運動と健康/柔軟性・姿勢・コンディショニング・身体の動き

要注意!スポーツの偏った動きが体を歪ませる

スポーツをすると体が鍛えられ、忍耐力や精神力も鍛えられます。心身ともにいいとこずくめなので、多くの学校で部活として積極的に勧められています。しかしその反面、スポーツによる体のゆがみやプレッシャーによって精神的に追い込まれるという場合も。今回は特に“学童期のスポーツによる体のゆがみ”に焦点を当て、スポーツを行う上での注意点について解説します。

中村 尚人

執筆者:中村 尚人

理学療法士 / 運動療法ガイド

自分と世界は相対的

部活

あんなに広く感じたグラウンドも、いまは狭く感じるかもしれない

生まれてから今まで、私たちは自分のことを「変わらない特定の自分」と認識しています。しかし、大人になって幼児期を思い返し実際その場所や環境に行ってみると、思い出とはまるで違う現実を目の当たりにすることも多々あります。「この公園こんなに小さかったっけ」とか「思い出の場所はもっと自宅から遠くに感じていたけど、実際はとっても近かった」など。

これは、自分という概念自体は変わらないのに、体の成長とともに外界の感じ方が変化して起こる、一種の“自分と体とのズレ”なのです。小さい子供にとっての公園と、大人にとっての公園は相対的な大きさは異なるのです。つまり、成長によって世界の捉え方も変わっていくということです。

このズレは一生続くものなのでしょうか?私の臨床経験から見ますと、骨格の成長が止まる16~18歳まではズレが存在し、その後はあまり感じることはないと思っています。おおむね中学3年から高校生1~2年が境界線でしょう。骨格は、「成長骨端軟骨」という骨の端にある軟骨の層が骨化することで成長します。この軟骨の層が完全に閉じると、これ以上成長しないということになります。この成長骨端軟骨の閉鎖時期が16~18歳なのです。

この時期で骨格は完成しますので、外界の環境と自分の骨格との関係性は一定になります。これらの関係性は骨格だけでなく、視覚や味覚などの感覚器官にも同じく当てはまります。幼児期では感覚は敏感ですが、成長するにつれ鈍感化し、やはり骨格の止まる時期に一定になるといってよいでしょう。

また、これら以外にも、世界とのズレが出る時期があります。それは高齢者になってからです。身長が低下し、視覚や聴覚などの感覚器官も低下してくるからです。

思春期は人生の基盤

以上見てきたように、骨格の成長は主に16~18歳で止まります。この時期に運動機能や感覚器官も出来上がると言っていいでしょう。この時期のスポーツは骨格のみならず、体の使い方に大きな影響を与えます。そして、その時に獲得された体の使い方などの環境との対応法は、自分という概念とともに一生続きます。

スポーツで問題なのは、片側ばかり使うことです。片側のみの使い方は対称的な体を歪めます。球技はおおむね利き手を使いますし、陸上なども左回りがどうしても多くなります。スポーツは同じ動きを繰り返して体に覚えこませることで、競技スキルを向上させるものだからです。体の歪みも競技としてみれば優れたことですが、日常生活やスポーツを引退した後の事を考えると、この歪みはその後の多くの痛みや障害の原因になってしまいます

私が経験した患者さんの中にも、スポーツが原因で体が歪み、腰痛や肩痛、膝痛などに発展した方が多くいます。野球・サッカー・バレーボール・バトミントン・剣道・ダンスなど、あてはまる種目は枚挙にいとまがありません。

左右の肩の高さが違う、頭が傾いている、顎がずれている、背骨が歪むなど、体の歪みも同じく競技の数ほどあります。真面目に練習していた方ほど歪んでいます。逆に手を抜いていた方はあまり歪んでいない方が多い印象です。スポーツ、部活歴を聴取して体の歪みを確認すると、学生時代の真剣さが推測できたりするほどです。

「私の部活はスポーツではなく文科系だから関係ないかな……」と思ってしまいますが、やはり体を偏って使えば、文科系であっても体は歪みます。吹奏楽の楽器は特に独特な体の使い方をされていますので、偏りやすいと言えます。サックス、コントラバスからピアノまで、今まで様々な歪みを見てきました。

では、スポーツや部活は体に良くないのでしょうか?次ページでは、体を歪めないためのキーポイントをご紹介しましょう。

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