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2015年新登録の世界遺産(4ページ目)

2015年6~7月にかけてドイツのボンで行われた第39回世界遺産委員会で、新たに24件の世界遺産が誕生し、世界遺産総数は1031件となった。日本の物件では「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」の登録が決定し、日本で19件目の世界遺産となった。今回は新登録の世界遺産全リスト(解説付き一覧)、拡大された世界遺産、危機遺産リストの変更点等、第39回世界遺産委員会の概要を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

2015年新登録の世界遺産全リスト 文化遺産 後編

世界遺産「エフェソス」のケルスス図書館

世界遺産「エフェソス」のランドマーク、ケルスス図書館。エフェソスは第二回三頭政治を主導したローマ帝国のアントニウスとエジプトの女王クレオパトラのカップルが滞在したことでも知られる

■エフェソス
Ephesus
トルコ、文化遺産(iii)(iv)(vi)
紀元前11世紀前後にイオニア人によって開拓されたと見られる古代都市で、紀元前6世紀には「世界の七不思議」に選ばれている「エフェソスのアルテミス神殿」が築かれた。マケドニアの大王アレクサンドロスやエジプトの女王クレオパトラも訪れた美都市で、ランドマークのケルスス図書館はアレクサンドリア、ペルガモと並ぶ世界三大図書館として知られている。イスラム勢力の攻撃や港の沈降で廃墟となったが、その美しさは衰えていない。

■ディヤルバクル城塞とヘヴセル庭園の文化的景観
Diyarbakir Fortress and Hevsel Gardens Cultural Landscape
トルコ、文化遺産(iv)
ディヤルバクルはチグリス川流域に栄えた古代都市で、メソポタミアとヨーロッパ、中央アジアをつなぐ要衝として発展した。その立地のよさから幾多の国々の侵攻を受け、街はローマ帝国からビザンツ帝国の時代にかけて築かれた高さ8m・幅5mに及ぶ強力な城壁5.8kmに囲まれた城塞都市となった。城内にはチグリス川から水が引かれており、庭園・農園・果樹園を備え、美観にすぐれるだけでなく籠城に耐える構造になっている。

■リューカン-ノトデン産業遺産地区
Rjukan - Notodden Industrial Heritage Site
ノルウェー、文化遺産(ii)(iv)
リューカンは氷河によって削られた渓谷=フィヨルドの谷に位置する町。落差300mを誇るリューカン滝に水力発電所を設置して以降、人工肥料の生産を行うノルスク・ハイドロ社をはじめ、さまざまな化学工場が建設された。ノトデンはリューカンから80kmにある町で、両者は鉄道や船舶によって結ばれ、工場地帯を形成した。フィヨルドを中心とした風光明媚な景観と産業遺産が見事に調和しており、その文化的景観の価値が認められた。

■シャンパーニュ地方の丘陵群、メゾンとカーヴ
Champagne Hillsides, Houses and Cellars
フランス、文化遺産(iii)(iv)(vi)
17世紀にはじまったシャンパーニュ地方のヴァン・ムスー(スパークリング・ワイン)=シャンパン製造に関連するワイン畑の文化的景観と、ワイナリー・醸造所・貯蔵庫・住宅などの産業遺産をまとめた物件。構成資産は3つの地域、オーヴィレールの歴史的ワイン区画、ランスのアイとマルイユ・シュール・アイとサンニケーズの丘、エペルネのシャンパーニュ通りとシャブロル城砦からなっている。

■ブルゴーニュのブドウ区画、クリマ
Climats, terroirs of Burgundy
フランス、文化遺産(iii)(v)
クリマはブロゴーニュ地方独特の呼び名で、土壌や気候の違いで区画された畑を示す。クリマの違いが土地によるワインの色や味や香りの違い=テロワールを生むとされており、すぐれたクリマは多く生産者によってさらに細分化されている。世界遺産に登録されたのはデジョン南部からマランジュにかけての丘陵地で、コート・ド・ニュイやコート・ド・ボーヌのクリマ1,247区画に加えてディジョンの歴史地区を含んでいる。

■スーサ
世界遺産「スーサ」

古代都市スーサの都市遺跡。この大地からおよそ5000年にわたる古代都市の遺構・遺物が出土している

Susa
イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
スーサ(シューシュ)は紀元前4000~前3000年頃に発展した古代都市。エラム王国の首都が置かれたが、その後アッシリアによって滅亡。アケメネス朝ペルシアのダレイオス1世によって冬の都として再建されると、城壁に囲まれた城塞都市として発展した。アケメネス朝滅亡後も地方都市としてあり続け、イスラム教伝来後はイスラム都市として繁栄したが、13世紀のモンゴル帝国の侵入によって廃墟となった。

■マイマンドの文化的景観
Cultural Landscape of Maymand
イラン、文化遺産(v)
2,000mを駆け上がる半砂漠の断崖上に立つマイマンド村。人々は岩山を掘った岩窟住居や岩を積み上げた石造住居を造り、季節によって移住を繰り返す半遊牧生活を古代から続けている。降水量が少ないため、水は貯水池や地下水路カナート、雨季になると現れる季節性の川=ワジによってまかなっている。羊の放牧やビスタチオ、アーモンドの採取などで生計を立てているが、近年は都市に出る若者も多く、存続が危ぶまれている。

 

