大学生の就職活動/就職活動事例

ザックJAPAN通訳に聞く!W杯につながるキャリアの脱線(2ページ目)

さまざまな分野で活躍するプロフェッショナルに、現在の仕事に至るまでのキャリア選択について聞く対談企画『キャリアの脱線』。第一弾の今回はブラジルワールド杯に出場したザックジャパンの通訳で『通訳日記』(文藝春秋社)の著者でもある矢野大輔氏に、通訳という仕事についた経緯やそこに至るまでの決断について聞く。

小寺 良二

執筆者:小寺 良二

ライフキャリアガイド

社会の現場で鍛えた「情報収集力」が通訳としての強みに

サッカーではなくビジネスの現場で情報収集力を鍛えた矢野さん

サッカーではなくビジネスの現場で情報収集力を鍛えた矢野さん

イタリアで通訳としての実績も積み、現地で結婚もして順調な日々を過ごしていた最中、神様は幸運な形で矢野さんをそのレールから脱線させる。2010年にザックジャパンの通訳として抜擢されるのだ。その後4年間通訳として選手と監督・コーチの橋渡し役を務めることになる。この時、矢野さんの「強み」とはなんだったのか。その「強み」はどんな経験で培われたのか、そしてそれが代表チームでどう活かされたのだろうか。

小寺:
4年間ザックジャパンの通訳を務めてきたわけですが、矢野さんの通訳としての「強み」は何だと思いますか?

矢野:「情報収集力」ですね。通訳という仕事はただ言葉を訳すだけではダメで、その言葉の背景や気持ちをどれだけ理解しているかが重要なんです。だから選手のメディアでの発言内容は必ずチェックしていましたし、リラックスルームで選手と会話して本音の気持ちを聞くなどとにかく細かい情報も把握することを意識してきました。

小寺:大変そうですね。でもなぜそのような力が身についたのですか?

矢野:やはりそれは就職したマネジメント会社での経験が大きいです。例えばそこで、日本企業とイタリア企業が合同で自動車やデジタルカメラ、ストッキングなどの商品を共同開発するようなプロジェクトに関わっていたことがあります。正直、自動車の製造工程やストッキングの素材なんて日本語でもよくわからないじゃないですか。だからとにかく事前に徹底的にその商品知識を調べて対応しました。こうした経験が何度もあって、鍛えられたと思います。

小寺:まさにサッカーとはまったく関係のない経験で培った能力が、サッカーの通訳という仕事で活かされたんですね。

矢野:はい、その通りです。その後日本代表で過去に開発で関わったむくみ防止のストッキングが導入された時は、メーカーの人より詳しかったですから(笑)。

「キャリアの脱線」と聞くとまったく異なる分野の仕事を経験するので、ゼロからのスタートという印象があるかもしれないが、実際には過去の経験で培った能力は活かすことができる。矢野さん自身も企業の商品開発の通訳業務で培った「情報収集力」をサッカーの通訳業務で活かした。だからこそ通訳として高いパフォーマンスを発揮することができたのだ。


若者には夢を実現する方法は1つではないことを知ってほしい

矢野さんや日本代表選手の努力のプロセスが生々しく書かれている「通訳日記」

矢野さんや日本代表選手の努力のプロセスが生々しく書かれている「通訳日記」

「通訳日記」では矢野さんが日本代表の通訳に就任する直前の2010年8月29日の日記から始まっている。まさに矢野さんが夢を実現した瞬間のエピソードから日本代表選手のさまざまな苦悩までが生々しく書かれているのだが、矢野さん自身は読者にこの本から何を掴んでほしいのだろう。

小寺:本を出版された思いは本の中にも書かれていましたが、もし就職活動を迎える大学生がこの本を読むとしたらどんなことを得てほしいと思いますか?

矢野:夢を実現する方法は1つではないということを知ってほしいですね。私はプロサッカー選手にはなれませんでしたが、結果的に「通訳」という立場で日本代表としてワールド杯のピッチに立つことができました。たとえ今進んでいる道で夢の実現が難しいと判断し他の道を選んだとしても、心の中ではその夢を諦めずに持ち続けることで実現するチャンスが得られることがあると思います。

小寺:私は矢野さんの「脱線の仕方」で素晴らしいと思うところは、脱線した先の道がサッカーと関係なくても、とにかくその道を一生懸命走ったことだと思うんです。だから力がついて夢の実現への良い準備ができた。

矢野:一生懸命だったかはわかりませんが(笑)、でも結果的には経験してよかったと思うことばかりです。そしてやるからには信念を持ってやらなければならない。一生懸命といえば、代表チームのみんなには成長したいという気持ちがみなぎっていましたし、ザッケローニ監督も「やるなら勝たなければいけない」と常々仰っていました。そうした気持ちはこれからも持ち続けたいですね。

小寺:私はこの本は就職活動を始める学生にはぜひ読んで欲しいんです。ちょっと私の本業について語らせてもらうと、多くの就活生はエントリーシートや面接の自己アピールを考えるために学生時代の自信を持って語れる「成果」を見つけようとするんです。でも実際には自信を持って語れる成果を出してる学生なんてそんなに多くはいません。でもこの本は日本代表の「プロセス」に徹底的に着目した本です。成果には自信を持てなくても、プロセスに着目すれば必ず価値が見えてくる。就活生にもぜひ過去の「プロセス」から社会で活かせる自分の価値を見つけてほしいですね。

矢野:最近出した2冊目の本ではまさに日本代表の「プロセス」が企業や組織でどう活かせるかが書かれています。私自身もおかげでその成果とプロセスについて整理ができました。

小寺:私は2冊目の本はサークルやゼミなど組織運営に関わる学生にはぜひ読んでほしい。きっとすぐに実践できることがたくさん得られると思います。

矢野:少しでも大学生活や就職活動の役に立つと嬉しいです。就職活動頑張ってほしいですね。そして、できれば好きなことをやり続けてほしい。苦労も多いかも知れませんが、好きなことにしぶとくこだわってほしいと思います。


今回の約1時間の対談では、ザックジャパンや日本代表選手の話ではなく矢野さん自身のこれまでのキャリアについて聞くことができた。イタリア留学や現地企業での就職など、今まで進んできた方向とは異なる道を選ぶ際に何を考えたのか、どのようにして新たな道を進んでいったのかを知ることは多くの若者にとってこれからの人生のヒントになるはずだ。余談だが、矢野氏は最初、グラフを書くことをためらった。「あまり、山あり谷ありとは思っていなくて。一本の線がまっすぐ続いているイメージなんです」。これは確固たる信念を持つ人ならではのメンタリティだろう。普通であればネガティブだと思われることも、絶対に次のステップにつながっているはずだから、おのずと「線はまっすぐになる」というイメージ。しかし、この「次につながる」、「無駄なキャリアなどない」と思えることこそが、「脱線」には必要なのだ。


矢野大輔氏 著書


 

 

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