ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Creators Vol.6『GARANTIDO』演出、謝珠栄(3ページ目)

現在のミュージカル・スターの中で、謝珠栄さんの振付を受けたことのない方はいないかもしれません。それほど振付家として数多くの舞台を手掛け、85年からは自身のカンパニーTSミュージカルファンデーションで意欲的なオリジナル作品を発表してきた謝さん、目下ミュージカル『GARANTIDO』の稽古中です。そのエネルギーの源をとくと伺いました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

 

“オリジナル・ミュージカル”創造の苦労とは

天翔ける風に【撮影/相澤裕史】

天翔ける風に【撮影/相澤裕史】

――そして85年にTS(当時は「TSダンスファンデーション」。2001年に「TSミュージカルファンデーション」設立)を立ち上げられたのは、オリジナル作品を創りたいという思いからだったのでしょうか?

「いえ、はじめはダンサーたちが活躍できる場を作りたいという思いからだったんです。今でこそダンサーの仕事はいろいろとありますが、当時は東宝さんでもミュージカル公演は年に2本くらいしかなくて、踊れる人たちを使える時代じゃありませんでした。そこで最初に創ったのが『Yesterday is…here』 という作品で、これが認められたことで、もっとミュージカルを創りたいということになったんですよ。

『リトル・ミー』や『シーソー』といった海外作品も手がけましたが、海外ものは権利料を払わなくてはいけないし、規制も多い。宝塚がたくさんオリジナル作品を創っているのを見ていましたから、自分たちの中から出てくるものをやるべきだなと。やっぱりオリジナルは面白いですしね。それなのにどうして日本のミュージカル界は(海外作品の)買い物ばかりなんだろう?と思ったんです。その上、お客様もそれでいいと思われてしまうようでは、これだけ日本の現代文化が発達しているのに、ミュージカルは育ちません。脚本家も振付家も、作曲家も、チャンスや活躍の場が与えられなければ育たない。その点、宝塚はいい“場”作りをしているから、人が育ちます。外国の作品を買うのは楽だけれど、私は自分たちのものを創ろう、と強く思うようになりました」

――実際にミュージカル創作をされてゆく中で、一番大変だったのは?
眠れぬ雪獅子【撮影/岩村美佳】

眠れぬ雪獅子【撮影/岩村美佳】

「私の場合は振付家でもあるので、こういうところに踊りがあると面白いというのがわかるのですが、それがわかっている脚本家がいないんですよ。だから脚本をいただくと、私がどこに歌や踊りを入れるかを考えながら、ミュージカル台本として作り直しているんです。例えば酒場のシーンだからみんなが歌ったり踊ったりというのは当たり前で、そうではない表現をしていきたい。それこそ、『ウェストサイド物語』のナンバー、「クール」ですよ。“もっとクールになれ”という感情のシーンをダンスで表現しているって素晴らしいでしょう?ああいうことをやってみたいんです。あれはたぶん(振付の)ジェローム・ロビンスのアイディアを、みんなで話し合って練り上げていったのでしょうね。

理想的な形としては、脚本家や作曲家、演出家、振付家が話し合いながら作っていくのが一番ですが、そのためにはすごいお金がかかります。そこまでの財力はTSにはないので、結果的に私がやらせていただく部分が多くなるんです。作曲家に対しても、無駄なものを作って結局使わないというのは申し訳ないので、私も製作段階から協力しています。普通の演出家、振付家の何倍も製作過程に時間をかけていますね。この苦労は本当に私の身近にいる人しかわからないと思います」

――そういう創作のために、国から支援があってもいいかと思いますが…。
眠れぬ雪獅子【撮影/岩村美佳】

眠れぬ雪獅子【撮影/岩村美佳】

「それは何度もお願いしていますが、なかなかわかっていただけないですね。この状況では、人が育ちません。私の場合は、たまたま親の遺してくれた財産があったので、時間を費やすことができました。でも、東京に出てきて一人でやっているような若い子だったら、とてもこんな冒険はできません。それを訴えているのだけど、誰もなかなか動いてはくださらない。この状況を変えるためには…私がバーンと人気が出る大ヒット作を創ればいいのかもしれません(笑)」

――今後についてはどんなヴィジョンをお持ちでしょうか?

「やっぱり、若い人を育てたいですね。作曲家にしても脚本家にしても、ミュージカルが好きだけど苦労している子たちにもっと“場”を作ってあげたいし、それができる地位に立ちたいとも思っています。自分が苦労してきたからこそ、チャンスをあげないとだめだとよくわかるんですよ。(TSでよく音楽を担当している)たまちゃん(玉麻尚一さん)だって、はじめこそオーケストレーション苦手だったけれど、宝塚を紹介して、やらなくてはいけない状況を経験したら、ものすごく書けるようになってきた。そういうチャンスの場を大人が与えてあげないといけないと思っています」

――謝さんは“育てる”人なのですね。
タン・ビエットの唄【撮影/鏡田伸幸】

タン・ビエットの唄【撮影/鏡田伸幸】

「育てるのは自分では下手だと思うけど、チャンスは与えたいと思う。私は若いころ、すごくラッキーでした。失敗もあったけれど、いろんな劇団の人と出会えて、いろんな演出家の横に座って観ることが出来た。それによって、舞台づくりを客観的に観ることができたし、その経験があったからこそ、プロデュース・演出・振付と、様々なことがやれるようになりました。苦労はしなくちゃいけないけれど、チャンスがあったからこそ今の場所にたどり着いたとも思うんですよ」

――謝さんにとっての“舞台の魅力”を一言でいうと?

「大好きな芸を教えたり、もらったり。そんなことが一緒にできる舞台というものに取り付かれています。舞台を通して“共に生きる”、それはたまらなく魅力的ですね」

*****
「私は(演出・振付の機会が多かったためか)宝塚の所属と勘違いされることもあるけれど、退団後はずっと一人でやってきています」と笑う謝さん。団体に所属せず、一人で創作ミュージカルの道を切り開いて来られたご苦労は、言葉にされている以上の計り知れないものであり、TSの稽古場は、そんな謝さんの“後輩たちにはチャンスをあげたい、成長して欲しい”という熱い思いに満ち溢れた場なのでしょう。一度出演した俳優がこぞって“またTSに出たい!”と熱望するのも、当然のことかもしれません。今回、D-BOYSの皆さんは『GARANTIDO』を通して謝さんから何を学び、掴み取ってゆくのか…。“一人一人が主役”の舞台で、それぞれが輝く姿に期待しましょう!

*公演情報*『GARANTIDO』5月21~26日=東京芸術劇場プレイハウス 5月30~31日=兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

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