ルーベンスなどの芸術作品あふれるアントワープ

ブリュッセルに次ぐベルギー第2の都市アントワープ。15世紀以降、外国商人が行き交ったこの港町は、国際色豊かで、さまざまな異国文化が交流しました。
(c)Antwerp Tourism & Congres

スヘルデ河に面したアントワープは内陸の港町です


16世紀には、文化・芸術の黄金時代を迎えます。その後、宗教紛争に巻き込まれ、美術品は破壊されたり略奪されたりしますが、19世紀後半、再び薫り高い文明都市に戻ります。

こうして、アントワープは、芸術家とそれを育む豊かな市民たちが、舶来のもの、斬新なものを受け入れて新たな文化を生み育てる風土を持ち続けているのです。ここでは、アントワープのシンボルとも言える「ルーベンス」などバロックおよび初期フランドル派を中心に、こぢんまりした美術館や教会を巡りながらご案内します。

まずは美術・博物館から始めましょう。

ルーベンスハウス

(c)Antwerp Tourism & Congres

正面は思いのほかシンプルです

ルーベンスは1610年、大聖堂のある旧市街の中心と城壁との間あたりに2軒の建物を購入し、それぞれ自宅とアトリエとして改装しました。このあたりは、今日、華やかなショッピング街の中心となっている界隈ですが、その建物の正面はとてもシンプル。一人の芸術家というより、多くの弟子や作業人を抱えたアート工房ディレクターとして、また外交官としても隆盛を極めたルーベンスとは思いも寄らないものです。その理由は、当時、アントワープにも多くの運河がめぐらされており、水路に面していたこの家は、道の側から眺めることを想定されていなかったためとか。一方、イタリア・ルネッサンス様式の中庭とバロック様式の柱廊は驚嘆に値します。天才的な構成能力を持ったルーベンスは、画家であるばかりでなく、今日的に言えば、建築家・タンドスケープデザイナーでもあったのです。

街のあちこちで見かけるものです

ルーベンスの肖像画

ルーベンスが亡くなった後、この家は持ち主が次々と変わったため、アントワープ市が入手した頃には、ルーベンスが暮らしていた頃とは似ても似つかぬ状態だったとか。財産目録などの資料をもとに、作品ばかりでなく、古代ギリシャ・ローマの彫刻といったルーベンスのコレクション、所持品が収集され、また、同時代の家具や壁の装飾などが復元されて、当時の価値観や趣味を総合的に見せる博物館となりました。

ルーベンスは、1600年(33才)でイタリアへ渡りますが、ルーベンスハウスのアトリエには、それ以前に描いた作品『アダムとイヴ』も展示されています。ご自身の目で、彼がイタリアで得たものを見極めてみてください。

また、ここでは、アントーン・ヴァン・ダイクやジャック・ヨールダンス、静物画で有名なスネイデルスなど、ルーベンスと同時代の他の画家や彫刻家の作品も見ることができます。

<DATA>
Rubenshuis (ルーベンスハウス)
住所:Wapper 9-11, 2000 Antwerpen
TEL:+32 (0)3 201 15 55
入場時間:火~日10:00-17:00(最終入場時間16:30まで)
入場料:大人:8ユーロ、65歳以上・学生:6ユーロ、12歳未満無料
※毎月最終水曜日は無料


ニコラス・ロコックス邸

個人邸美術館でゆっくりと芸術を味わう

当時のブルジョワ層の生活を想わせるロコックス邸

17世紀、市長を9回も務めたというアントワープの名士ニコラス・ロコックス氏。彼は、画家ルーベンスの親しい友人でもあり、パトロンでもありました。そのロコックスが暮らした家を、財産目録を手がかりに修復・再現したのがこの博物館です。芸術作品の鑑賞もさることながら、奥へ奥へと続く家屋やひっそりと美しい中庭を訪れると、当時のブルジョワ階級の住宅やその生活の様子にタイムスリップすることができます。

壁の装飾や調度品は当時を感じさせる

室内の様子

アントワープ王立美術館が改装中の2017年末まで、初期フランダース派の作品を始め、所蔵作品の一部が、ニコラス・ロコックス邸に展示されています。王立美術館に比べ、こぢんまりとして、訪れる人もそれほど多くないロコックス邸。この機会にゆっくりと鑑賞するのもよいでしょう。

