まるで即興のエチュードみたいなオーディション。
世界にひとつしかない、日本独自の『タイタニック』を
上流階級の品の良さが伺える。
やめてください(笑)。前回のイスメイ役・大澄賢也さんが人目を忍んで救命ボートに飛び込むのを「お前!」と憤りながら見ていたのに…。「最低だよね」って賢也さんを責めていたら、僕に回ってきてしまいました(笑)。権力を持つと、人はこうなってしまうのか…と考えさせられる役です。今回はグレン・ウォルフォード演出とは異なり、僕の役が裁判にかけられるシーンから始まります。そのあたり責任重大ですね。
イスメイは上流階級の人間なので、外面が良い一方、内側にはとても人間臭いドロドロしたものを持っているはず。そこをどう醸し出せるか。説明的にならないように、赤裸々にリアルにどう描けるか。この間、『War Horse ウォー・ホース~戦火の馬』を観て、あの実在感のすごさにまだやられているんですよ。あの物語には、いい人、悪い人、強い人、弱い人、精神的に多様な人物が出てきたのですが、その実在感に少しでも近づきたいなって思います。
——演出のトム・サザーランドさんの印象は?
トムさんとお会いしたのは『タイタニック』のオーディションにて。『レ・ミゼラブル』の「カフェソング」を英語で歌いました。「There’s a grief that can’t be spoken…」と歌い、「Great!」と言っていただいたんですけど、その直後に「a grief that can’t be spoken(言葉にできない哀しみ)」を、すぐ口にしてしまうのは如何なものか、と。もっといろいろな心情があるだろうと提案してくださいまして。
そして2回目を歌ったら、「よくなってきたよ、もう1回やってみよう。Now my friends are dead and gone.マリウスとして、こういうことをすぐ心情的には言えないだろう。もう1回そのことを踏まえた上で。いくら間をとってもいい、ピアニストさんは君のやろうとしているパフォーマンスに必ずついてきてくれるから、楽譜を無視して自由に歌ってください」と。
このように何度も繰り返し、最終的には最初に歌っていたものと全然違うものを引き出してくださいました。こんなに言葉ひとつひとつにこだわって取り組んでくださるトムさんと仕事できるなんて!お稽古がすごく楽しみになったオーディションでした。彼といろいろなことを話し合いながら作り上げることで、世界にひとつしかない日本独自の『タイタニック』を上演できるのではないか、と確信しました。
トムさんとたくさんのことをシェアしたい。
この作品は日本語をいかに調整するかが鍵
モニターで画像をチェック中。
情景を創り出しやすい気がしたんですよ。また英語で歌ったほうが共有しやすいかなって。もちろん、「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」でも「美女と野獣」でもよかったのですが。
全然、話が飛びますが、『フレンチ・ミュージカル・コンサート』にゲストで出演した時、キャストとやりとりしていたら、「Thank you for sharing the show with us」と言われて、そうか。“share”という言葉なんだな、と。参加するという意味でしょうが、分かち合うという意味が含まれている。それがすごく嬉しくて。日本語だと共有する=“share”とわかっているけれども、実際に言われると嬉しくなっちゃって。トムさんともいろんなことがシェアできるといいな、と。
——トムさんはきっと綜馬さんの「カフェソング」を聞かれて、どんどん演出をつけたくなったんでしょうね。
まるでインプロビゼーション(即興)のエチュードみたいでしたよ。
——それに、即座に対応できる綜馬さんがすごい。
いやいや。でもすごく楽しくて。ワークショップとかあればいいのに、と思ったくらいです。この作品は日本語をどう調整するかが鍵だと思うので、そこにこだわっていけたらと思います。