絵本と絵本が繋がっていく! 林明子さんの遊び絵の秘密
林明子の絵本
今回は5冊の絵本をとりあげ、作品中の遊び絵を探しながらそれぞれの絵本がどんな風に繋がっているのかを見ていきましょう。絵本本来の楽しみ方ではないとご批判が出るかもしれませんが、ついつい夢中になって案外病みつきになるかもしれませんよ。
<目次>
林明子さんのはじめての物語絵本『はじめてのおつかい』
『はじめてのおつかい』は、みいちゃんが大忙しのお母さんに頼まれて、初めて1人でお使いに行く物語です。最初のページを開いた途端、目に飛び込んでくるのはアタフタ感たっぷりのダイニング。台所には洗い物がそのまま置かれ、掃除機も出しっぱなしで、隣の部屋では赤ちゃんが泣いています。この場面を見れば、お母さんがなぜみいちゃんにお使いを頼んだのか小さな読者にも一目瞭然です。絵本は「文章だけでなく絵が物語る」といいますが、この場面はまさにそういうこと! お話の背景が瞬時にわかる絵なのです。こんな風に絵だけで巧みにお話を語る林明子さんが絵本の中に潜ませた遊び絵とはどんなものでしょうか?早速探していきましょう。
まずは、みいちゃんが出かけるページ。おうちに備えられた郵便受けを見ると「尾藤三」という変わった苗字が書かれています。さて何と読むのでしょう? 答えは「おとうさん」です。この物語にお父さんは登場しませんが、この郵便受けで父親の存在をアピールしています?!
この写真のようなインコも絵本のどこかに隠れています?!
通りの掲示板には迷い猫を探す紙が貼られていますが、その猫だってよ~く探せばきっと読者にも見つけだすことができるはず。でも見つけたからといって、連絡先に電話をかけてはいけません。紙に記された番号は当時の福音館書店編集部の電話番号なんですって! 今では考えられないお遊びですね。
さて、幼い少女にとって冒険ともいえる初めてのお使いは、ちょっとした失敗もありましたが無事ミッションを完遂することができました。そのみいちゃんの冒険を楽しむと同時に、上に挙げた以外のたくさんの遊び絵をどうぞ探してみてください。見つけた分だけ、物語の背景に深みが増していきそうです。
【書籍データ】
筒井頼子:作 林明子:絵
価格:990円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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妹を想う姉の心情がきめ細やかに描かれた2冊の絵本
『はじめてのおつかい』につながる作品として、まだ幼いお姉ちゃんの心情や成長を描いた絵本『あさえとちいさいいもうと』と『いもうとのにゅういん』をのぞいてみましょう。どちらも、妹を想う姉の気持ちが丁寧に描かれた優しい作品ですが、林さんはこれらの作品にも楽しい遊び絵をたくさん忍ばせています。姉あさえの責任感が頼もしい『あさえとちいさいいもうと』
お母さんから留守番を頼まれたあさえは、まだまだ幼いお姉さんです。それでもお母さんの留守中一生懸命妹の世話をするのですが、うっかり目を離したすきに妹がいなくなってしまいます。全力で妹を探すあさえに、心臓が止まりそうな出来事が次々に起こって……。妹を心配すると同時に心細さいっぱいのあさえの姿が丁寧に描かれ、小さな読者はあさえの体験を自分のことのように感じるでしょう。そんなお話に遊び絵が入る余地などないように見えますが、じっくり絵を眺めていくとあちらこちらで色々な仕掛けが顔をのぞかせています。
あさえが自転車のブレーキ音に驚いて駆けつけた大通りの電柱には、「筒井商店」の文字。これは『はじめてのおつかい』でみいちゃんが牛乳を買いに行ったお店です。そして、文章を書いた筒井頼子さんの名字でもあります。しかも通りの向こうには短髪サングラスのおじさんの姿があり、シバタ電気と書かれた店先には黄色い服のおばさんがいます。どちらも筒井商店のお客さまに違いありません!
