ジャズ界きってのおしどり夫婦 人気ヴォーカリスト ジューン・クリスティとテナーサックス&オーボエ奏者 ボブ・クーパー
1940年代から50年代を代表する女性ヴォーカルの中でも、今でも人気の高い一人がジューン・クリスティです。ジューンがデビューしたのは、白人系の実力派ビッグバンド「スタン・ケントン楽団」でした。ジューンはルックスも気立てもよく、シンガーとしては、通好みの深い低音のヴォイスを持っていました。その上スウィンギーな乗りで、実力を兼ね備えた人気ヴォーカルでした。
そんな可憐なイメージのジューンですが、実は男ばかりの楽団の中でも、際立って強いものがありました。それは、お酒。ほとんどの楽団のメンバーは飲み比べでかなわなかったいう武勇伝の持ち主でもあります。
そんなジューンをリーダーのスタン・ケントンが可愛がったのは言うまでもありません。
Duet
以前ご紹介した、ジューンの代表作「サムシング・クール」のように、ドラマチックなストーリーの歌が得意なジューンですから、この都会的で粋なふられ話「エンジェル・アイズ」も見事に歌いきっています。
エンジェル・アイズはピアノの弾き語りのマット・デニスの代表曲。本来は婚約パーティーを開いて、彼女を自慢しようとした男が彼女の裏切りにあい、すっぽかされたパーティーでみんなに陽気に酒をふるまうという切ない歌です。
それを、女性のジューンが歌うのですから、可哀想で目も当てられない内容の歌唱となっています。ピアノ伴奏のスタンもいつも以上に感情をこめ盛り上げます。
ここでのジューンとスタン2人の、絶妙なコンビネーションを聴くまでもなく、周りの誰もが、ジューンはスタンと結婚するのでは、と思ったそうです。同時期に楽団でプレイしたアルトサックス奏者のアート・ペッパーも自伝で、2人はいい仲だと思ったと書いています。
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そんなスタンを尻目に、ジューンを射止めたのは、同じ楽団の好青年、ボブ・クーパー。ボブは、テナーサックスと当時も今もジャズでは珍しい楽器オーボエ奏者。周りの驚きの中、2人は楽団在中の1946年に結婚し、以後終生を共にしたおしどり夫婦となりました。
Coop! The Music of Bob Cooper
コンファメーションは言わずと知れたチャーリー・パーカーの代表曲。そのアルトサックス奏者の聖典のような曲を、ボブはさらりとテナーサックスで爽やかに演奏しています。
ボブ・クーパーは、レスター・ヤング系のテナーサックスと、ジャズではほとんど使われないオーボエを用い、作曲や編曲も得意なマルチ・プレイヤーです。オーボエの方は、どう聴いてもジャズとはベストマッチとは言いかねますが、テナーサックスでは、同じレスター系の、スタン・ゲッツやズート・シムズ、ビル・パーキンスなどにも通じる、趣味の良いクールなサウンドで好感が持てます。
その上、このクープでのジャケットに見られるように白いワイシャツの似合う好青年ぶり。不良の多いジャズの世界では、珍しく優等生的な風貌とサウンドを持っており、ジューンとの長年のおしどりぶりもさもありなんと言った印象です。
一方ふられた形になった(?)スタン・ケントンは渋い2枚目で、女性関係も華やかでした。しかも最近になって、実の娘とのただならぬ関係もあったというゴシップまで。
ジューンを競った男性2人のジャズ界に及ぼした影響力では、比較にはなりませんが、伴侶としてボブを選んだジューンの眼力は確かだったということかもしれません。
次のページでは、ジャズ界のファースト・レディと彼女を支えた夫君の登場です!
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