■百済歴史地区
Baekje Historic Areas
韓国、文化遺産(ii)(iii)
百済は紀元前18~後660年(諸説あり)にかけて繁栄した王国で、高句麗、新羅とともに朝鮮半島の三国時代を形成した。文化的には唐の影響が強いが、朝鮮半島には倭国の任那が置かれていたことから三か国+唐+任那という複雑な政治状況にあり、文化的にもさまざまな交流があった。構成資産は公州市の公山城と松山里古墳群、扶余郡の官北里遺跡、扶蘇山城、陵山里古墳群、定林寺跡、羅城、益山市の王宮里遺跡と弥勒寺跡。

■サウジアラビアのハイル地区にあるロックアート
Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabia
サウジアラビア、文化遺産(i)(iii)
サウジアラビアはもちろん中東でも最大級、数の上でも最多となる岩絵群で、約1万年前から制作がはじまり、イスラム教が広がる7世紀頃まで続いたと考えられている。さまざまな鳥類や哺乳類の絵が存在するが、特にアラビア半島が乾燥化した紀元前3000~前2000年頃以降はラクダが頻繁に描かれている。王と見られる男や狩りの様子、ラクダを操る姿を描いたものもあり、当時の気候や文化を伝える貴重な遺産となっている。

■シンガポール植物園
Singapore Botanical Gardens
シンガポール、文化遺産(ii)(iv)
シンガポール初の世界遺産。熱帯の植民地に建設された珍しい植物園で、イギリスが1859年に設立した。貴重な熱帯植物園であるだけでなく、マレーシアから分離独立した1965年以降はリー・クアン・ユー首相主導の緑化促進を目的とするガーデン・シティ計画の中心となってシンガポールの近代化に貢献した。植物園といっても現在は東京ドーム13個分という大きさを誇る公園で、ピクニックやコンサートなども行われている。

■土司遺跡群
Tusi Sites
中国、文化遺産(ii)(iii)
土司(どし)とは、13世紀から20世紀にかけて元や明、清朝の政府が少数民族の長たちに与えた官職だ。土司に世襲の統治権を与えて少数民族を管理させることで、中央政府は各民族を間接的に統治し、独自の習慣や生活様式の継続を認めることで反発を抑えた。構成資産は湖南省の永順老司城遺跡、湖北省の唐崖土司城遺跡、貴州省の播州海竜屯で、城砦や衛所・荘園・墓地などが含まれている。

■明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業
Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining
日本、文化遺産(ii)(iv)
本記事、第2ページ参照。

■グレート・ブルカン・カルドゥン山と周辺の聖なる景観
Great Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscape
モンゴル、文化遺産(iv)(vi)
ヘンティー山脈はモンゴル北東に横たわる山脈で、北極海と太平洋の分水嶺。グレート・ブルカン・カルドゥン山はそのヘンティー山脈の岳のひとつで、モンゴル族の先祖ボルテ・チノがこの地に住んでいたことからモンゴル族発祥の地とされる。古代から山岳信仰の聖地として崇められ、仏教伝来後は仏教寺院が築かれた。チンギス・ハンも聖なる山として敬い、自分の墓をこの地に指定したが、墓はいまだ見つかっていない。

■ヨルダン川対岸の洗礼地、ベタニア[マグタス]
Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)
ヨルダン、文化遺産(iii)(vi)
ヨルダン渓谷にあるベタニアは『新約聖書』に「ヨルダン川対岸のベタニア」と記されており、ナザレのイエス(キリスト)が洗礼者ヨハネから洗礼を受けたと伝わる土地。イエスはこのあと40日の断食に入り、悪魔の誘惑を退けて教えを広める旅に出る。構成資産は対岸の地とされるテル・エル・ハラール(エリアの丘)と洗礼者ヨハネ教会で、関連の教会・礼拝堂・修道院・ヨハネが住んだ洞窟・灌漑設備などが含まれる。

■サン・アントニオ・ミッションズ
San Antonio Missions
アメリカ、文化遺産(ii)
サン・アントニオ・ミッションズは18世紀に托鉢修道院フランシスコ会によってサン・アントニオ川流域12kmに開拓された土地だ。ネイティブ・アメリカンの襲撃に備えて城壁を建設しつつ、この地に数々の教会や修道院を建てて彼らにキリスト教の布教を行った。構成資産はフランシスコ会の5つの植民地で、教会関連の施設の他にスペイン風の住居や井戸・農地・倉庫・灌漑設備などが含まれている。

■テンブレケ神父の水道橋水利施設
Aqueduct of Padre Tembleque Hydraulic System
メキシコ、文化遺産(i)(ii)(iv)
1554年~1571年に建設された水道橋で、その名はフランシスコ・デ・テンブレケ神父にちなんでつけられた。水道橋と水路はローマ帝国時代に発達したヨーロッパの先端的な技術を応用したもので、全長48.22kmに及んでいる。一方、水路の素材は有機物を練り込んだ日干しレンガ=アドベを多用しており、メソアメリカに伝わる建築技術を利用している。ヨーロッパとアメリカ、両大陸の文化の融合が見られる貴重な産業遺産だ。

■フライ・ベントスの文化的・産業的景観
Fray Bentos Cultural-Industrial Landscape
ウルグアイ、文化遺産(ii)(iv)
ウルグアイ川の西に位置するフライ・ベントスの工業団地は1859年に肉の塩漬けからはじまった。1961年にウルグアイ最大の食肉加工工場が建設されると、肉の調達から加工・梱包・発送まで、すべての工程をこの地で行い、ウルグアイ経済に大きく貢献した。構成資産には1865年からコンビーフをヨーロッパに輸出しているリービッヒ社や、1924年から冷凍肉を生産しているアングロ社の工場の他に、労働者の住居や社会施設などが含まれている。
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