子育て/子どもの発達障害・グレーゾーン

遺伝子から見た「難しい子」も環境次第で健やかに育つ

ここでは難しい子が親子間に良好な関係を築くことを助ける「PRIDEスキル」についてご紹介します。子どもの中には、「問題行動」を起こし易い遺伝子を持って生まれてくる子がいるとされています。しかしそうした子ども達も、環境によって健やかに育つことが分かっています。

長岡 真意子

執筆者:長岡 真意子

子育てガイド

「難しい子」が親と良好な関係を築く方法……環境次第で健やかに育つ

難しい子も穏やかに育つ

どんな特性を持った子にも良好な親子関係が鍵

子どもの中には、攻撃的だったり、残虐だったり、危険にさらされる場面でもスリルを好んで衝動を抑えられなかったりといった「問題行動」を起こし易い遺伝子を持って生まれてくる子がいます。そんな子を持つ親御さんは「『子供は天使』だなんてウソでしょ。だって、この子......」と子供の言動にぎょっとしたり、「この子、大きくなったらどうなっちゃうんだろう?」と、心配になったりすることもあるでしょう。

しかしこれまでの研究で分かっているのは、例えそうした遺伝子を持つ子も、育つ環境によって、健やかに伸ばしていくことができる、ということ。以前スウェーデンで行われた研究とともに、「難しい子」が親と良好な関係を築くことを助ける「PRIDEスキル」についてご紹介します。
 
<目次>
 

良好な親子関係が「難しい遺伝子」を持つ子を健やかに伸ばす

以前スウェーデンで行われた研究(*)から、興味深い結果が報告されています。1,337人の17歳から18歳の高校生に、自らの家族関係やトラウマ体験、そして犯罪歴についてのアンケートに答えてもらいます。同時に、それぞれの高校生の唾液を採取し、DNAを調べました。 そして「問題行動と結びつき易い」とされる以下の3つの遺伝子タイプを持つ生徒に着目します。

1. モノアミン酸化酵素A (MAOA) 遺伝子不活性タイプ
一般に「好戦タイプ」と呼ばれます。男性をより攻撃的にさせます。

2. 脳由来神経栄養因子 (BDNF) 遺伝子不活性タイプ
攻撃的な仲間にさらされると攻撃的になり易いことが分かっています。30パーセントの人がこのタイプとされています。

3. セロトニントランスポーター5-HTTLPR遺伝子不活性タイプ
一般に「スリルを求めるタイプ」と呼ばれます。衝動的で注意散漫なところがあり、反社会的で攻撃的な行為を起こし易いとされています。20パーセントの人がこのタイプです。

これらの遺伝子タイプとは、20-30パーセントという数字が示すように、決してそれほど「珍しい」わけではないんですね。10人の子がいれば、2-3人はこのタイプということですから。

アンケートと遺伝子タイプとを調査した結果分かったのは、3つの遺伝子タイプを持つ生徒が、家族関係での葛藤や虐待を体験する時、犯罪に走るケースが多くなるということです。それでも、ポジティブな親子関係を築けている場合は、問題行動を起こすケースが格段に減ったのです。3つ全ての遺伝子タイプを併せ持った生徒であっても、温かくポジティブな親子関係を築けている場合は、ほとんど全く問題行動や犯罪に走るケースは見られなかったと言います。

つまり、例えどんな遺伝子や特性を持って生まれてきたとしても、温もり溢れた良好な親子関係を築くことで、その子を健やかに伸ばしていくことができるということですね。
 

親子間に良好な関係を築くことを助ける「PRIDEスキル」

とはいえ、「難しい性質」を持つ子と日々接し、だめなものはだめと導きつつ、温もり溢れる環境を整え、良好な関係を築いていくことは、並大抵の大変さではありません。それは、たまたま「育て易い」子を授かった親の理解を遥かに超えた、底なしに感じる忍耐力、努力、そして愛情を必要とします。

小児神経科や小児精神科、療育センターなどへ問い合わせ、対応の仕方を相談するのも方法です。例えば、親子相互交流療法 (PCIT) も、そうした対応方法身につけるセラピーのひとつです。親子のカウンセリングを通し、一般的な親子から、反抗挑戦性障害やADHDなどの特性を持つ子、また虐待してしまう親などを対象に、親子間に良好 な関係を築くことに力を入れています。著しい成果を挙げ、世界中で認められているメソッドです。

「民主的子育てスタイル」を目指すと掲げるこの親子相互交流療法の根幹にある「PRIDE スキル」は、家庭でも様々な場面で用いることができます。「PRIDE スキル」とは、 「Praise, Reflect, Imitate, Describe, Enjoy (褒め、省み、真似し、描写し、楽しむ)」の頭文字を取ったもの。好ましくない行為に注意を向けず、よい行為を「褒め」るようにし、子どもの行為を「省み」、否定するのではなく「真似し描写」する、そしてその子と共に過ごす時を「楽しんでいる」と表現します。

例えば、セラピー風景は次のように進みます。反抗挑戦性障害を持つ6歳の男の子とお母さんのやりとりです。

母親:マグネットで素敵なロボットを作ったわね! ママとっても気に入ったわ。

男の子:ロボットじゃなくて城に変身させた(反抗的な態度で)。

母親:あら、ロボットを城に変えてしまうなんて、賢い!(舌を出す男の子)

母親:舌を出したのね(男の子の行為をそのまま描写)。

男の子:皆ロボットのこと大嫌いだから、城に変身したんだよ(ロボットがしゃべっている振りをしながら)。

母親:いいアイデアね。ありがとう、教えてくれて(男の子はロボットの口調で面白おかしく話し始めます。母親もその口調を「真似します」)

母親:あなたの想像力はロボットのように羽ばたいていくのね。こんな風に違ったデザインを考え出しちゃうなんて、ママ本当にすごいと思う!

このように、穏やかに楽しんでいる様子で、良い面に着目していきます。「すぐ反抗的なこと言って!」「舌を出すなんてどういうこと!」などと、「好ましくない行為」に声を荒げ感情的に反応することを控えるだけでも、随分と違ってきます。セラピーでは、まずは親が「PRIDEスキル」を身に着けること、そしてその次に進む段階が「こちらの要求を聞くようにする」とされています。親の要求を通そうとする前に、まずは親子間にその土台となる絆を築いていくのですね。

それほど珍しいという割合ではなく、生まれつき難しい特性を持つ子というのはいます。「親のせい」と悩み、ただでさえ大変な思いをしている親自身をそれ以上追い詰めないことです。その子ができないことばかりではなく、ポジティブな面に目を向け、少しでも ゆったりとその子に向き合い、温もりある環境を整えられるよう、フォーカスしていきましょう。

(*)出典:
International Journal of Neuropsychopharmacology(2014)「Genotypes do not confer risk for delinquency but rather alter susceptibility to positive and negative environmental factors」より
Scientific American(2014)「Parent Training Can Improve Kids’ Behavior」より

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