俳優たちの持ち味を存分に生かした“バックステージ”もの
――上口さんと染谷さんは、角川さんが映画を撮っていらっしゃることは以前からご存知だったのですか?染谷「はい。角川さんとは舞台で共演して知り合ったけれど、映画を撮っていらっしゃることはいろんな方面から聞いていました。そして短編の『ユメのおと』を拝見して、素敵だなと思っていました」
上口耕平 85年和歌山県生まれ。幼少期からダンスを学び、高校在学中に数々のダンス コンテストで入賞。卒業後俳優デビューし、多数の作品に出演。最新作に『ブルームー ン』『タイタニック』『シスター・アクト~天使にラブソングを』『道化の瞳』など。(C)Marino Matsushima
――上口さんは親の愛を知らずに育った青年、染谷さんは右手に障害のある元サッカー少年という設定。お二人の起用にはどんな意図があったのですか?
『蝶~ラスト・レッスン~』
上口君はワークショップには参加してなかったけど、この役は(内に秘めたものをダンスで表現するため)ダンスが内面から湧き上がってきて踊れるという設定だったので、彼のような俳優さんが必要でした。彼自身も前から映画に興味があったらしくて“何かあったら声かけて下さい”と言われていたのもあったのでお願いしたら、スケジュールもたまたま空いていたんです」
――映像をやってみて、舞台との違いは感じましたか?
上口「僕は映像自体は出演経験があるけれど、今回改めて面白い、刺激的だなと思いました。今回はいかにナチュラルに演技するかが問われたけれど、映画でナチュラルに見えるためには、実際よりさらにナチュラル感を追求したほうがいいようなんです。例えば声を、普段そんな音量でしゃべらないというくらいに落とすとか。リアルということをすごくみんなで話し合ったり追求しました。出来上がりを見て“僕はこういう声でしゃべってるんだ…”という発見もありました」
――キャラクターが抱えているものをどう表現しようとされましたか?
染谷洸太 85年東京都生まれ。17年間のサッカー人生から一転、舞台の道へ進む。東宝 ミュージカルアカデミーを卒業後、個性的な歌声と歌唱センスを武器に、『ミス・サイ ゴン』『ラブ・ネバー・ダイ』『Before After』『bare』『シャーロック・ホームズ2』 などのミュージカルで活躍している。(C)Marino Matsushima
『蝶~ラスト・レッスン~』
――上口さんが演じるお役は、本作の中でもとりわけ暗いお役ですね。
角川「彼はどちらかというと明るいイメージを持たれることが多いけれど、そういう人にも裏側、闇が絶対あるだろうし(笑)、そういうものを出してもらいたいと思ったんです」
『蝶~ラスト・レッスン~』
染谷「今回、角川さんはキャスティングにあたって、お互い共演したことない人たちを選んだそうです。それで起こる化学反応をそのまま生かしていらっしゃいました」
上口「例えば臼井ミトンさんと洸太君が出会って間もなく話しているシーンは超、リアル。ミュージカルの現場では、だいたいどこでも知り合いがいたりして、グループがぱぱぱっと分かれるんですね。僕は意外と人見知りなんだけど(笑)。今回、ミトンさんと洸太君が自然にくっついて、“どうなの”“こうなんですよ”という感じがまさにリアルで、角川さんの思惑通りだなと思いました(笑)」
――AKANE LIVさん演じる劇中の演出家が台本も何もなしに「はい、やってみて」という演出方法は独特でしたが、ああいう手法はよくあるのですか?
『蝶~ラスト・レッスン~』
角川「似たようなことはありますよ。例えば、主人公が旅をするシーンで、各国の人々を表現するアンサンブルに対して、“何かやってみて”と演出家がおっしゃる。そこで出てきたアイディアに対して“それはこういうふうに使おう”と決めてゆかれるということはあります。どSな感じではあるけれど(笑)、そういう演出をされると、その人の本質が出てくるんですよ。そんな中でも食らいつく人たちが、何かを掴んで行くんです」
*次ページでは今回の作品経験を踏まえてのお三方の抱負をうかがいました!