるものなので、ぜひ多くの方に来て欲しいです。
コンドルズと踊る!横浜大盆ダンス2015
神奈川県民ホールでは、秀逸な身体能力のダンサーたちを結集しているバットシェバ舞踊団の『デカダンス』を上演します。『デカダンス』は芸術監督オハッド・ナハリンの代表作の数作品からのハイライトシーンを集めた作品です。フェスティバルで初めてこの舞踊団を観る方も多いと思うので、この作品にしたいとナハリンさんにお願いしました。
DECADANCE (C)Gadi Dagon
冒頭のシーンは代表作『アナフェイズ』で始まります。これは90年代の作品ですが、すごく印象的な踊りですよね。世界の多くのバレエ団がこのパートをレパートリーにしていますけど、本家本元のバットシェバ舞踊団が踊るこのシーンは別格です。『デカダンス』は世界各地で上演されていて、上演される都市によってシーンの組み合わせが変わる作品。横浜公演がどんな作品の組み合わせになるかはナハリンさんが今考えているところですが、この『アナフェイズ』のシーンは入る予定ですのでお楽しみに。
Germinal (C)Alain Rico
『ジェルミナル』は私も大好きな作品です。でも、誰も踊らないんです(笑)。言ってみれば、頭の中が踊る感じでしょうか。4人の男女が普段着で出てきて、何だかぐだぐだしていて最初は“何しているの? もう始まっているの?”という感じなのですが、次第にだんだん引き込まれてゆくのです。かなり荒唐無稽な展開です。とても考え抜かれたシュールさとユーモアがあって、観終わったときは“何て変で面白い作品なんだろう!”と思いました。とにかく今の私たちの価値観では図りがたいすごく新しいものを提案している作品です。
Germinal (C)Alain Rico
この5月にパリに行く機会があったので、そこで会った複数の劇場関係者に“最近観たなかで何が面白かった?”と聞いたら、“『ジェルミナル』だ”と言う。リヨンでは 2012年に上演していましたが、パリは昨年と今年の5月に上演されたらしく、話題になっていました。観客も想像力を全開し、出演者と一緒に考えながら観る作品でもあります。
JUDAS, CHRIST WITH SOY (C)Yoav Barel
『JUDAS, CHRIST WITH SOY』はデュエットで、森山未来さんとエラ・ホチルドさんによる作品です。森山さんは2013年に文化庁文化交流史としてイスラエルやベルギーに行って踊りの研鑽をしていましたが、そこで出会ったのがエラさん。彼女と一緒に太宰治の『駆け込み訴え』をベースに『JUDAS, CHRIST WITH SOY』をつくって現地で発表していて、『自撮り365日』(NHKで放映されたドキュメンタリー)にもそのダンスシーンが一瞬映っていました。
本作品の会場は横浜・HONMOKUAREA-2。以前の映画館で椅子を取り払った空間に仮設舞台をつくります。7月に愛媛の内子座で本作が公演されましたが、横浜での上演は元映画館になります。
Performa 70
『Performa 70』も横浜・HONMOKUAREA-2で上演します。こちらは70年代のアートの熱気、アンチハイカルチャーということでサブカルチャーが席巻しはじめた当時の空気を再現しようという企画。過去に戻ることが未来に繋がるというか。参加型の企画で、ディスコも登場します。
出演者のひとり、黒沢美香さんは、当時本牧にあったディスコに高校時代に通っていたと話していました。60年、70年代にはあの辺りはまだ米軍基地があって、ジャズクラブやディスコなどがいっぱいあったのだそうです。そういう話を聞くと、横浜は短いながらも複雑な歴史があったんだなと感じます。