醸造酒には、なぜ醸造アルコールが入っているものがあるの?
500年以上もの間、愛されてきた灘五郷の銘柄「剣菱」。貴重な麹蓋を使って麹作りをしています。
本醸造酒は、米、米麹、醸造アルコールを原料とし、純米酒は米と米麹が原料。
吟醸は、米を研いて造るもので、本醸造酒か純米酒の原料で作られ、精米歩合が60%以下のものを示し、50%以下なら大吟醸酒と表示されます(国税庁より)。
米と水、麹や酵母で日本酒はできるのに、なぜ醸造アルコールも入っているのか、ガイドはこれまで不思議に思っていました。今回は、神戸・灘五郷の銘柄として名高い「剣菱」の製造元である剣菱酒造株式会社専務取締役・白樫政孝さんにお話を伺うことができました。
剣菱は、古くから関東でも人気の高く、なんと創業は戦国時代初期、500年以上もの間愛され続けてきた日本酒です。赤穂浪士も討ち入りの際に飲んだというエピソードがあるなど、歴史の中でその名を刻んできました。
江戸時代には、伊丹や灘、池田など関西のお酒が好まれ、上方から江戸に樽酒が下っていき、「下り酒」と呼ばれていました。江戸にくだるほどのものではない酒を「くだらない酒」と呼ばれ、面白みのないことを「くだらない」という語源にもなっています。
剣菱酒造株式会社 専務取締役 白樫政孝さん
伊丹では、工夫を重ねる中でそれまでの酒に米焼酎を加えた製法を確立。焼酎を加えることで、香りがたち、切れのある味わいになりました。
またこの製法により、水で薄めても味がしっかりしておいしく「男酒」と呼ばれて好まれたこと、また江戸まで船で下っても腐敗することがなくなり(当時の酒は、腐敗してしまうことがよくあったとか)、たいへんな人気を博し、主流となったという背景がありました。
現在、加える醸造アルコールは、さとうきびやとうもろこしなどから造ることもできますが、剣菱では伝統的な米を原料にした焼酎にこだわっているそうです。
こうした製法を今の表示にすると「醸造アルコール」となるわけで、決して純米酒と比べて薄めているというようなことはなく、異なる味わいを楽しむものなのです。表示を読むだけではなかなか伝わらない、様々な工夫があるものなのですね。
変わらぬ味を作り続けるためのこだわり
剣菱伝統のこだわりは、「お米の味がしっかり溶け込んだ味」。神戸や池田のある兵庫県は、酒米に適した気候風土。最高の酒米として知られる山田錦も兵庫県で開発されたものですが、他にも各蔵元専用の酒米が開発されています。現在剣菱酒造は栽培から携わり、山田錦と専用酒米の愛山を使用されています。酒蔵を見学させていただきましたが、伝統の味を守るために、杜氏の技術や知恵、道具などにもこだわりがあります。
例えば麹づくりは、麹蓋という木製の小型容器に入れて育てます。高温多湿の麹室で麹蓋に小分けして、約2日の間3時間おきに置き場所を変えていきます。というのは、部屋の場所によって温度や湿度が微妙に異なるため、麹菌を均一に繁殖させるためです。
麹蓋は、四角いお盆のような形をしていますが、中央がやや膨らんでおり、温度があがりやすい中央部分には薄くなるように配慮されています。また底板はあえて割って作られ、面がザラザラしています。これにより、米が麹蓋に密着せず酸素が通って繁殖しやすくなるのです。
麹蓋。何気ない道具にも、剣菱の変わらぬ味を生み出すためにはかけがえのないもの。
日本酒に限らず、みりんや醤油、味噌など発酵食品の製造元では、こうした木製道具を造る職人さんが減り、また原料も入手が難しくなっています。
一つの道具だけを見ても日本酒を造る醸造文化は奥が深く、このような技術や知恵を未来に継いでいくことは、たいへんな覚悟がいることだと感じました。
見えないところでのモノづくりのストーリーを知ると、親しみがわきますますおいしく感じられます。皆さんも、和食文化を楽しむ一つの役者として、日本酒を見直してみませんか。
取材協力/
・剣菱酒造株式会社
参考/
・ お酒の健康と医学(酒類総合研究所)
・清酒の機能性:解明されつつある「酒は百薬の長」
・多目的コホート研究の成果2011(多目的コホート研究事務局)
・日本人のためのがん予防法(がん情報サービス)
・「清酒の製法品質表示基準」の概要(国税庁)
・「清酒酵母」に"睡眠の質"を高める効果があることを世界で初めて発見!(ライオン株式会社)
・白鹿(辰馬酒造)