目にもとまらぬシングルストローク! 超絶テクニックの大御所ドラム奏者 バディ・リッチ

 

Tuff Dude

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「タフ・デュード」より「ドナ・リー」

日本では、それほどではありませんが、本国アメリカでは、大スターのドラム奏者がバディ・リッチです。バディは、その豪放且つ繊細なテクニックで、すさまじい勢いでスウィングするドラム奏者です。

スウィング期からモダン期、フュージョン期までの長い間、自身のビッグバンドを率いて第一線で活躍した超大物ドラマー&バンドマスターと言えます。

日本にも、自身のバンドで何度か来日しています。そのテクニックを目の当たりにした日本人のミュージシャンの間では、ジャズドラマー・バディ最強伝説が語られているほどに、強烈な印象を残したようです。

この話は、その何回目かの来日の時に、楽屋で起こった驚異的な出来事です。

楽屋に訪れた、日本人の若いミュージシャンに対して、長年のバンドマスターらしく、鷹揚に接していたバディ。あまりに皆がすごいすごいと称えるので、さらに気をよくし、周りのミュージシャンを集めてこう言ったそうです。

「よしお前ら、今からすごいもの見せてやる。」こう言い放ったバディはポケットからコインを取り出すと、持っていた左手のスティックで壁にコインを押し付けました。「いいか、見てろよ」

ダダダダダダダ!

何が起こるのかと思ってみていた周りの若い日本のミュージシャンは、驚きそしてあきれてしまったそうです。なんとバディは両手のスティックで壁のコインを連打。

バディのシングルストロークの間中コインは床に落ちることなく、壁に縫い付けられたように張り付いていたそうです。

「同じこと、できるやつは出てこい。…いないだろ。いいか、このくらい練習するんだぞ。」バディは、ガキ大将のように胸を張り、このイラストジャケットにあるように特徴的な少しひきつった笑みを浮かべたそうです。

この話には、実は左手1本でコインを縫いとめたなどと言う噂もあります。それは真偽のほどははっきりとしませんが、大げさな話が大好きなジャズメンの中で、都市伝説化した内容でしょう。

それでも、そのくらいバディのスティックさばきは正確で、速かったということは事実のようです。そして、集まった日本の若いミュージシャンの心に、バディの偉大さを残したということは間違いがありません。

このアルバム「タフ・デュード」では、そんなバディの至芸が、割合小編成で楽しめるような趣向になっています。この「ドナ・リー」はご存知ジャズの帝王マイルス・デイヴィスの若き日の作品。親父同然だったジャズ界の巨星チャーリー・パーカーのフレージングをもとに作曲したと言われる曲です。

ここでは、テナーサックスのサル・ニスティコをフィーチャーし、聴きごたえのある演奏になっています。サルは、実力の割には華々しいシーンとは無縁に終わったミュージシャンです。吹き込みも多くなく、それだけに貴重な演奏となっています。

ここでは、艶と粘りのある音色でよどみのないフレーズをスウィンギーに展開しています。テナーサックス界においてもその実力を知らしめた演奏と言ってよいでしょう。世渡り下手と早逝が悔やまれるミュージシャンの一人です。

この録音は他には、エレキベースのアンソニー・ジャクソンやピアノのケニー・バロン、通好みのギター、ジャック・ウィルキンスなどが参加し、顔ぶれの面白さでも楽しめる内容になっています。

最後のテーマに合わせて、難なくドラムを叩くバディの顔には、きっとあの時日本の若いミュージシャンに見せたあの笑みが浮かんでいたことでしょう。

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