大胆さと繊細さが、高次元に共存!
Ann.の紳士靴は、まずは短靴のレースアップ(内羽根式・外羽根式)の短靴とローファーのようなスリッポンから受注を始めています。ダブルモンクのようなストラップ系のものは好みのバックルが見つかり次第追加予定とのことで、ラインナップを徐々に広げて行く戦法のようです。価格はシューツリー込みで29万7000円(27万5000円+税)~で、アッパーの素材に応じて価格が変動するとのことです。例えばブローギングやメダリオンなど装飾の多いフルブローグだと、追加料金が必要なビスポークメゾンが多いのですが……。「例えばプレーントウのようなシンプルなものと、フルブローグのようなものとでは、『難しさの方向』が異なるんです。確かに後者の方が時間的には手間が掛るのですが、前者の方が美しく作るのには、遥かに神経を使います。なので価格は同じにしました」。西山氏が理由をそう語ってくれて飯野がふと思い出したのは、例えばお礼とかお詫びとかで、毛筆とまでは行かないものの万年筆とかで手紙を清書せねばならない時のことです。画数が多い漢字のような複雑な文字ほど、書くこと自体は面倒なものの、その分バランスを調整できるポイントも多くなるので、カッコ良く見せるのは実は意外に簡単なのです。
西山氏が「べべルドウェストよりもこちらの方が、『美しく仕上げる』難しさを感じる時があります」と語るスクエアウェスト。書道ではないですが、その線には迷いや滲みを一切感じさせません。出し縫い糸を隠す目付の入れ方も丁寧そのものです。
反対に書く際に最も緊張を強いられるのが、「一」のような単純な字。大きさ・太さ・トメ・ハネ・ハライの最善を僅か一画のみに凝縮しなくてはいけないからです。靴作りも同様に、木型の形状だけでなくクロージングや底付けの技量など、単純なデザインなものほど誤魔化しが効かない、隠せないと言う事か…… そんなことを考えつつブランド名がどうして”Ann.”なのかを西山氏に尋ねてみたら、なんと若い頃習っていた書道の師匠の名をいただいたものだそうで、まあ何たる偶然! 楷書と言うより勢いのある隷書に通じる、大胆にして繊細な気風を彼の紳士靴からは感じます。
「師匠からは、それこそノーフォークの森の中で倒木から木型用の木材を切り出すレベルから習ったんですよ(笑)! その一方で、迷ったらサンドペーパーを木型にかけながら最適解をじーっと突き詰めた上で最後は一気に仕上げて行くとか…… 創造の際のストイシズムの大切さは、書道も靴作りも同じなのだと気付かせてくれたのは何よりも嬉しかったです」と快活に話す西山氏。作品も人物も、これは大物になる予感がします!
関西圏以外の方でも、飾り物でない本物のしかも高度な「実用の美」を紳士靴に求めたい方、是非ともA&Aのアトリエを訪ねてみてください。旅費かける価値は絶対にあると思いますので!
【店舗紹介】
A&A
住所: 〒530-0015 大阪市北区中崎西1-2-6 2階
E-MAIL:shoes@workshop-aanda.com
HP: Ann.
【商品紹介】
Ann. -Bespoke Shoes-
価格: 29万7000円~(税込。シューツリー込)
モデル: 当面はレースアップ(内羽根式・外羽根式)とスリッポン。他の靴も順次追加予定。
納期: 約6か月