『ライムライト』観劇レポート
無償の愛とエンターテイナーの“性(さが)”を
気品とユーモア、ペーソスを交えて描く舞台

『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

原作映画のファンでいらっしゃるのか、熟年男性の姿も多い客席。映写機が回る音と「エターナリー」を奏でるピアノの音色に、主人公カルヴェロ役・石丸幹二さんのしっとりとしたナレーションが重なり、心地よさの中で舞台は動き始めます。
『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

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1幕の舞台は大きく二手に分かれ、下手(舞台向かって左側)のアパートのセットではカルヴェロとテリーのドラマが展開。上手の舞台袖風空間ではその他の役者たちが下手の様子を見守り、時にカルヴェロたちに関わりにゆくという構図です。アパートの大家役の保坂知寿さん以外の方々は、1幕の間はアンサンブルに徹していますが、2幕で作曲家を演じる良知真次さんが時折舞台中央でテリーの方を向いてたたずみ、この後の展開を予感させるなど、ところどころにアクセントの置かれた演出。(演出・荻田浩一さん)。チャップリンの自作曲「エターナリー」「いわしの歌」「Spring Song」「You are the song」を補強する形で全篇にちりばめられた荻野清子さん作曲のナンバーも違和感がなく、20世紀初頭の端正で奥ゆかしい空気感に包まれた舞台です。
『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

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かつて一世を風靡した芸人だったが、年老いた今は体の不自由な友人から金を借りるほど落ちぶれているカルヴェロ。そんな彼が偶然別室の異変を察知し、ガス自殺を図ったバレリーナのテリーを救出。人生を悲観した彼女を言葉を尽くして励まします。彼の献身によってテリーは少しずつ生きる気力を取り戻しますが、反対にカルヴェロのほうは久しぶりの舞台で笑いをとれず、クビを言い渡される。失意の彼を励ますうち、テリーには大きな変化が。マイナスの状況にあるもの同士が互いを思いやり、支え合う様は純粋に美しく、心あたたまる1幕の締めくくりです。
『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

穏やかに進行する1幕から一転、2幕では場面がカルヴェロのアパートを出ることで、良知さん演じる作曲家に吉野圭吾さん演じる劇場主、植本潤さんが演じる演出家と、主人公たちが関わる人々が増え、ドラマティックな展開へ。かつて文房具店で働いていたころテリーがほのかな思いを寄せていた青年ネヴィルは立派な作曲家となり、テリーもバレリーナとして成功し、二人は再会。今度はネヴィルのほうがテリーに恋心を抱きますが、テリーは自分を立ち直らせたカルヴェロを深く愛し、ネヴィルに告白される前に「私は結婚するの」と牽制。しかし一瞬彼女の心が揺らいだことをカルヴェロは見てとり、若いネヴィルにテリーを譲ろうとします。3人の恋の行方は、そしてカルヴェロは芸人としてもう一花咲かせることができるのか…。
『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

今回“老け”という意外な役どころに挑戦した石丸幹二さんは、その気品ある持ち味が20世紀初頭の時代感にマッチ。昔日のショーの再現シーンではチャップリンさながらの山高帽に燕尾服でナンセンスソングを歌いますが、それ以外ではことさら表面的な模倣はせず、芸人としての誇りや若い世代に対する愛情など、内面的な部分で(カルヴェロ役を通しての)チャップリンを表現しています。チャップリンの自作曲に本作の作者・大野裕之さんが“若者は輝き 年老いた影消え…”と詞をつけた「エターナリー」の歌唱シーンでは、人の声でありながらまるでヴァイオリンのような、滑らかな“音色”で観客を魅了。声の研究においてはミュージカル界随一である、石丸さんの面目躍如の瞬間です。
『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

原作映画ではやや平面的な人物描写となっていたテリーを、野々すみ花さんは起伏豊かに演じ、他の登場人物たちとの関係性もより、わかりやすいものに。バレリーナ役として端正な踊りも披露しています。インタビューで「描かれていない部分が多い」とネヴィル役の難しさを語っていた良知真次さんは、背筋がぴんと伸びた姿こそ颯爽としていますが、テリーやカルヴェロとのやりとりで見せるためらいの“間”が、この青年の奥ゆかしさを雄弁に物語ります。カルヴェロと同年代らしい劇場主役の吉野さんは、適度な遊び心で登場シーンの空気を和らげ、演出家役の植本さんはそれに輪をかけたお遊び(演出家役のモデルは…と漏らして爆笑を誘う一幕も)で盛り上げ、大家役の保坂さんは抜群のコメディセンスで物語を弾ませます。(劇団四季時代からの盟友である石丸さんとは、丁々発止のやりとりも息がぴったり。)
『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

『ライムライト』写真提供:東宝演劇部

男女3人の愛の純愛とエンターテイナーの“性(さが)”を、気品とユーモア、そしてペーソスを交えて描く本作。演じ手が年輪を重ねてゆけば、また違った味わいが加わることは想像に難くありません。ぜひ数年後に再演を。そしてさらにその数年後にも!

*良知さん以外のご出演者への過去のインタビュー記事 石丸幹二さん

 

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