こんな大通りのある町が、3つのお話の舞台だったのでしょうか……
【書籍データ】
筒井頼子:作 林明子:絵
価格:990円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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成長した姉の姿に泣きそうになるかも!『いもうとのにゅういん』
『いもうとのにゅういん』は『あさえとちいさいいもうと』の続編です。幼稚園に通うようになったあさえが友だちのひろちゃんと帰宅すると、お母さんが妹を病院に連れて行くところでした。ほどなく帰宅したお母さんは、留守番をしていたあさえに「妹が入院することになった」と伝えます。ひろちゃんも家に帰ってしまい雷まで鳴りはじめる中で、独りぼっちでお父さんの帰宅を待ちながらも妹を心配するあさえは、もうすっかりお姉さんの顔ですね。しかも妹を励ますために、自分が1番大切にしているあるものをお見舞いに贈ろうと思いついて……。
そんな風にお話が展開するなか、この絵本でも、みいちゃんや短髪サングラスおじさんが姿を見せてくれるのですから楽しいですね~。あさえがお見舞いに出かけた病院のロビーは特にお見逃しなく! もちろん、そういった遊び絵に気がつかなくてもこの絵本は充分楽しめますが、様々な遊び絵が読者に一層の楽しみを与えてくれるのもまた事実です。
【書籍データ】
筒井頼子:作 林明子:絵
価格:990円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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駅のホームにチャップリンが!楽しくて温かい絵本『こんとあき』
きつねのぬいぐるみ・こんは、あきが生まれる少し前に赤ちゃんのお守りをするためにお婆ちゃんの家からやってきました。あきが生まれ、ハイハイができるようになり、1人でお婆ちゃんの家に出かけられるくらい大きくなるまで、2人はずっと仲良しの友だちです。ところがある日、こんの腕がほころびてしまったので、砂丘町に住むおばちゃんを訪ねて直してもらうことに……。電車に乗ったり砂丘を見に行ったり、小さな2人の楽しいけれどちょっぴりドキドキの旅が描かれますが、実はこのファンタジー絵本は、同じファンタジーの世界からたくさんのお客さまが遊びに来ている(?)ことで知られています。
表紙には、チャップリンや不思議の国のアリス、『黒い島のひみつ』をはじめとするタンタンの冒険シリーズのタンタン、そしてこれまで何度も登場した例のシバタ電気の黄色い服のおばさんとおぼしき人物などが描きこまれていますし、電車に乗ればブリッグスの『サンタのなつやすみ』のサンタクロースや『不思議の国のアリス』に登場する帽子屋さんや公爵夫人にもお目にかかることができます。
その他にも皆さんがよく御存じの人物が色々と描かれていますから、どうぞ目を凝らして探してみてください。林明子さんの絵本だけでなく、たくさんのファンタジー作品につながる遊び絵が楽しい作品です。
【書籍データ】
林明子:作
価格:1430円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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別のお話を含む絵が楽しい『いってらっしゃーいいってきまーす』
『いってらっしゃーい いってきまーす』は、保育園に通う少女・なおちゃんの「いってきます」から「ただいま」までを描いています。特別なことはなにも起こらない普通の1日が、こんなに幸せで楽しいものだなんて……ついつい忘れがちな大切なことに気づかされる絵本です。この作品が初めて世に出た1980年代の街並みが丁寧に描かれ、懐かしく思いながら絵を眺めていくと……ほら、やっぱりありました! この絵本で林明子さんが絵の中に仕込んだ仕掛けは、「絵の中のもう1つの物語」です。
もう1つの物語の主人公は、青い鳥と猫。なおちゃんがお父さんの自転車に乗って登園の途中、角のタバコ屋のお婆ちゃんに手を振るその先の家の屋根にとまっている青い鳥とそれを見つめるブチの猫。ここから2匹の追いつ追われつの追跡劇が始まります。青い鳥が捕まりそうになったり、猫が鳥を見失ったり、こちらの話はなおちゃんの物語とは違ってなかなかスリリングです。
もちろん、いつものユーモアたっぷりの遊び絵も健在で、商店街には酒能見商店(酒飲み?)やら亜井肉店(あいにく?)やら、ふくいんぱん(福音館?)などおかしな名前のお店が軒を連ねています。また、亜井肉店に貼ってあるカレーの日のポスターは林さん作の絵本『ぼくのぱん わたしのぱん』の表紙にそっくりで笑ってしまいます。
さて、色々楽しませてくれるなあと思いつつ迎えるラスト直前に、もうひとつサプライズが用意されていました。それは朝お婆ちゃんが座っていたあのタバコ屋さんの両隣のお店の秘密。これだけは、ぜひ実際にご覧になってください。きっと、「参りました!」て言ってしまうと思います。
【書籍データ】
神沢利子:作 林明子:絵
価格:990円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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