メンタルヘルス/その他の心の病気

記憶が抜け落ちる・記憶が飛ぶ…短期記憶喪失の原因は心の病気?

【医師が解説】記憶が抜け落ちることはありませんか? カギを置いた場所が思い出せないといった日常的な健忘は誰にでもありますが、短期間の記憶が飛ぶような物忘れが多くなってきた場合、うつ病や解離性同一性障害などの心の不調の症状であることも少なくありません。記憶が曖昧になる・記憶が飛ぶ・途切れる原因として考えられる心の病気について、わかりやすく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

記憶が抜ける・途切れるのは心の病気? チェックすべきポイントは

記憶が抜ける・記憶が飛ぶ

ド忘れは誰にでもあることですが、記憶が抜け落ちるだけでなく、睡眠障害や集中力の低下などが見られる場合、注意が必要です

やろうとしていた事をつい忘れてしまった事はありませんか? 例えば出勤前に投函するはずだった封筒がカバンの中に入ったままで、夜帰宅してから気づいた、といったことは、誰にでも経験があることだと思います。

こうした「健忘(けんぼう)」の多くは日常範囲の現象ですが、時として、よくある事とは言えない記憶の問題もあります。心の病気や薬物の影響も考えられる記憶の問題について解説します。  

<目次>  

ストレス・疲れも原因に…用事を忘れてしまう「短期記憶喪失」

物事を記憶し、必要に応じて記憶していた内容を取り出すことは脳の重要な役目。記憶に携わる脳内の部位としては海馬が有名です。海馬の語源は、その部位がタツノオトシゴのような形状をしている事ですが、例えば悪性腫瘍あるいは外傷のために海馬の機能が損傷されれば、深刻な記憶障害が現われる可能性もあります。でも冒頭の例程度の物忘れであれば、海馬の損傷を気にする必要はないでしょう。

ところでポストに封筒を入れ忘れたことは、記憶の分類では短期記憶の喪失です。こうした事は疲れている時や気持ちが落ち込んでいる時、程度の差はありますが起こりやすくなります。物忘れが多い時、こうした精神症状の有無は是非チェックしたいところです。

一方、幼少時の記憶、例えば両親に連れていってもらったデパートで食べたお子様ランチ……といった懐かしい記憶は大人になったあともずっと心に残っていたりします。これは記憶の分類では長期記憶で、認知症においてもその初期段階では長期記憶は比較的保たれている事が少なくありません。

しかし長期記憶の内容は必ずしも事実と一致しないこともあります。例えば学生時代、英語のテストで自分はいつも90点以上で、友達は50点以下で辛そうだった……と記憶していても、実際にはその逆が真実だったりします。もし同窓会などで旧友と再会した際は自分の長期記憶に改ざんがないかどうか是非チェックしてみたいところです。
 

物忘れの増加は「うつ病」などの心の病気が原因のことも

もしこうした物忘れが最近、急に増えてきたら心の状態をしっかりチェックしたいところです。例えば最近イライラしやすかったり、あるいは何かショックな事が起きて心が動揺していれば、つい何かを忘れてしまうかもしれません。

実際、心の不調は記憶力が低下する大きな原因の一つです。さらに、心の病気でも、記憶力の低下は現われやすい症状です。

例えば、うつ病では記憶力の低下は現れやすい症状の一つです。それは場合によってはあたかも認知症のように見えることもあります。例えば60代以上の方が急に口数が少なくなり、短期記憶に障害が現われれば、周囲の方は年齢のせい、あるいは認知症の症状と勘違いする可能性もあります。でも実は記憶障害はうつ病の症状として現われているのであり、それは基本的には精神科的治療によって元に戻ります。
 

記憶がすっぽり抜け落ちてしまう「解離性同一性障害」

人によっては時に思い切りボーっとしてしまう事もあるかもしれません。もしその最中、不意に誰かから肩を叩かれ我に返ると、それまでいったい何を考えていたかを思い出せなくなるかもしれません。でも実は週末、素敵な誰かと楽しく過ごす白昼夢にふけっていて、肩を叩かれハッと我に返った際、その間の記憶が抜けた可能性もあるかも……。

ボーっとなった状態は精神医学の用語で「解離」と呼ばれます。もしも解離が日常的なレベルを超えて解離性障害のレベルになれば、記憶がすっぽり抜ける時間がはっきり現われてきます。

また、いわゆる多重人格も解離性障害の範疇に入ります。多重人格の正式な病名は解離性同一性障害です。解離性同一性障害では、心が解離していた時に別の人格が出現しますが、元の自分に戻ると、その間の記憶はないものです。

解離性同一性障害は稀な疾患ではありますが、もしも自分に記憶が抜けている時間があり、なおかつ見知らぬ誰かから親しげに呼びかけられるような事が続けば、その相手は別の人格が良く知っている人物かも知れず、解離性同一性障害の可能性には注意したいところです。
 

飲み過ぎや薬による記憶喪失? アルコールなどの薬物の影響も

一般に記憶に限らず脳が携わる仕事は、脳に作用する薬物の影響を受けます。例えばアルコールは嗜好品ですが、中枢神経系を抑制する薬物としての側面もあり、過量に飲酒した際起こり得る記憶のブラックアウトは、薬物による記憶障害の代表的な例の一つです。もし過剰に飲酒した翌朝、前の晩の記憶がまるでない場合、それは脳に一時的とはいえダメージが加わった結果です。また服用中の治療薬に中枢神経系に作用するもの、例えば睡眠導入剤などがある場合、記憶に何らかの影響が出る可能性がある事は是非知っておきたい事です。

ところで冒頭の例で、封筒を郵便ポストに入れ忘れた原因自体はさまざま考えられます。まず朝、家を出た時、カバンの中にその封筒が入っている事を意識していなかったかもしれません。例えばスマホに夢中になっていたり……。あるいは朝家を出た時には郵便ポストに入れる事を覚えていたのに、歩いているうちに頭は何も考えなくなったのか、郵便ポストを素通りしてしまった……。

こうした事は誰にでも時に起こり得ることです。でも家を出るとき、カギをどこへ置いたかまるで思い出せず、見つけ出すのに30分以上かかった……なんて事態は避けたいものです。もしもそんな時、他の症状「イライラしやすい」「熟睡できていない」などの症状がある場合、心の健康に黄色信号が点っている可能性にはご注意ください。
 
■関連記事
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます