ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

気になる新星インタビューvol.10 島村幸大(2ページ目)

先日行われた『アラジン』キャスト・オーディションで見事、アラジン役の候補に選ばれた島村幸大さん。『ライオンキング』のシンバでお馴染みですが、最新作の『むかしむかしゾウがきた』では、主人公の太郎坊を溌剌と演じています。アスリートさながらの体型ながら、幼い頃から日本舞踊をたしなみ、大学では声楽を専攻という経歴の持ち主。オーディションや各演目のこぼれ話、今後の夢まで、たっぷり語っていただきました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

日本舞踊、水泳、そして声楽を経てミュージカルの道へ

『ライオンキング』撮影:阿部章仁

『ライオンキング』撮影:阿部章仁

――さきほど、4歳から日本舞踊をされていたとおっしゃっていましたが、男の子で日舞というのは、お稽古事では珍しいかと思います。

「そうですね、男の子だとスポーツ系のお稽古事が普通かもしれませんが、僕はサッカーのような球技は苦手で(笑)。でも呼吸器が弱かったのがきっかけで、水泳はやっていました。中学までは選手。大学生の時にはアルバイトでライフガードもやっていました。それでこの体格になったんですね(笑)」

――もともとお母様も日舞をされていたのですか?

「いえ、家族は誰もやっていなかったのですが、母に連れられていってみたら、すぐ好きになったようなんです。女形に憧れて、小学五年生で『藤娘』で女形デビュー。中学で名取をいただき、高校3年になってからは、日本舞踊のコースのある大学を目指して、流派のご宗家に通っていました。19歳で師範のお免状をいただいて、その翌年には『鏡獅子』にも挑戦しました」

――それがなぜ音大に?

「高校生の時、母と一緒に観た初めてのミュージカルが劇団四季の『マンマ・ミーア!』で、作品のパワーに圧倒されたんです。キャストの方々も、すごい歌唱力と存在感でした。頑張れば僕もこういう舞台に立てるのかもしれない、でもミュージカルはまず歌えないといけないと思って、高校3年の夏に志望を音楽大学の声楽科に変えたんです」

――それは急なご変更でしたね。

「はい、受験まで半年ぐらいしかありませんでした。高校は普通科でなくピアノ科だったのですが、ピアノ科の先生のご主人が声楽家でいらっしゃったので、その先生……実は、今は劇団四季にいらっしゃる種井静夫先生です…について必死で勉強したら、国立音楽大学に合格できたんです。入ってみると、先生方は錚々たる声楽家の方ばかりですし、学生たちもクラシックの声楽家志望ばかり。レッスンして下さったドイツ・リートの先生も『クラシックに来てほしいわ』と誘ってくださったのですが、ミュージカルという目標は全くぶれませんでした。小さいころから日本舞踊で舞台に立っていて、役を演じるということが大きな魅力だったんです」

――日本舞踊は“役を演じる”といっても抽象的なイメージがあります。

「観ていると抽象的に感じますが、役を“生きる”という点では日本舞踊もミュージカルも同じだと思います。心が動くことによって、単なる形だけではない踊りになるんですよね。

音大の3年生からは専攻を選択するのですが、フランス歌曲でもイタリア・オペラでもなく、日本語をきれいに歌う勉強がしたいと思って、日本語歌曲を専攻しました。滝廉太郎や中田喜直などの作品が主なのですが、抒情的で、すんなり入って行ける曲ばかりでした。そこで言葉の立て方などを研究できたことが、劇団に入ってから役立っているなと感じます」

――そして2008年に劇団四季の研究所に入られたのですね。

「僕は“即戦力オーディション”をシンガーとして受けたのですが、“研究所ではいかがですか”と言っていただき、入所したんです。ですからダンスや台詞などのレッスンは、入所してから始めました」

実は“かっこいいヒーロー”ではないシンバに気づく


――入所したその年に『ライオンキング』で初舞台を踏まれました。
『ライオンキング』撮影:阿部章仁

『ライオンキング』撮影:阿部章仁

「はい、2008年9月19日が僕の初舞台だったと思います。役は、舞台版『ライオンキング』の作曲の一部を手掛けたレボ・Mさんという方が、ブロードウェイ初演で自ら歌っていたパートです。幕開きにラフィキの後を受けて、客席前方で歌いだすレイヨウの役ですね。クラシックとは全く違う発声で、扮装も半裸に近いものがあるし、お客様の目の前で歌う役ですが、無我夢中で演じて、幕が下りてから体がぶるぶる震えました。“終わったんだ…”って。その役を翌年1月まで演じて、その後シンバ役の稽古に入り、6月にシンバ・デビューとなりました」

――1幕の終わりからの登場とはいえ、主役です。大変でしたか?

「大変でした。全体的なストーリーを進めているのはスカーですが、『ライオンキング』はシンバの成長物語なので、僕がちゃんと成長していく姿を見せないと、作品が成立しません。その上で、劇団四季の方法論であったり、台詞をちゃんと届けることであったり、高音を出す役なのでコンディションを保つことが求められてきます」

――高音というのは「終わりなき夜」の最後の一音ですよね。音大ご出身の方にとってもきついものですか?

「あの音はきついです。僕、実は音大に入ったときはバリトンだったんですよ。というのも、受験の時についていた種井先生がバリトンだったので、先生の声を見よう見まねで習っていたんです。けれど入学してから“あなた、喋る声が高いからテノールよ”と言われ、テノールにも挑戦したのですが、一回バリトンが身についてしまったのでなかなかテノールの軽い声が出せず、何年も苦労しました。
『ライオンキング』撮影:荒井健

『ライオンキング』撮影:荒井健

『終わりなき夜』は高音の件はあるけれど、とにかくシンバの“思い”を大切に歌っていました。実はあの時点でのシンバは、まだ成長しているわけではないんですよね。父さんを死なせてしまった過去や故郷から“ハクナマタタ”の世界に逃げていて、現実を見られない自分が、あの歌では解決はまだしていないんです。だからこそ、その後ナラと再会してもケンカ別れしてしまう。その後ラフィキに頭をごーんと叩かれて、やっと“帰らなきゃ”となるんです。だからあの歌は、曲調としては開放的に終わるので解決の歌のように聞こえるかもしれませんが、僕の中ではシンバの苦悩を歌っているつもりです」

――以来、何年もシンバを持ち役にされていますが、回を重ねる中で新たな発見はありましたか?

「はい。当初はシンバは真ん中を張る、かっこいいキャラクターというイメージがあったので、かっこよくしなくてはと思っていたのですが、それが大きな間違いだったことが分かりました。シンバは故郷にも自分の力では戻れないし、ナラからも逃げる。ラフィキにがつんとなぐられて故郷に帰っても、スカーに過去のことをちょっと言われただけでしり込みしてしまう。そんななかで、ナラやラフィキ、ティモンやプンバァといったみんなに支えられて、プライドロックに上ってゆくんです。そう考えると、シンバって全然かっこよくない。支えと言うものがあってこそのシンバなのだと気づきました。最後の雄たけびを上げている場面は、みんなのものすごいコーラスがあって、それに僕は“押し上げられている”のだという感覚でした」

*次ページでは先日受けた『アラジン』オーディション、そして今後の目標についてお話しいただきます!
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