はじめに
今年の宅建試験を受験された方。お疲れ様でした。一発で合格できたと喜ぶ方。やっと合格できたと安堵する方。30点台前半の点数で合格できるかどうか不安でいっぱいな方。ケアレスミスに涙を飲んだ方。勉強しなかった自分を悔いている方。
合格圏内におられる方は、ぜひ次のステップに進む準備をはじめてください。今後ますます宅建士に課せられる社会的・法的責務と役割は大きくなっております。不動産取引のプロの法律家としてご活躍されることを期待しております。
合格できなかった方も、ひとまず今回の試験は忘れるのではなく、自分が間違えた問題に向き合って、今年の自分に足りなかった知識は何だったのかを分析して来年の試験に役立ててください。
この記事では、平成26年度宅建試験について、問題の分野(権利関係、法令上の制限・税法・不動産の評価、宅建業法等)ごとに受験者の正答率、合格者であれば正解する可能性の高い問題をまとめております。また、最後に、来年度の宅建士となる新たな試験に向けたアドバイスをしております。
権利関係の問題を振り返る
今年の宅建試験も昨年同様に権利関係の難問化傾向が続いています。最高裁判所の判決文を引用しての問題が1問、民法の条文にあるのか判例法理なのかを問う問題も1問と、明らかに裁判例を読み解く力を宅建士に求めていることが伺えます。また、権利関係の問題では珍しく「誤っているものはいくつあるか。」という個数問題が出題され、消去法などの受験テクニックではなかなか解答が出せない問題も出されました。
判例の知識が問われた問題は、14問中7問で、選択肢の数でいえば10肢ありました。直近のものでは、平成24年9月13日の判例が出題され、古いものでは大正8年12月の大審院判例からも出題されていました。
私が経営するスクール独自の受験者の集計(不合格者も含めた約100名の集計)では、権利関係の平均点は6.28点/14点でした。
さらに、私の執筆するテキストも含めた市販のテキストで扱われていて、通常の講義でも丁寧に教わるようなことで、これまでの経験から合格者であれば解ける可能性の高いものと私が判断した問題には、「合格者正解」という項目で「〇」を付けております。14問中7問ありました。
法令上の制限・税法・不動産の評価の問題を振り返る
法令上の制限は、昨年と同様、主要法令である「都市計画法」「建築基準法」「国土利用計画法」「農地法」「宅地造成等規制法」「土地区画整理法」以外のその他の法令から1問出題されました。過去に出題のない内容の選択肢が1問につき1つか2つ程度あるのも例年通りです。過去に何度も出題されている内容を覚えていれば解けるようになっている問題も多かったという点も例年通りでした。その他法令上の制限を昨年から出題するようになったのは、おそらく宅建業法の改正に影響を受けています。平成26年の宅建業法の改正における宅地建物取引士の地位向上と役割の増加という流れは、重要事項説明書面に記載しなければならない法令上の制限が毎年増え続けている現状に対応できるような人材になってもらいたい、という要請もあるからです。
ですから、今後もその他法令上の制限からの出題は増えると予想されます。
権利関係と同様に、独自のデータにより正答率・合格者正解を表にしました。なお、平均点は、4.77点/11点と少し低めでした。暗記科目が故に捨ててしまっている受験生も多いことが伺われます。
私の経験では、おそらく合格者レベルであれば、確実に8点は取れる問題なので、この分野で、直前期に正確に暗記できた方だけが合格を勝ち取るという特徴も例年通りです。
宅建業法の問題を振り返る
宅建業法は、例年通り、過去問の焼き直し問題がほとんどでしたが、難解な表現やひっかかりやすそうな表現の問題も多かったと思います。今年も、受験後すぐに、「ケアレスミス連発しました」という悲しいお知らせが多数寄せられました。宅建業法に関しては、合格するだけの知識があっても、たった1問のケアレスミスで不合格となってしまう、慎重すぎるくらいの事務作業を必要とする分野です。
これも例年の傾向ですが、実務感覚のみで解く方、かみ砕き過ぎて法律用語を使わないテキストのみで学習された方が間違えやすいように作られている問題が多く存在すると感じられました。試験直前期の私の口癖なのですが、「最後は条文に書かれている言葉で正確に暗記するように」という重箱の隅を突くような慎重さが、この分野での高得点に繋がります。
独自のデータによる平均点は、11.81点/20点とかなり低めですが、おそらく学習の進んでいない不合格者の方の答案も反映しているからでしょう。
私の経験では、おそらく合格者レベルであれば、確実に15点は取れる問題なので、この分野で、直前期に正確に暗記できた方だけが合格を勝ち取るという特徴も例年通りです。
来年の宅建士試験に向けて
平成26年の宅建業法の改正により、先日、国土交通省は「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(ガイドライン)の改正を発表しました。その中に次のような条文があります。「宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、専門的知識をもって適切な助言や重要事項の説明等を行い、消費者が安心して取引を行うことができる環境を整備することが必要である。このため、宅地建物取引士は、常に公正な立場を保持して、業務に誠実に従事することで、紛争等を防止するとともに、宅地建物取引士が中心となって、リフォーム会社、瑕疵担保会社、金融機関等の宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携を図り、宅地及び建物の円滑な取引の遂行を図る必要があるものとする。」(第15条関係)
先日、国土交通省に足を運び政策担当の方とお話しする機会を得ました。そこで、立法趣旨に関してこの条項を強調しておりました。今後、ますます宅地建物取引士に求められる社会的・法的役割は増えて行くことは間違いありません。
それを踏まえて、来年度実施の宅建士試験に向けた学習のアドバイスを致します。
1. 判例の学習方法を身に付けよう
近く民法の改正をひかえております。新しい民法では、今以上に契約が重視されます。契約が重視されることは、実際の事件を背景とした判例法理が重視されることを意味します。ですから、判例学習なくして宅建試験の権利関係をマスターすることはありえません。
判例は、まずは事実と結論を覚えましょう。できる限り、具体的に事実を学んだ方が忘れない記憶になります。次に、判決にいたる大前提である条文解釈を読み、テキストのどこの部分に関連する判例なのかを意識しましょう。最後に、学んだ判例がテキストに書かれていなければ付箋に書いて関連するページに貼り付けましょう。
2. 条文を意識しよう
ここ数年の問題は、条文の細かい知識や、条文にあるかないかを問う問題が目立ちます。しかも、何度も出題されているので、捨てるわけにはいきません。過去に何度も出題されている重要な点については、条文も一度は読んでおくべきでしょう。特に、借地借家法や建物区分所有法は効果的です。
3. 法令上の制限は重要事項説明を意識する
今回の宅建業法の改正の目的でもあるので、重要事項説明における法令上の制限の扱いは特に学習しておかなければなりません。ただ、ここは宅建業に従事したことのない初学者の方にとったらイメージしにくく大変だと思います。自分が買主だったら、自分が借主だったらと想像して、契約前に説明してほしい内容=重要事項説明の内容というように、関連付けて学習すると理解しやすくなります。
4. 関連企業との連携問題に注意する
上記の改正にあるように、宅地建物取引士に新たに課せられた法的な役割は、関連企業との連携におけるリーダーシップです。この能力の有無を宅建試験で判断しようとした場合は、おそらく事例問題となるでしょう。すなわち、リフォーム業者との連携なら請負契約や業務委託契約、瑕疵担保会社との連携なら担保責任や保険契約、金融機関等との連携なら抵当権設定や所有権留保契約といったような長い文章の実務的な問題があると思われます。