しかし、ジャズの魅力は、もちろんスタンダードナンバーばかりではありません。ジャズメンが、自己表現のために知識や感性を振り絞って書き上げたオリジナルの曲にも、名曲は沢山あります。
今回は、そんなジャズメンオリジナルの名曲を下記の3つのタイプに分けてご紹介します。
- タイプ1 作曲者本人の決定盤と、ほかの人の名演があるタイプ
- タイプ2 作曲者本人よりも、ほかの人の方が名演があるタイプ
- タイプ3 作曲者の演奏の印象が強すぎてほかの人がやれないタイプ
タイプ1 ピアノ奏者&作曲家 セロニアス・モンク 「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」「セロニアス・ヒムセルフ」より
セロニアス・ヒムセルフ+1
セロニアス・モンクは、1917年生まれ。1940年代初めに、モダン・ジャズの始まり「ビ・バップ」発祥の地としても有名な、伝説の「ミントンズ・プレイハウス」のハウスピアニストでした。
当然「ビ・バップ」形成の中心人物の一人です。しかし、そのあまりにも個性的な楽想は、ビ・バップという範疇だけでは収まらない、モンクス・ミュージックとしか呼びようのない独自の世界でした。
モンクは、多くのオリジナルを作曲し、自分で演奏しました。その多くは、作曲者本人の演奏が決定盤となっています。この「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」も何回となく取り上げ、そのたびに名演を残している代表曲です。
その都度、トリオ(三人)であったり、カルテット(四人)であったり、編成を変えて録音しています。しかし、一番この曲の持つ独特の雰囲気をとらえているのが、作曲者であるモンクだけで他の人が介在しない、ソロピアノによるものです。
最初の「ソロ・オン・ヴォーグ」を始め、ソロにおいても何回も取り上げていますが、やはり一番際立っているのが「セロニアス・ヒムセルフ」によるものです。
このアルバム全編を通してモンクは、一定のリズムをキープするのではなく、彼独自のリズム感でルバート(テンポを一定ではなくどんどん変えて)のように演奏しています。ある時はタイムが伸び、縮み、止まる、といった独自の表現方法で曲の世界を構築しています。
その独特のタイム感や間が、味のあるところでもあり、好き嫌いの分かれるところでもあります。確かに聴き始めは、あまりにも不思議な世界に戸惑ってしまいますが、聴いているうちにハマってしまうという魅力を持っています。
このCDには、ボーナストラックとして「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」の録音風景を、そのままテープを回して録っているものがついています。モンクが一度は作曲という形で築いた自分の音世界を、アドリブという作業でどのように再構築していくのかのプロセスがわかり、興味深いものになっています。
演奏中にダンスをしたり、夜中に徘徊するなどの奇行で知られ、おかしな帽子を好み、風貌も独特なモンク。その曲調も、一聴風変わりなものが数多くあります。
その中にあって、「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」は例外的にわかりやすく、一般にも受け入れられやすい美しいメロディを持っています。ほかのミュージシャンにも多く取り上げられ、アバウトを取り「ラウンド・ミッドナイト」として歌詞をつけて歌にもなりました。
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そんな色々なミュージシャンによって、新しい命を与えられた名曲「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」には、モンク以外にも名演がたくさんあります。中でも白眉なのがトランペットの帝王、マイルス・デイヴィスによるものです。
マイルスも、この特徴のある曲を何度も取り上げ、自身の大きな飛躍となったメジャーレーベル(大資本のレコード会社、コロンビア)への足がかりとしました。その演奏がコチラ!
ラウンド・アバウト・ミッドナイト
この演奏は、マイルスのミュートプレイの極みともいうべき出来ですが、テーマの最後に、物議を醸しだした有名なアレンジがあります。
人によっては「真夜中のニューヨークの孤独に浸っていたはずが、突然ファンファーレのようなけたたましい音が鳴り響き、雰囲気をぶち壊しにしてしまう」というものです。
色々な方がそれぞれに意見を言っていますが、私にはこのアレンジが、映画のワンシーンのように映像的に情景が浮かぶ非常に秀逸なアレンジに思えます。
出だしから、男があてもなく真夜中の摩天楼の下を徘徊しているシーンが想像できます。コートの背中を丸め、凍てつく寒さの中、口から白い息を吐く。時折り摩天楼の隙間から見える冷たく青黒い夜空を眺め、大きな男はただひたすらに漂うように歩いているようです。
そして、問題のトランペットの音がファンファーレのように鳴り響く場面です。この時男は、雑居ビルの階段を降り、冷たくかじかんだ手で地下の重い扉を開けたのです。
そこは、真夜中でも熱気にあふれるJAZZのライブハウス。男が扉を開けた瞬間に、トランペットとサックスの熱い音が、冷たい外気を切り裂くように空間に飛び出したのです。
そして男が目をやったステージでは、今まさにハードボイルドなテナーサックスが熱いソロを取り始めます。テナー奏者ジョン・コルトレーンによる有名なソロパート。ここではじめて、その男、セロニアス・モンクの顔に笑顔が浮かびます。
私は、この演奏を聴くたびに、この映画のワンシーンのような光景が浮かんできます。皆さんは、どのようにお感じでしょうか?
次のページは、ご本人よりもほかの人の方が上手に演奏しているちょっと残念なケースのご紹介です!
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