宣材写真

撮影:Miow Hirota

 

心から上演を待ち望んでいたミュージカル『タイタニック』。
船旅を鮮やかに思い出す

この仕事をしていると、よく「一番好きなミュージカルは?」と質問されるもの。これは心境や状況によって変わり、実に悩める質問なのですが、ミュージカル『タイタニック』はどんな時も五本の指に入る、個人的に思い入れの深い作品です。今回、日本で上演されると知った時、心から嬉しくて飛び上がったほど!

『タイタニック』と聞くと、大抵の方はレオナルド・ディカプリオ、セリーヌ・ディオン、船首でのラブシーン…と映画を思い出されるようですが、ミュージカルは全く異なるストーリー。ミュージカル『ナイン』『ファントム』で知られる作詞&作曲家モーリー・イェストンが、設計士やオーナー、乗員、乗客など船に乗り合わせた老若男女のドラマを、見事な群像劇として紡ぎ出しています。

個人的な思い入れを書かせていただくと、私は北欧の客船で乗務員をしたことがありました。なので、基本的に船ものに弱く。もちろんタイタニック号とは規模も豪華さも異なりますが、乗客はハレの場を楽しみ、乗員は皆自分の仕事に誇りを持って従事する。限られた時間、限られた場での一期一会のヴォヤージュ。『タイタニック』の音楽を聴いていると、当時の情景がリアルに浮かび上がるのです。

バラエティに富んだメロディと、複雑な構造。
群像劇として異色の名曲たち

ミュージカルの柱である楽曲の素晴らしさはピカイチ。素敵だなと思うのは、多くの登場人物にソロやテーマ曲があること。身分や性別、年齢はそれぞれでも、乗船していたひとりひとりに夢や希望、葛藤など、それぞれの人生があった。これほど群像劇としてきちんと成り立っているミュージカルは稀有といえるのではないでしょうか。

この中で好きな曲を問われたら、勇壮なシンボル曲「ゆけ、タイタニック」、アリス・ビーンの超絶早口ソング「一等客名簿」、3人の可愛いケイトたちが新生活を夢見る「なりたい メイドに」、責任感の強い二等航海士マードックの「船長になるということは」、機関士バレットと無線士ブライドの美しい名デュエット「プロポーズ/夜空を飛ぶ」、見張り係フリートが夜の海で歌う「月無夜」、静かな夜の船で過ごす人々「秋」…一幕だけでも語り切れません(文字数の関係で、二幕はまたどこかで…)。叙情的で耳に残るメロディばかり。CDをかけて口ずさみながら、ひとり『タイタニック』する幸せといったら!(後半は悲しいですけどね…)。

キャスト20名ですべてを演じる新演出版。
冒頭ではオーナーのイスメイが、過去を振り返る

1997年のブロードウェイ版、2007・2009年の日本版とも、大勢のキャストと華やかなセット、重厚なオーケストレーションと、オペラに近いゴージャスさがありました。それは素晴らしいことですが、物理的に繰り返し上演しづらいだろうな、とも。『タイタニック』ファンとしては、名曲揃いなのでコンサート版でもぜひ…と渇望していた矢先、2013年7月、30歳の若き気鋭演出家トム・サザーランドがオフ・ウエストエンドで新版を上演。セットを簡素化、キャストも人数を減らしシンプルになった分、人間ドラマが強調されているとか。

冒頭シーンもブロードウェイ版ではタイタニックへの乗船シーンでしたが、今回は裁判でオーナーのJ・ブルース・イスメイが過去を振り返る場面から始まります。生き残った人の視点から始まるというのが、とても興味深いところです。
今回、日本で上演されるのも、このトム・サザーランド演出版。なんとキャスト20人で、すべての役を演じるとか。キャストによっては何役も役替わりがあり、新しい楽しみ方ができそうです。