“オリジナル・ミュージカル”創造の苦労とは
天翔ける風に【撮影/相澤裕史】
「いえ、はじめはダンサーたちが活躍できる場を作りたいという思いからだったんです。今でこそダンサーの仕事はいろいろとありますが、当時は東宝さんでもミュージカル公演は年に2本くらいしかなくて、踊れる人たちを使える時代じゃありませんでした。そこで最初に創ったのが『Yesterday is…here』 という作品で、これが認められたことで、もっとミュージカルを創りたいということになったんですよ。
『リトル・ミー』や『シーソー』といった海外作品も手がけましたが、海外ものは権利料を払わなくてはいけないし、規制も多い。宝塚がたくさんオリジナル作品を創っているのを見ていましたから、自分たちの中から出てくるものをやるべきだなと。やっぱりオリジナルは面白いですしね。それなのにどうして日本のミュージカル界は(海外作品の)買い物ばかりなんだろう?と思ったんです。その上、お客様もそれでいいと思われてしまうようでは、これだけ日本の現代文化が発達しているのに、ミュージカルは育ちません。脚本家も振付家も、作曲家も、チャンスや活躍の場が与えられなければ育たない。その点、宝塚はいい“場”作りをしているから、人が育ちます。外国の作品を買うのは楽だけれど、私は自分たちのものを創ろう、と強く思うようになりました」
――実際にミュージカル創作をされてゆく中で、一番大変だったのは?
眠れぬ雪獅子【撮影/岩村美佳】
理想的な形としては、脚本家や作曲家、演出家、振付家が話し合いながら作っていくのが一番ですが、そのためにはすごいお金がかかります。そこまでの財力はTSにはないので、結果的に私がやらせていただく部分が多くなるんです。作曲家に対しても、無駄なものを作って結局使わないというのは申し訳ないので、私も製作段階から協力しています。普通の演出家、振付家の何倍も製作過程に時間をかけていますね。この苦労は本当に私の身近にいる人しかわからないと思います」
――そういう創作のために、国から支援があってもいいかと思いますが…。
眠れぬ雪獅子【撮影/岩村美佳】
――今後についてはどんなヴィジョンをお持ちでしょうか?
「やっぱり、若い人を育てたいですね。作曲家にしても脚本家にしても、ミュージカルが好きだけど苦労している子たちにもっと“場”を作ってあげたいし、それができる地位に立ちたいとも思っています。自分が苦労してきたからこそ、チャンスをあげないとだめだとよくわかるんですよ。(TSでよく音楽を担当している)たまちゃん(玉麻尚一さん)だって、はじめこそオーケストレーション苦手だったけれど、宝塚を紹介して、やらなくてはいけない状況を経験したら、ものすごく書けるようになってきた。そういうチャンスの場を大人が与えてあげないといけないと思っています」
――謝さんは“育てる”人なのですね。
タン・ビエットの唄【撮影/鏡田伸幸】
――謝さんにとっての“舞台の魅力”を一言でいうと?
「大好きな芸を教えたり、もらったり。そんなことが一緒にできる舞台というものに取り付かれています。舞台を通して“共に生きる”、それはたまらなく魅力的ですね」
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「私は(演出・振付の機会が多かったためか)宝塚の所属と勘違いされることもあるけれど、退団後はずっと一人でやってきています」と笑う謝さん。団体に所属せず、一人で創作ミュージカルの道を切り開いて来られたご苦労は、言葉にされている以上の計り知れないものであり、TSの稽古場は、そんな謝さんの“後輩たちにはチャンスをあげたい、成長して欲しい”という熱い思いに満ち溢れた場なのでしょう。一度出演した俳優がこぞって“またTSに出たい!”と熱望するのも、当然のことかもしれません。今回、D-BOYSの皆さんは『GARANTIDO』を通して謝さんから何を学び、掴み取ってゆくのか…。“一人一人が主役”の舞台で、それぞれが輝く姿に期待しましょう!
*公演情報*『GARANTIDO』5月21~26日=東京芸術劇場プレイハウス 5月30~31日=兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール