庭の柿の木をSNSでシェア
登壇した松村秀一・東大院教授
「我々の世代は幼少の頃は庭付き戸建に、学生の頃は木賃アパートに、今は都会のマンションなど様々な住宅形態を経験している。しかし今の一次取得層である若年層は生まれた時からマンション世代だ。それを悲観しているのでなく、例えば我々からみると当たり前の『庭に柿がなっている風景』も、彼らからみるととても楽しくノスタルジックに映る」
「それをフェイスブックなどソーシャルネットワークで『こんな楽しい発見があった』とあげれば、それがネット上で再評価され拡散していく。これは面白いと思う。彼らは僕らよりはるかに生活を楽しもうとする精神をもっていると思う」(松村教授)
登壇した高田・京大院教授
「古い木造住宅、例えばふつうの茶の間で壁はボロボロ砂が落ちてくるような古い家が、彼らにとってはとてもノスタルジックなワンダーランドになるんだと驚いたことがあった。我々住宅業界やプロの世界では、真新しいピカピカの家がいいと勝手に思い込んで、その価値観を押し付けているのだが、これを見直す時に来ている。人口も家族世帯も減って、年収700万の夫婦+子ども1-2人のためのハコをたくさんつくるという発想ではなく、1つだけの古い家の味に共感してもらえる人が1人いればOK、という発想に転換すべきではないか」(松村教授)
工務店は地域ビジネスの拠点に
「今のお二人の話を伺っていると、従来の、若い夫婦が大きな住宅ローンを生涯背負って新築を建てる…といったイメージではなく、もっと軽やかなイメージがする」(大久保氏)
司会の大久保恭子氏
「これから新築は確実に減って、新築だけでなくストックの流通や管理、修繕などスモールビジネスだけどワンストップで何でもできる…そんな住宅会社が求められていくと思う。工務店は家を新築せねば、こうあらねば…という既成概念を捨てるべきではないか」
「発想を変えれば、工務店は地域ビジネスの拠点になりうる。先日、大学の女子学生が『地域で何かやりたい』と工務店を志望してきた。彼女が地域でやりたいことは、大企業ではできないことが分かっているのだと思う」(高田教授)
家をゼロから建てる、箱をつくる、売るという発想を変えて、ストックを活用してそこに「場」をつくる、価値をつくってそこから利益を得ていく…という発想は、住宅に限らず車や家具や多くのモノのストックにも言えることではないだろうか。そしてその「場」の主人公は、企業でなく生活者主導になっている気がする。