日本の方々にはまだよく知られていない初期フランダース派ですが、美術史上避けては通れない重要な役割を果たしたとされています。油絵の技術を確立させたのも、オーク材のパネルを使用し始めたのも初期フランダース派。さらに、キリスト教の諸聖人を、当時のブルジョワ階級の生活空間に描き始めたのも彼らとされています。

<DATA>
Rockoxhuis (ニコラス・ロコックス邸)
住所:Keiserstraat 12, 2000 Antwerpen
TEL:+32 (0)3 201 92 50
入場日時:火~日10:00-17:00
入場料金:大人6ユーロ(2014年11月8日より8ユーロ)、グループ(12人以上)・65歳以上4ユーロ(2014年11月8日より6ユーロ)・19歳~26歳未満1ユーロ、18歳まで無料
※毎月最終水曜日は無料


マイエル=ヴァン=デン=ベルグ美術館

ブリューゲルのオリジナル作品所蔵

美術コレクターの私邸博物館

マイエル=ヴァン=デン=ベルグ美術館は、19世紀を生きたフリッツ・マイエル=ヴァン=デン=ベルグのコレクションをもとにしたものです。まだあまり多くの人がゴチック芸術に注目しなかった当時、それに夢中になったフリッツ氏。この美術館には、彼が集めたさまざまな分野の芸術作品が置かれています。彼の夢は、ゴチック時代のような家を建て、それを私設博物館にすることでした。ですから、暖炉や梁といった建築材料までも集めたのです。フリッツ氏は、落馬事故という思いがけない出来事で若くして亡くなってしまうのですが、母親のヘンリエッテが息子の遺志を継ぎ、この美術館を作り上げました。

ここは、ベルギーのフランダース地方では唯一、ピーター・ブリューゲルのオリジナル作品を所持する美術館です。その作品の名は日本語では『狂女フリート』と訳されていますが、フリッツ・マイエル=ヴァン=デン=ベルグは、まだ誰も関心を寄せていなかったピーター・ブリューゲルに注目した唯一のコレクターと言われています。日本では、アニメ「千と千尋」にインスピレーションを与えた作品としても知られていますが、16世紀、まだ重々しい宗教題材が芸術の主流だった時代に、今に通じる奇想天外なモチーフを描く画家一族を輩出したことは、今日にも通じるベルギー人気質の片鱗を見るように感じてしまうのは筆者だけでしょうか。この作品以外にも、ブリューゲル一族と弟子たちが描いた作品やその時代に作成された多くの模写作品が所蔵されていますが、『狂女フリート』だけは、コピー作品が存在しないのもユニークな点とされています。見るものの目を釘付けにするほど奇妙なこの絵を、誰にも邪魔されずに思う存分眺められるのも、小さな美術館の醍醐味です。

<DATA>
Museum Mayer van den Bergh(マイエル=ヴァン=デン=ベルグ美術館)
住所:Lange Gasthuisstraat 19, 2000 Antwerpen
TEL:+32 (0)3 338 81 88
入場日時:火~日10:00-17:00
入場料:大人8ユーロ、12歳~26歳・65歳以上6ユーロ、12歳未満無料(いずれも常設展示)
※特設展示があると、入場料金が異なる場合もあります。
毎月最終水曜日は無料


さて、次のページでは、美術館と言いたくなる教会の数々も巡ってみましょう。アントワープでは、教会の中にも驚くほどの芸術作品があり、さながら美術館のようです。歴史と文化に裏打ちされたこうした教会を訪れると、この街の豊かさを思わずにはいられません。特に、ルーベンスはアントワープのシンボルとも言える存在なので、ここではルーベンスにゆかりのある4つの教会をご紹介します。それは、ルーベンスの大作3点が飾られている聖母大聖堂、彼とその家族のお墓のある聖ヤコブ教会、彼が建築家として関わった聖カロルス・ボロメウス教会、そしてルーベンスらの描いた作品が当時とそのままの状態で置かれている聖パウロ教会です。