浦井健治 81年東京生まれ。00年デビュー、04年に『エリザベート』初出演。06年に『アルジャーノンに花束を』等で第31回菊田一夫演劇賞、09年に『ヘンリー六世』三部作で第44回紀伊國屋演劇賞個人賞、10年に第17回読売演劇大賞杉村春子賞、13年にStarSとして岩谷時子賞奨励賞を受賞。TVドラマ『アオイホノオ』出演中。(C) Marino Matsushima
皇太子という設定に違和感のないルックスと体当たりの演技で、鮮烈な印象を残した東宝版『エリザベート』(04年)のルドルフ。以降、ミュージカル、ストレートプレイを問わず数々の舞台で目覚ましい活躍を見せているのが今回の主人公、浦井健治さんです。
『二都物語』写真提供:東宝演劇部
「モノづくりの姿勢」への共感を胸に、日本版ならではのコメディを
――[タイトル・オブ・ショウ]、まずは台本を読んでの第一印象からお聞かせ下さい。「ミュージカルが大好きな脚本家と作曲家がブロードウェイを目指すというバックステージもので、彼らのどたばたコメディなのですが、“モノづくりの面白さと素敵さ”を追求していく作品だなあ、と最初に思いました。そこに今回は、“福田ワールド”的な面白さも加わっています」
――私も読ませていただきましたが、「これ、本当に言ってしまっていいの?」というようなネタが満載でした(笑)。
「僕ら自身の人間的な関係が、くすっと笑えるような形で浮いてくると二重構造で楽しんでもらえるんじゃないか、というのが福田さんのコンセプトで、4人の関わってきた作品とか環境に触れられるところをとにかくピックアップして、ネタを置いていっている気がします」
――浦井さんなら、あの当たり役とか?
「内緒です(笑)。今の日本のお客様が(例えブロードウェイ・ミュージカルに詳しくなくても)楽しめるようになっていると思います」
――『フル・モンティ』では「これはアドリブ?」と思えるような笑いもありましたが。
「福田さんは基本的に(演出に)アドリブは入れていません。先輩方も、福田さんの台本が面白いのでそれを忠実にやっていらっしゃるのではないでしょうか。とても考えられた“笑い”だと思います。(映像のクリエイターというイメージが強いけれど)福田さんのお話をうかがっていると本当に演劇やミュージカルの知識が豊富で、舞台が大好きなんだなあと思います。そういうところにも共感して、キャストみんなで絶対的な信頼をしてついていっている感じです」
――登場人物はもともと親友という設定。チームワークがとても大事そうですね。
『タイトル・オブ・ショウ』共演の柿澤勇人さんと。
――笑いの絶えない作品ですが、骨子はあくまでミュージカルという“モノづくり”の過程ですね。
「最後のほうに、“100人のお客さまの9番目に好きな作品より、9人のお客様の大好きなものを目指したい”という台詞があります。これにはとても共感しますね。モノづくりの基本であって、自分の中では、作品全体の核はここだと思っています。
例えば、公演の3か月前にチケットを買って、ずっと財布の中にしのばせていたお客様が、当日は半日を割いて劇場に来て下さる。これはとても感謝に値することで、モノづくりをする側は(その観客にとって一番の作品を目指して)誠心誠意やらなければならないと僕は日ごろから思っているので、この作品の思いをうまく伝えられたらと思います」
――劇中、書きたいことが“大人の事情”で変えざるを得ないという、作り手のジレンマも描かれたりしていますね。役者さんである浦井さんも、ふだんそういう様子を見聞きされたりしますか?
「それはクリエイターたちの管轄で、俳優に作品がわたされる段階ではそういったことはクリアされているんです。このくだりを読んで、“そうか、そうやって試行錯誤がいろいろあって作られたものが我々の手元に来ているんだな……と気づいて、一字一句、一音一音の重みや大切さを感じました。何気なくこなしていた自分への反省というか……」
――この役を演じることで、自分でも創作をしてみたいという気持ちは起こっていますか?
「今はプレイヤー(演技者)が楽しいので、考えていません。」
――どんな舞台にしたいと思っていらっしゃいますか?
「“福田ワールド”をみなで泳がせていただいている状況なので、そこを楽しみにしていただけたらと思います。それにちゃんと自分たちが応えられるように、というのと、シアタークリエでこういう作品をというのは今まであまりないことだと思うので、“こういう表現のしかた、こういう(舞台の)楽しみ方もあるんだ!”と思っていただけたらと思います。かなりチャレンジングな舞台だと思うので、僕ら自身、どんなことになるか楽しみですね」