家族の雰囲気の悪さを「誰か」のせいにしていませんか?
「こんな家庭に誰がしたのだろう」――つい、そんな犯人探しをしていませんか?
家族関係の問題の「犯人探し」をしても、意味はありません。その問題は、「Aの原因はBである」というような「直線的因果律」では捉えられないからです。
たとえば、ある妻が「うちの雰囲気が暗いのは、あなたが家庭を顧みないから」と夫を責めてみても、当の夫は「こうなったのは、君の態度がキツいからだ」と、返してくるかもしれません。それを聞いた妻が「そうさせたのは、あなたが私に無関心だからじゃない」と、さらに夫を追及しても、「そもそも、君だって俺のことなんかどうでもいいと思ってるんだろ」と、夫も同様のことを言うかもしれません。
つまり、家族関係の問題は直線的因果律では捉えられず、お互いが被害者にもなり、加害者にもなっているわけです。
「不快な家族関係」が変わらずに続く理由
では、こうした家族関係の原因は、どこにあるのでしょう? その答えは、家族の「システム」です。たとえば、うまくいかなくなった家庭は、家庭を顧みない夫→態度がキツくなる妻→雰囲気が悪くなる夫婦→委縮する子ども→一人よがりになる妻→妻を恐れる夫→問題を起こし始める子ども……というように、一つの結果がまた別の原因を生み、原因と結果がリンクしながらぐるぐる廻っているものです。これを「円環的因果律」といい、家族問題は、円環的因果律による「家族システム全体の問題」として捉える必要があるのです。
では、うまくいかなくなった家庭は、なぜそのゆがんだ関係から抜けられなくなってしまうのでしょう?
それは、「システム」には、一度形ができあがるとその形を維持するように働く性質があるからです。つまり、「雰囲気の悪い」家庭のシステムができた場合、不快なりにもその関係を保とうとする力関係が働きます。これを「モルフォスタシス」(形態維持)といいます。このモルフォスタシスの効果で、今の家族のあり方が嫌で仕方がないのに、その関係性を変えられずに、ずるずると続けてしまうことが少なくありません。
それでは、このような悪循環を断ち切るために必要な行動とはmどのようなものでしょうか?
「変わらない家族」が一気に変わるとき
子どもの巣立ち期は、家族の形が変わるチャンス
特に、子どもが“巣立ち”を迎える頃は、家族システムの劇的な変化のタイミングです。それまで母親に頼ってきた子が急に親離れを意識し始めると、母親が親としての役割の変化を自覚し、仕事を再開したり、家庭の外に生きがいを見出すなどして、家族の関係性が変わっていくのがその好例です。
このように、成長や環境などの変化に応じて、家族関係が新しい形に変化することを「モルフォジェネシス」(形態変化)といいます。
変化に戸惑い、引き戻そうとする家族
モルフォジェネシスによって、家庭が新しいステージへと成長し、ポジティブな方向に変わっていくのが健康的な家族のあり方です。とはいえ実際には、この変化を乗り越えられない家庭は少なくありません。システムの変化期には、家族に焦りや恐怖、不安などの負の感情が生じます。そのため、変化を恐れ、元の家族の形態にしがみつこうとするネガティブ・フィードバックが生じやすくなるのです。たとえば、子どもが母親から距離を取り始める→母親が不安になる→子どもを手元に引き戻そうとする→厳しいルールを課して子どもの自由を制限する。こうした現象が、ネガティブ・フィードバックの一例です。
また、こうした家族システムの変化(モルフォジェネシス)を機に膿が噴出し、家庭が一気に崩壊してしまう場合もあります。子どもの巣立ちを機に熟年離婚が増えるのは、潜伏していた家族の問題が、この変化期に一気に浮上し、炎上してしまった結果でしょう。
「自分」が変われば家族も変わる
では、家庭を崩壊させないように、家族システムを変えていくにはどうしたらいいのでしょう? 先にお伝えしたように、家族間で「犯人探し」をしないこと、そして、誰かを変えるより、まず「自分が変わる」ことです。「夫(妻)がこうしてくれれば」「子ども(親)がこうなってくれれば」などと、他者に変化を期待しても、うまくいきません。たとえ家族でも、相手の考えや感情は「その人のもの」であり、他者が介入して、無理やり変えることはできないからです。
一方、自分自身の考えや感情なら、意思一つで変えられます。たとえば、家族に不満があるなら、家庭の外に自分の世界を見つけて何かに挑戦してみる。意識を外に向けると、不満を募らせていた家族のことが、今までほど気にならなくなり、気持ちが楽になるかもしれません。すると、その楽になった気持ちが家族に伝播し、家庭の雰囲気が少し柔らかくなっていくかもしれません。システム内の一人の変化が他のメンバーの心を動かし、新しい雰囲気が形成されていくものです。
ぜひ、今、自分自身でできることから、小さな変化を起こしてみませんか?