ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.14 浦井健治、“鮮度”の理由(2ページ目)

当たり役となった『エリザベート』のルドルフを2004年から5度にわたって演じ、以降も多数のミュージカル、ストレートプレイで活躍中の浦井健治さん。30代に入ってぐっと役の幅を広げている彼が目下取り組んでいるのが、ユニークなミュージカル[タイトル・オブ・ショウ]です。充実の時を送る彼が今、志すものとは?*観劇レポートを追記しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


数珠つなぎの縁に導かれ、舞台の魅力にとりつかれて

『エリザベート』写真提供:東宝演劇部

『エリザベート』写真提供:東宝演劇部

――ここからは、浦井さんのこれまでの道のりについて伺わせてください。まず、そもそも芸能界を目指したきっかけからお話しいただけますか?

「はい。高校生の時に、ダンスのレッスンに通ったり、軽音楽部でボーカルをやったりといろいろなことをやっていたんです。ダンスの先生に“君は何がしたいの?”と軽く言われたのがきっかけで、卒業後に今の事務所の方々と出会うことになり、そこからですね」

――テレビでデビューされた浦井さんが、なぜ舞台俳優に?

「デビューは『仮面ライダークウガ』で、オダギリジョーさんに敵対する悪の首領役だったんですが、その現場のチームワークがとてもよかったんです。雪山で殴り合うシーンのロケが、髪の毛につららができるほどの寒さだったんですが、ロケバスの運転手さんも自腹で缶コーヒーを買ってきて僕の首にあててくれたりと、現場が一体になっていたんですね。お芝居ってなんて素敵なんだろうと、まずは“演じること”の魅力にとりつかれました。

次に出演したのが、『美少女戦士セーラームーン』のファン感謝イベントで、初めて舞台に立ったんですが、セーラームーンって熱狂的なファンの方が多くて緊張していたけれど、歌った直後に“浦井のタキシード仮面、いいんじゃない?”と温かい拍手をいただいて、舞台に迎え入れていただけたと感じたんですね。一回一回消えてしまう舞台のかけがえのなさ。お客さまとのコミュニケーションができる舞台って素敵だな、と思って舞台にのめりこんでいったところに、『エリザベート』との出会いがありました。

小池修一郎先生はじめスタッフの方々、共演者の方々との出会いがあり、肉体改造に近いほど、ミュージカルではこういう風に声を出すんだと発声を変えていただいて……。その後もいろいろな出会いがあって、“浦井にこれをやらせてみたい”と思って下さる方がいらっしゃることで次につながっていき、数珠つなぎで今に至るという感じです。人の縁というものに感謝していますし、同時に、やればやるほど自分の中で欲が出てきています。もっとこういうふうに歌唱レベルを上げたいというのもあるし、目の前ですごいプレイヤーの方がいらっしゃると“どうやってそういうすごい演技ができるんだ”と一回へこむんですけど、なんとか吸収できるように、真似てみたり、ワークショップに行ってみたり、資料を読んでみたり……ということの連続です」

――役者さんとして健康的な成長をされているのですね。

「どうでしょうか。健康的であるなら嬉しいです(笑)」

――若い方、特にイケメン系ともなると、ブラウン管のほうがすぐに有名になれると意識しがちかと思いますが、そういう方向には行かなかったのですね。

「行かなかったですね。ただ、福田さん演出のドラマ『新解釈・日本史』『アオイホノオ』に呼んでいただいたりすると、こちらも面白くて、これからは演技をする者として、映像もやっていきたいなという気持ちはあります」

――ご自身の中で転機となった作品は、やはり『エリザベート』でしょうか?
『ヘンリー六世』撮影:谷古宇正彦、提供:新国立劇場

『ヘンリー六世』撮影:谷古宇正彦、提供:新国立劇場

「それと(タイトルロールを演じた)シェイクスピアの『ヘンリー六世』ですね。9時間半の大作で、文学座、青年座、演劇集団・円の方々などがいらっしゃる中に入れていただき、大きな経験でした」

――日本の演劇界は新劇や新派のほかに、歌舞伎等の伝統芸能もあって、演劇メソッドという点では非常にバラエティがありますよね。海外に比べても非常に豊かな表現世界だと思います。

「『ヘンリー六世』のすぐ後が劇団☆新感線のお芝居だったんですが、そこで古田(新太)さん、(橋本)じゅんさんたちの演技をみて、“最高!”と。本当に日本には多様なお芝居がありますね。歌舞伎の世界にも同世代の友達が何人かいて、そういった方々と接していると、子供のころからやっているから所作一つ違うし、伝統芸能って素敵だなと思えます。無駄が無く(洗練されているし)、その時代、その時代を映す鏡であり続けたんですよね。学ぶことは多いです。ただエンタテインメントとして楽しめるだけでなく、それを通して学びが出来るというのは理想的で、まだまだ舞台には無限の可能性が秘められている、と思います。だからこそ、創作より今は演じることにのめりこんでいるのかもしれません。

もう一つ、僕の中で転機になった作品が、初の主演作として8年前に初演した『アルジャーノンに花束を』です。荻田浩一さんの演出のもと、安寿(ミラ)さん、宮川(浩)さんはじめたくさんの人に支えられて座長が務められたのも、いい経験だったなと思っています。
『アルジャーノンに花束を』2006年博品館劇場にて。

