ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.1 知的なドラマティック女優、安蘭けい

ミュージカル界を代表するスターをガイド・松島が訪ね、お話を伺うこのコーナー。第一回は宝塚時代からその存在感と確かな演技、歌唱力で注目を集めてきた、安蘭けいさんです。女優なら誰もが望みそうなドラマティックな役柄を次々と演じてきた彼女に、近年の代表作からこれまで歌ってきた作曲家、そして最新作まで、たっぷり語っていただきました。記事の最後には安蘭さん出演のイベントご招待情報もありますので、お見逃しなく!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

安蘭けいundefined滋賀県生まれ。91年、宝塚歌劇団77期生として首席入団。06年星組トップスターに。その存在感と確かな歌唱力が高く評価され、『スカーレット・ピンパーネル』など当たり役多数。09年に退団後もミュージカル、ストレートプレイで活躍。最新作は9月開幕の『Next to Normal』。夏バテ対策は「毎日半身浴で良い眠りにつくこと、冷たいものを飲まないこと」。最近キックボクシングにもはまっているそう。(C) Marino Matsushima

安蘭けい 滋賀県生まれ。91年、宝塚歌劇団77期生として首席入団。06年星組トップスターに。その存在感と確かな歌唱力が高く評価され、『スカーレット・ピンパーネル』など当たり役多数。09年に退団後もミュージカル、ストレートプレイで活躍。最新作は9月開幕の『next to normal』。夏バテ対策は「毎日半身浴で良い眠りにつくこと、冷たいものを飲まないこと」。最近キックボクシングにもはまっているそう。(C) Marino Matsushima

古代のヌビア王女(『王家に捧ぐ歌』アイーダ)から、日本人で初めて公に国際結婚をした女性(『MITSUKO』クーデンホーフ・ミツコ)、忘れられた銀幕の大女優(『サンセット大通り』ノーマ)まで……。俳優の醍醐味は様々な人生を生きられること、と言われますが、安蘭さんほど戦乱や差別や狂気を乗り越え、愛に生きるドラマティック・ヒロインを演じてきた女優も珍しいでしょう。彼女がこうした役に恵まれ、また見事に成功させてきた背景にあるものとは? 最新作の話題なども織り交ぜ、安蘭さんの思いを伺いました。

願うこと、口にすることからすべては始まる

――宝塚時代もその存在感は際立っていましたが、2009年に星組トップとして宝塚を退団されてからも、ドラマティックな諸役で輝いていらっしゃいますね。

「いろいろな役をやらせていただいていますが、特に演じていて楽しいのは、実在の女性の一代記です。資料を集めながら、丹念に役を練って行くことができるじゃないですか。そんな仕事をしたい!と言い続けていたら、2011年には『エディット・ピアフ物語』『アントニーとクレオパトラ』『MITSUKO』でピアフ、クレオパトラ、クーデンホーフ・ミツコという3人の女性の一代記を演じる機会が巡ってきました。言霊(ことだま)ではないけど、言葉の力って本当にあるんだなあと思いますね」

――拝見していて特に、ミツコ役は印象的でした。19歳でボヘミアの貴族と結ばれるものの、夫は病死。異国の地で7人の子を育てあげるが、子供たちからは「鬼婆」と疎まれてしまう……。想像を絶する孤独の中で生き抜いた女性の、強靭な精神を安蘭さんは見事に体現されていたと思います。
『MITSUKO』撮影:村尾昌美

『MITSUKO』撮影:村尾昌美

「子どものいるお客様たちは、特に(「親の心子知らず」という切ない)親子関係に感情移入して下さったようですが、私自身は結婚もしていないし子供も持ったことが無いので、もっとドライなとらえ方をしていたと思います。あの時代(19世紀末)のヨーロッパには、誰もミツコのような(東洋人の)顔の人はいなかったわけで、人種差別は半端でなかった。その中で子供たちを立派に育てようとしたのですから、頑固にも偏屈にもなって当然です。それが子供たちには理解できなかったのですが、私は、彼女自身は自分の生き方を少しも後悔していなかったような気がします。それが最後のナンバー『後ろを振り返らずに』に集約されていると思うんです」

世界的な作曲家たちを歌いこなして

――安蘭さんは世界に名だたる作曲家たちのナンバーを次々と歌っていますが、作曲家それぞれに対してどんな印象をお持ちでしょうか。まずは『スカーレット・ピンパーネル』『MITSUKO』『アリス・イン・ワンダーランド』と縁の深いフランク・ワイルドホーンから。
『アリス・イン・ワンダーランド』写真提供:ホリプロ

『アリス・イン・ワンダーランド』写真提供:ホリプロ

「大好きな作曲家です。『スカーレット~』の『炎の中へ』など、ふとしたときに頭の中に浮かんでは自分を奮い立たせてもらっています。ただ、歌うとなると彼の音楽は一曲一曲がものすごく情熱的。歌い手にもそれが要求されるので、次の場面で自分のナンバーがあると、前の場面からひそかに心の準備をしています(笑)」

――『サンセット大通り』のアンドリュー・ロイド=ウェバーは?
『サンセット大通り』写真提供:ホリプロ

『サンセット大通り』写真提供:ホリプロ

「彼の音楽はとても繊細。ワイルドホーンがハンバーガーなら、ロイド=ウェバーはフランス料理というイメージかな(笑)。どちらも、メロディは思いがけないところに音が飛ぶのですが、ロイド=ウェバーのほうが歌い手に『頭を使わせる』という印象です。対照的な作曲家ですが、私はどちらも好きです」

――それでは『チェス』のアバ(ベニー・アンダーソン&ビョルン・ウルヴァース)は?
今冬再演が予定されている『Chess in concert』(梅田芸術劇場)撮影:村尾昌美

今冬再演が予定されている『Chess in concert』(梅田芸術劇場)撮影:村尾昌美

「『チェス』のスコアにはびっくりしました。前の二人ともまた違って、こんなの見たことない!というような音の飛び方で。『チェス』を書いた当時、アンダーソンとウルヴァースはキャリアの円熟期で、溢れ出るアイディアがそのまま詰め込まれたのかもしれません。特に前半の『Mountain Duet』や、終盤、人物たちが言い合う『End Game』は歌い手たちの息が合うよう、稽古するのが大変でした」

新作は『RENT』以来の衝撃作

――この秋、出演される『next to normal』は09年トニー賞で主演女優賞他3部門、そして翌年のピューリッツァ―賞を受賞。躁鬱病の母をめぐる家庭劇、という異色の社会派ミュージカルですね。
『Next to Normal』ブロードウェイ公演より。写真提供:東宝

『Next to Normal』ブロードウェイ公演より。写真提供:東宝

「私は、自分が出演するなんて思いもよらない頃にブロードウェイでこの作品を観たのですが、『こういうテーマでミュージカルが創れるんだ』という驚きがまず、ありました。主人公のダイアナはある出来事をきっかけに躁鬱病になり、一家は18年間、微妙なバランスを保ちながら日々を過ごしている……。あまりにもリアルで、いったいどうなるのかと思いながら観始めると、重いテーマをあえて斬新なセットとポップな音楽で表現していて、観客は深刻にならずに観ることができる。こういうふうにできるのか、と新しいミュージカルの形を観た思いがしました。『RENT』を観た時以来の衝撃です」

――ダイアナ役をどうとらえていますか?
「私の知人にもこの病気の人はいますし、現代人なら誰でも、ふとしたことで躁鬱病にならないとも限らない。何となく理解できるような気はします。彼女がそれをどう乗り越えてゆくのか、観た方が希望を感じていただけるよう演じていきたいです」

――台本だけ読むと、一瞬ストレートプレイかと思ってしまうほど、歌詞も饒舌ですし、文学的な表現がちりばめられていますが、それがポップなメロディに乗せられる点が、この作品のポイントなのですね。

「演じる側としては、こういうストーリーなら重い音楽のほうが入っていきやすいので、逆にポップな曲調は手ごわいですね。翻訳物のミュージカルって、作者との民族的な感覚の違いから『え、こういう感情なのにこういう曲調?』と感じられることがあると思いますが、本作はその点で、私がこれまで演じてきた中で一番難しい作品。作者の意図をお客様にぴったり伝えられるよう、しっかり準備していきたいですね」

夢は、ミュージカル映画を作ること

――今後、「やってみたい」と思っていることは?

「映画をやってみたいんですよ。それも、出来ればミュージカル映画。そのためには、まずは面白いオリジナルミュージカルを作らないといけませんね。中川(晃教)君とか、役者仲間で『作ったらどこか小さい劇場で試演しよう』なんて話はしているんですよ、なかなか実現しないんですが(笑)。映画なら『モテキ』、演劇で『焼肉ドラゴン』、ああいう作品が好きなんです。楽しいオリジナルミュージカルを作って、それを映画化できたら……というのが、今の夢です」

どんな質問にも誠実かつ率直に答える安蘭さん。スタッフから信頼され、また役者仲間からは慕われる人柄が感じられる一方で、コメントにはしばしば客観的な視点が覗き、座長として作品やプロダクション全体を見渡してきた人ならではの知性がうかがえました。これからも彼女を通して、様々な女性の生き方を観てみたい……。そう思わせてくれる、アクトレスです。

*公演情報『next to normal』2013年9月6日(金)~29日(日) 東京・シアタークリエ、2013年10月4日(金)~6日(日) 兵庫・芸術文化センター http://www.tohostage.com/ntn/

*安蘭けいさん出演『next to normal』スペシャル・ライブ・イベント読者招待のお知らせ*
8月23日19:30~、原宿で開催される『next to normal』スペシャル・ライブ・イベントにAllabout読者5組10名様をご招待します。安蘭けいさんのほか、シルビア・グラブさんら本作の出演者がずらりと登場、今秋の話題作『next to normal』の世界が歌とトークで紹介されます。締め切りは8月15日。詳細、ご応募は https://wwws.toho-ad.com/next_special_event/ で確認下さい。All About読者用に特別に5組の枠をご用意いただいておりますので、ご応募の際はお名前の後に必ず「All Aboutを読んで応募」と記載してください(当選確率が高くなるかも…?!)

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