ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2015年7~8月の注目!ミュージカル

今年も暑い夏が巡ってきました。避暑にぴったりの劇場街では、冷房もかき消されるほど?熱いコンサート『cube三銃士コンサート』や、濃厚な愛憎劇『サンセット大通り』に不朽の名作『南太平洋』、夏休みに家族や知人の子供たちと観たい『サウンド・オブ・ミュージック』等が待機中。開幕後は観劇レポートを随時アップしてゆきますのでお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

夏は一年の中でも特に、上演作品が幅広い季節。長期休暇があるためファミリー・ミュージカルが多い一方で、大人のラブストーリーや、戦争の悲惨さを語り継ぐ作品も上演されます。せっかくですので避暑がてら、普段はご覧にならないタイプの作品に出かけてみるのも良いのでは? 時に冷房の効きすぎる劇場もありますので、羽織もののご持参をお忘れなく!

*7月開幕の注目作
『cube 三銃士 Mon STARS Concert』7月4~6日=草月ホール←観劇レポートUP!
『サンセット大通り』7月4~20日=赤坂ACTシアター←観劇レポートUP!
『南太平洋』7月9~12日=シアター1010 その後愛知、兵庫、福岡、東京などで上演←観劇レポートUP!
『ひめゆり』7月16~21日=THEATRE1010
『王子とこじき』7月25日~8月23日=自由劇場、9月21日~10月4日=京都劇場 ほか全国公演あり←観劇レポートUP!

*8月開幕の注目作
『グッバイ・ガール』8月7~23日=東京国際フォーラムホールC←観劇レポートUP!
『サウンド・オブ・ミュージック』8月9日開幕=四季劇場「秋」

*AllAboutミュージカルで特集した、もしくは特集予定の作品
『エリザベート』観劇レポートを掲載!
『ライムライト』「気になる新星インタビュー」にて出演・良知真次さんへのインタビュー&観劇レポートを掲載!
『End of the Rainbow』「Star Talk」にて出演・彩吹真央さんへのインタビューを掲載!
『ラ・マンチャの男』「Star Talk」にて出演・霧矢大夢さんへのインタビューを掲載!

【Pick of the month JULY 7月の注目作】

サンセット大通り

7月4~20日=赤坂ACTシアター

『サンセット大通り』

『サンセット大通り』

【見どころ】
93年にロンドン、翌年ブロードウェイで初演し、トニー賞では作品賞を含む7部門を制した『サンセット大通り』。アンドリュー・ロイド=ウェバーがハリウッドを舞台に、忘れられた大女優と若い男の愛憎劇を、流麗かつドラマティックな音楽で描写。どこか女性版『オペラ座の怪人』的な風合いのある本作が、待望の再演を迎えます。

大女優ノーマを演じるのは、初演で高い評価を受けた安蘭けいさんと、昨年『ラブ・ネバー・ダイ』でロイド=ウェバーのヒロインを華麗に歌い上げた濱田めぐみさん。またノーマの相手ジョー役には平方元基さんと柿澤勇人さんが、やはりダブルキャストで挑みます。濃厚な愛の悲劇を、彼らがどう演じるか。鈴木綜馬さん扮する、不気味な存在感を放つ執事マックスの“正体”にもご注目を!
『サンセット大通り』稽古より(C)Marino Matsushima

『サンセット大通り』稽古より(C)Marino Matsushima

【稽古場レポート】
稽古も佳境に入った6月18日、都内某所。抽選で選ばれた幸運なオーディエンスとマスコミ陣を前に、まずは若い脚本家ジョーを中心としたナンバー「Let’s Have Lunch」が披露されます。ジャジーで小粋なメロディに乗り、何とか成功への糸口を掴もうとハリウッドで奔走する彼の姿が、目まぐるしくシチュエーションを変えつつ描かれますが、柿澤勇人さん演じるジョーは全身に若者の野心と無鉄砲さが漲り、観ているほうもはらはらドキドキ。
『サンセット大通り』より(C)Marino Matsushima

『サンセット大通り』稽古より(C)Marino Matsushima

続く「With One Look」では、たじろぐジョーを前にノーマが自身の大物ぶりに酔いしれる様が、安蘭けいさんの、マイク無しとは思えぬスケール感たっぷりの歌唱で表現。ジョーと脚本家志望のベティ―がぐっと距離を縮めるナンバー「Too Much In Love To Care」では平方元基さんと夢咲ねねさんのまっすぐな恋がみずみずしく、最後にあわやキス…というところで、演出助手さんの絶妙の「はい、ありがとうございました」の声が響きます。
『サンセット大通り』稽古より(C)Marino Matsushima

『サンセット大通り』稽古より(C)Marino Matsushima

そして久々に撮影所を訪れたノーマの「As If We Never Said Goodbye」では、彼女を思い出した人々に取り巻かれたノーマのこみあげる思いを、濱田めぐみさんが陰影たっぷりに表現。本番ではぜひ両キャストとも観なければ!と思ってしまうほど、ダブルキャストの個性が異なり、それぞれに魅力的な人物像を練り上げていることがうかがえるお披露目会となりました。

【観劇レポート】
煌びやかさと儚さが同居する
濃密なジェットコースター・ドラマ

『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

ライトを落とした舞台に響く、パトカーのサイレン。現れた警官たちが豪邸のプールに見立てた客席を見渡し、浮いている死体を引き寄せるしぐさをすると、一人の青年が立ち上がり、舞台へと歩き出しながらおもむろに語り始める。なぜそこに出入りしていたのか、そしてなぜ死体となってしまったのかを…。

特異な存在であるところの主人公が、若者たちを相手に三角関係を展開する点で、同じロイド=ウェバー作曲による『オペラ座の怪人』の相似形と言える本作ですが、『オペラ座~』が全篇、歌であるのに対して、本作は台詞と歌の融合型。原作である映画版の「名場面」も再現されつつ、感情が高まる局面では自然に台詞からロイド=ウェバーが得意とする流麗なメロディの歌唱へ移行してゆくという作りで、今回の日本版では鈴木裕美さんによる滑らかな演出、演技巧者揃いのキャストによって、さらに壮麗さに磨きがかけられています。
『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

幕開きで「死体」となっていたのは、若き脚本家のジョー。自分の脚本を売りこもうと奔走するもうまくゆかず、借金取りから追い立てられる途中、彼はとある屋敷に紛れ込みます。(ダブルキャストの)ジョーをこの日演じた平方元基さんは、かつては夢と希望に燃えていただろうに、いっこうに日の目を見られずやさぐれた青年を丁寧に体現。“鬱憤”“屈折”とは無縁の役柄が多かっただけに、新境地開拓と言えるのではないでしょうか。
『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

そんなジョーが屋敷で出会う忘れられた映画スターのノーマは、はじめは彼を自身の脚本の仕上げ係程度にしかとらえませんが、次第にその若さと野心に執着し、遂には脅迫にも近い形で彼の愛を求めます。自己完結した大スターでありながら、随所に情緒不安定な片りんを見せるこの日のノーマ役、安蘭けいさん。サイレント映画時代の「大時代」な雰囲気を醸し出しながらも、絶妙のバランス感覚でちょっとした間合いに軽さ、ユーモアを差し挟んでいるのは、現代の観客を意識してのことかもしれません。
『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

ノーマの屋敷を取り仕切るどこか不気味な執事・マックス役は、安蘭さんとともに初演から続投の鈴木綜馬さん。抜群の安定感で、その正体が露われてからはもしかしたらノーマ以上の狂気をはらむ哀しい人物として、物語を膨らませます。ジョーのアドバイスを受けながら執筆をする脚本家志望のベティ役、夢咲ねねさんは宝塚卒業後第一作の舞台。走り去る際の手の形など、ちょっとしたしぐさに可憐な娘役の風情が生き、台詞も明瞭で今後が楽しみです。
『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

『サンセット大通り』撮影:渡部孝弘

このベティとジョーの関係に気づいて以降、ノーマはテネシー・ウィリアムズの現代劇『欲望という名の電車』のヒロイン・ブランチさながらに壊れてゆき、物語は一気に誰にも止められない悲劇的結末へ突き進みます。そしてラストは映画史上にも名高い、あの大階段の名シーン。常識的に見れば痛々しい姿でありつつ、同時に次元を超越した爽快さも漂うのは、やはり安蘭さんのバランス感覚によるところが大きいのかもしれません。水田航生さん、戸井勝海さん、浜畑賢吉さんらその他の出演者も、それぞれの役を的確に表現。煌びやかさと儚さが同居する濃密なジェットコースター・ドラマに仕上がっています。

*ご出演者への過去のインタビュー 安蘭けいさん平方元基さん

*次頁で『cube三銃士Mon STARS Concert』以降の公演をご紹介します!
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