俳優たちの持ち味を存分に生かした“バックステージ”もの

――上口さんと染谷さんは、角川さんが映画を撮っていらっしゃることは以前からご存知だったのですか?

染谷「はい。角川さんとは舞台で共演して知り合ったけれど、映画を撮っていらっしゃることはいろんな方面から聞いていました。そして短編の『ユメのおと』を拝見して、素敵だなと思っていました」
上口耕平undefined85年和歌山県生まれ。幼少期からダンスを学び、高校在学中に数々のダンス コンテストで入賞。卒業後俳優デビューし、多数の作品に出演。最新作に『ブルームー ン』『タイタニック』『シスター・アクト~天使にラブソングを』『道化の瞳』など。(C)Marino Matsushima

上口耕平 85年和歌山県生まれ。幼少期からダンスを学び、高校在学中に数々のダンス コンテストで入賞。卒業後俳優デビューし、多数の作品に出演。最新作に『ブルームー ン』『タイタニック』『シスター・アクト~天使にラブソングを』『道化の瞳』など。(C)Marino Matsushima

上口「僕にとって角川さんは事務所の先輩なんですが、舞台作品ではご一緒したことがなくて、今回が初めて。ですから最初から“監督”と呼ばせていただきました(笑)」

――上口さんは親の愛を知らずに育った青年、染谷さんは右手に障害のある元サッカー少年という設定。お二人の起用にはどんな意図があったのですか?
『蝶~ラスト・レッスン~』

『蝶~ラスト・レッスン~』

角川「映画を作るにあたっては俳優さんと信頼関係を作って作りたいなというのがあって、去年の5月から何人かに声をかけて、ワークショップを行いました。毎週火曜日に夜2時間、お金を払っていただいて。洸太くんは共演していた時から好きな俳優さんで、秋ごろのワークショップから参加していただきました。僕は型にはまった演技より、相手から言葉や動きをもらったところで自分のリアクションをするのがいいと思っているけど、洸太君は型にはまらず、そういう演技が自然にできるタイプなんです。

上口君はワークショップには参加してなかったけど、この役は(内に秘めたものをダンスで表現するため)ダンスが内面から湧き上がってきて踊れるという設定だったので、彼のような俳優さんが必要でした。彼自身も前から映画に興味があったらしくて“何かあったら声かけて下さい”と言われていたのもあったのでお願いしたら、スケジュールもたまたま空いていたんです」

――映像をやってみて、舞台との違いは感じましたか?

上口「僕は映像自体は出演経験があるけれど、今回改めて面白い、刺激的だなと思いました。今回はいかにナチュラルに演技するかが問われたけれど、映画でナチュラルに見えるためには、実際よりさらにナチュラル感を追求したほうがいいようなんです。例えば声を、普段そんな音量でしゃべらないというくらいに落とすとか。リアルということをすごくみんなで話し合ったり追求しました。出来上がりを見て“僕はこういう声でしゃべってるんだ…”という発見もありました」

――キャラクターが抱えているものをどう表現しようとされましたか?
染谷洸太undefined85年東京都生まれ。17年間のサッカー人生から一転、舞台の道へ進む。東宝 ミュージカルアカデミーを卒業後、個性的な歌声と歌唱センスを武器に、『ミス・サイ ゴン』『ラブ・ネバー・ダイ』『Before After』『bare』『シャーロック・ホームズ2』 などのミュージカルで活躍している。(C)Marino Matsushima

染谷洸太 85年東京都生まれ。17年間のサッカー人生から一転、舞台の道へ進む。東宝 ミュージカルアカデミーを卒業後、個性的な歌声と歌唱センスを武器に、『ミス・サイ ゴン』『ラブ・ネバー・ダイ』『Before After』『bare』『シャーロック・ホームズ2』 などのミュージカルで活躍している。(C)Marino Matsushima

染谷「僕は逆に出そうとしない、自然に出てくるものに任せようとしました。彼は右手が動かなくなっている役で、自分とリンクする部分があったんです。僕もサッカーをずっとやっていて、故障で諦めた経験がありまして。その後歌に転向して、何にもない状態で何かを掴もうとしていたんです」
『蝶~ラスト・レッスン~』

『蝶~ラスト・レッスン~』

角川「この役はもともと、バトントワラーという設定でした。ワークショップの時点で洸太君にどの役をやってもらうかは決まっていなくて、話していく中で彼のサッカー経験の話を聞いて、変えようかという話になりました。ダンスシーンにサッカーボールを絡ませるという発想は当初はなかったけれど、彼が来てくれたことで逆に、ヴィジュアル的にも他にはない作りになったと思います」

――上口さんが演じるお役は、本作の中でもとりわけ暗いお役ですね。

角川「彼はどちらかというと明るいイメージを持たれることが多いけれど、そういう人にも裏側、闇が絶対あるだろうし(笑)、そういうものを出してもらいたいと思ったんです」
『蝶~ラスト・レッスン~』

『蝶~ラスト・レッスン~』

上口「面白かったのは、いくつかダンスシーンがあるんですけど、監督から“今から何十秒、これくらいのテンポ感で、途中激しく”といった具合に言われて、しーんとした中で踊ったんですよ。普通は何かしらの音楽が流れているのに、その時は自分の息しか聞こえないような状態で、途中から何が何だかわからなくなってきて。闇じゃないですけど、自分の中身が滲み出るしかない。自分の知らない部分が出たのではないかなと思います」

染谷「今回、角川さんはキャスティングにあたって、お互い共演したことない人たちを選んだそうです。それで起こる化学反応をそのまま生かしていらっしゃいました」

上口「例えば臼井ミトンさんと洸太君が出会って間もなく話しているシーンは超、リアル。ミュージカルの現場では、だいたいどこでも知り合いがいたりして、グループがぱぱぱっと分かれるんですね。僕は意外と人見知りなんだけど(笑)。今回、ミトンさんと洸太君が自然にくっついて、“どうなの”“こうなんですよ”という感じがまさにリアルで、角川さんの思惑通りだなと思いました(笑)」

――AKANE LIVさん演じる劇中の演出家が台本も何もなしに「はい、やってみて」という演出方法は独特でしたが、ああいう手法はよくあるのですか?
『蝶~ラスト・レッスン~』

『蝶~ラスト・レッスン~』

上口「ワークショップではなく、お稽古の初日に台本も何もない……というのは、さすがに経験したことがないです」

角川「似たようなことはありますよ。例えば、主人公が旅をするシーンで、各国の人々を表現するアンサンブルに対して、“何かやってみて”と演出家がおっしゃる。そこで出てきたアイディアに対して“それはこういうふうに使おう”と決めてゆかれるということはあります。どSな感じではあるけれど(笑)、そういう演出をされると、その人の本質が出てくるんですよ。そんな中でも食らいつく人たちが、何かを掴んで行くんです」

*次ページでは今回の作品経験を踏まえてのお三方の抱負をうかがいました!