『アルジャーノンに花束を』2006年博品館劇場にて。

これは、ネズミの知能を高くする実験をして成功した研究者たちが次は人体実験をしようということで、チャーリィ・ゴードンが選ばれるのだけど、途中で結果が見えてしまうという哀しいお話です。「賢くなりたい」と願うチャーリィをどう演じたらいいか、はじめは頭でっかちに考えていたんですが、役作りをしていた時にある施設に行かせていただいたんですね。“子供たち”と呼ばれる方々のワークショップに参加させていただいたら、皆さん笑顔で、僕に接してくれるんです。最後に“有難う”の意味を込めて歌を歌ったらみんな感動してくれて、“お顔がお花畑になっちゃう”と何度も言っている女の子もいたし、“私、御礼に何かします”とあるドラマを最初から最後まで、一人で演じて見せてくれた方もいました。みんなまっすぐに生きているんです。彼らから、“普通に、友達が欲しくてそのために賢くなりたいと思っている青年を演じればいいんだ”と学びました。人とともに生きる、という人間にとって一番大切なことを求めている人間として、彼を演じようと。それを学べたのは大きかったです。今年、[タイトル・オブ・ショウ]の次の作品がこの『アルジャーノン~』なんですが、以前学んだことをふまえつつ、今までの8年間の経験も投影してやっていけたらと思います」

――あまりにも違う作風で、切り替えが大変ですね。

「今年は、台本がどんどん増えていくんですよ(笑)。ありがたいことです。『シャーロックホームズ~』で幕開けして、(ストレートプレイの)『ビッグ・フェラー』をやり、StarSとしてオリンピックコンサートに出演させて頂き、先ほどお話した福田さんのドラマ2本があり、今回の[タイトル・オブ・ショウ]と『アルジャーノン~』があって、その後、新国立劇場で鈴木杏さんとの二人芝居があります。本当に恵まれているなと有り難く思います」

――いずれも台詞や歌詞のボリュームがある作品とあって、記憶力が試されますね。

「そうですね。でも、人間の脳ってやればやるほど慣らされていくようで。今、学生の皆さんたちには、学生時代に“覚える”という学習を怠らなければ後々、楽ですよと言いたいです。僕は怠った時期があるのでそのしっぺ返しがあって(笑)、“あのときにやっておけばな~”と思います。癖づけを脳にしていると、反復というか、覚えやすくなるらしいんです」

――では今年たくさん訓練するので、来年は楽になりますね。

「そう簡単にはならないと思います(笑)」

――浦井さんの財産として、ストレートプレイ経験の豊富さがあるかと思いますが、これは意図的なものですか?

「そうですね、ミュージカルには絶対的な音楽の魅力があって、それがのめりこんだきっかけだったんですが、やはりミュージカルもお芝居だと思うんです。ある程度のテクニックをクリアした上で、最後にお客様に共感していただけるかどうかは、お芝居の延長線上で歌えるかどうかだと思ったので、そこを突き詰めてみたかったんです。ストレートプレイにも取り組むことで、その面白さもどんどん感じるようになってきました。

最近、同世代の俳優たちと“ジャンルの垣根が無くなってきたら理想だね”と話しています。お客様の中には、特定のジャンルしかご覧にならないという方もいらっしゃるとは思いますが、ミュージカルだけが好きな方が、僕らが出ることでストレートプレイも観に来て下さり、演劇も面白いじゃないかと思って下さったり。逆に、ミュージカルは苦手という方が、ストレートプレイで活躍している俳優が出ているのでミュージカルも観てみようと思って下さって、“これはこれで面白い”と感じていただけたら素敵だな、と」

――井上芳雄さん、山崎育三郎さんと結成したボーカルユニットStarSも、そういう活動の一つなのでしょうか。

「“ミュージカル普及活動”的なことができたら、と井上さん、山崎くんと始めたんです。一人でやるより、三人集まることで注目していただける機会が増えたらと。結果的に、日本武道館でコンサートが出来て、1万人強のお客様に包まれた体験はとても大きいものになって、お客様のこの愛にどうお応えできるだろうと思ったし、これだけの人々に応援していただいていることで自分たちは舞台に立てているんだと実感できましたし、“もっと頑張れ” という意味合いだと思いますが、岩谷時子賞奨励賞もいただけました」

――既に武道館という大きな目標をクリアしてしまいましたが、StarSの次の目標は?

「今のところ、何も決まっていません(笑)。でも、こうしたいねというのはあるし、三者三様でいろんな現場にかかわっているので、その経験を生かしながら今後また組んでいくのも面白いと思います」

――では、役者・浦井健治さんとしての今後のビジョンをお教えください。

「基本的には今までのスタンスと変わらず、マイペースかもしれませんが自分なりに演劇に関わっていきたいですね。多くの方々とお会いして、“浦井にこういうものをやらせてみたい”と思っていただける環境が続くように、役者としての鮮度がちゃんと保てるよう、常に自分に厳しく、前を向いて歩いていけたらなと思っています。

それと同時に、僕は今、32歳なんですが、“30代”がかなり楽しいので、それを謳歌できる役者でありたいですね。役の幅を広げたり、自分の色をちょっとずつ模索して、広げるところは広げ、固めるところは固め、というふうにやっていって、40代になったらそれもとっぱらって、素の自分でどんといられる。(飾らずに)すっといられる役者という目標を掲げて、30代は試行錯誤をしていけたらと思います」

*****

謙虚なトークの中に覗く、貪欲な吸収欲と積み重ねてきたものへの自負。いつまでも「好青年」、ややもすると少年のような清新さの漂う浦井さんですが、こうした向上心と行動力があればこそ、ミュージカル、ストレートプレイを問わず「求められる役者」としての地位を確立していらしたのでしょう。そんな彼自身の「今」と「これまで」が投影された[タイトル・オブ・ショウ]、かなり面白い仕上がりが期待できそうです。

*公演情報*
タイトル・オブ・ショウ]2014年8月1~11日=シアタークリエ 8月12日=名鉄ホール 8月14日=サンケイホールブリーゼ

*次ページで『タイトル・オブ・ショウ』歌劇レポートを掲載しました*

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